第3話 幽世の護人4

 黄泉月の合図と共に、襖が静かに開くと、そこには幼い二人の少女がいた。

 身形は、胡蝶さん達とは違う。

 どちらかと言えば、黄泉月と近い身形をしている。

(あ……。この子達……)

 静々とこちらに近寄ってきた少女達は、双子だった。

「此奴らの名は、みつねとやみねじゃ。ほれ、挨拶せい」

「初めましてなの、みこと。みつねなの」

「初めましてなの、みこと。やみねなの」

 一見しただけでは正直なところすぐに区別はつかない。

 だがそれぞれが似た装飾品を対照的な位置に点けているお陰で、慣れれば何とか見分けがつけられそうだった。

「宜しくね」

『宜しくお願いしますなの』

 二人はそう言って、床に小さな両手をつくと深々と頭を垂れた。

 慌てて私も同じように倣う。

 二人の動作はズレることなく一心同体。とても礼儀正しくて、可愛らしい。

 そしてその二人が纏う空気は柔らかく穏やかで、どこか小動物的な印象を受けた。

『みこと。一緒に行こうなの』

 そう言うと、みつねとやみねはそれぞれ私の両手を握り締めると、別室に行こうと促す。

「甘い物もあるの」

「しょっぱい物もあるの」

「そ、そうなの?」

 思わず二人の口調に合わせてしまいながら、私は大人しく着いて行った。

「足下、気をつけてなの」

「ギューギュー鳴るのなの」

 細く長い板張りの廊下を三人で歩く。

 二人の歩調は短い。けれどゆっくり歩いてくれているお陰で、足袋に不慣れな私でも板張りで滑ることなく移動することができた。

「ん……」

 刹那、障子の隙間からわずかに漏れた光が目に刺さる。

 気づけば、外は昼間とは言わないものの、明るさを取り戻していた。

「みつねちゃん、やみねちゃん。訊いてもいい?」

「みつねでいいの、なの」

「やみねでいいの、なの」

「そ、そう? なら……二人に訊きたいんだけど。幽世って、あまり明るくならないの?」

「明るく、なの?」

「月の光、なの?」

「ううん。そうじゃなくて……太陽の光、みたいもの」

「幽世は時が傾いでる、なの」

「陽の恩恵も月の加護も、一定ではないの、なの」

『だから〝幽世かくりよ護人もりびと〟様が護ってくれてる、なの』

「〝幽世の護人〟……?」

 また、新しい言葉だ。

 その〝幽世の護人〟様とやらのことを深く聞いてみたい。

 けれど、今の自分では一度に聞いたところで、深く噛み砕いて理解が及ばない気がした。

『あまり急ぎすぎては事をし損じる。それはみことも本意ではあるまい?』

 黄泉月の言葉を思い返す。

 私は私のスピードで、事をこなしていけばいい。

 そう自分に言い聞かせていると、不意に二人が一つの部屋の前で止まった。

 小さな手で、左右に襖を開き、その部屋へと入るとそこはどうやら茶道をする部屋のようだった。テレビなどでは見たことはあるものの、実際に触れる機会の無い道具の数々が、決まった位置にきちんと収まっていた。

「そういえば……。二人の身につけている着物って、どことなく黄泉月の物と似ているのね?」

 茶室の一角に座りながら、私はふと思ったことを呟いた。

「黄泉月様は『方術』のお師様なの」

「厳しいけど優しい御方、なの」

「お師様……? 黄泉月が」

 少し意外に思う。

 二人の年齢も、多分十二歳かそこらだ。そんな二人に教えている『術』とは、いったいどんなものなのだろう。

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