パラダイス・ロスト ~ニートが天使に就職した結果、天界のゴタゴタに巻き込まれてもう大変~

さくらい

【第1部】 天使編

第1話 ニート、吹き飛ぶ

 俺、赤井司は引きこもりのニートだ。


 きっかけは高校1年の秋。人と話すことが苦手な俺は、クラスの中で存在感を出さず、常に空気でいた。

 しかし、そんな俺が気に喰わなかったのか、ある日、クラスのヤンキー共が俺を虐めてきたのだ。


 最初は教科書を隠された。

 教科書が無くなり、家に忘れたのかなと思い、先生に報告したら、驚いた顔で珍しいねと言われた。

 そして、その日の放課後になってヤンキー共が俺に「ドッキリ大成功」と言い出したもんだから、無視してやった。

 そしたら、


「冷たいなー! そうだ! 明日もやるか!」


 とリーダー格のヤンキーが俺の襟を掴んで言った。

 がははははと下品な笑いを飛ばすクラスメート達。


 そして次の日からいじめがエスカレートした。

 ある時は靴を隠され、ある時は机の中に画鋲を入れられ、殴られ、蹴られ…

 毎日痣だらけになり、ついに耐え難くなった俺は部屋に引きこもった。


 そしてそのまま高校を卒業し、就職先も決まらぬまま5年、こうして部屋のベッドの中で携帯をいじっている。

 最近は2chにハマり、より引きこもり生活に拍車をかけている。


 家族はというと、俺の引きこもりをきっかけに父と母が離婚。母は家を出ていき、父は仕事でいつも夜遅くに帰ってくる。

 最近は知らない女性を家に引き入れていることから、おそらくその人が父の新しい恋人なのだろう。

 引きこもりの息子がいると知ったらどうなるのか…。


 キュルルルル


 ふと俺のお腹が鳴った。

 今はお昼時、父は仕事に行っていて、家には誰もいない。俺はベッドから起き上がり、仕方なくキッチンへと向かった。


「何もないじゃん……」


 冷蔵庫の中は空っぽだった。

 正直、外には出たくなかった。だが、腹が減っては戦はできぬ。今はお腹が空いて仕方が無い。 どこぞの顔の濡れたアンパンの如く、これ以上腹が減っては力が出ない。

 ……はあ、仕方ない。コンビニへ行こう。

 俺は部屋に戻り、眼鏡をかけ、サイフを取って家を出た。


 ドアを開けると眩しい光が目に入ってきた。

 いつもカーテンを締め切った部屋に引きこもっているから、日光を浴びるのは1週間ぶりだ。

 俺はコンビニに向かって歩き出した。


(それにしてもいい天気だ)


 俺は気分が上がってスキップした。

 鼻歌も歌ってやろう。

 フンフーフンフン。お気に入りのアニソンを脳内再生しながら青信号を渡った。



 パアアアアアアアアアア!!!!!




 その時、大音量のクラクションが鳴り響いた。


 何だ? と思い、横を向く。

 俺の眼の前にいたのは、猛スピードを出したトラックだった。

 トラックはブレーキをかけることなく、俺に突っ込んでくる。



(あ、)



 一瞬にして俺の眼鏡は豪快に吹き飛んだ。

 トラックに引かれた眼鏡はタイヤに踏まれ、バリバリと割れる音がする。

 意識が朦朧としてきた。冬でもないのに少し寒い。

 ああ、このまま死ぬんだなあと思いながら空をぼうっと見つめていると、空から白い翼を携えた人間が降りてきた。


 ……ああ、天使が俺を迎えに来たんだ。


 そう思いながら、俺はついに意識を失った。









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