第2話 夜を纏う男はかく語る8
「ほ、んと……に、私っ、死んでる、ッんですか……?」
嗚咽が込み上がるのを抑えられないまま、どうにかならないのかと問う。
不意に、冥一郎さんの指が涙で濡れた頬を滑る。
着物の袖を使い、涙の痕に沿わせるようにして優しく拭われた。
「……黄泉月、もっと言葉をよく選べ」
「否。他に言いようがあるのか?」
「……」
黄泉月さんをひと睨みしてから、小さな吐息を零すと冥一郎さんはそっと私の両手を握りゆっくりと諭すように言葉を紡ぐ。
「正確に言葉を選ぶのなら、まだ完全に死んではいない。今のみことの
ゆっくりと発せられた言葉が、耳朶から身体の内側に浸透していく。
理解できない言葉。理解できない仕組み。理解できない死。
そんな中でも唯一縋るように、もとの世界に戻れるかもしれないという希望に頭を垂れた。
不安定でもいい。もし、本当に生き返られるのだとしたらその方法を模索する。
だって、私は不幸なまま死にたくはない。
幸せになりたい。幸せなまま、最期を迎えたい。
そう、神様にお願いした筈なのだ。あの場所、あの時、あの瞬間。
心の底から願った純粋な想いすら、簡単に打ち砕かれてなるものか。
「戻れる可能性も、あるのね……?」
それがどんな形であれ――選択肢がないまま諦めるより、ずっとマシだ。
彼らが口に出す〝
「
嗚咽を噛み殺しながら、問いかける。
「どうもこうもない。
黄泉月は平然と、恐ろしいことを口走った。
「…………」
私は自分でも気づけないほど、憔悴してしまっていたのだろう。
閉口し俯くことしかできないままでいた私を見かねてか、不意に声が投げかけられた。
「今日のところは一先ずこのくらいにしよう」
「そうか? 延ばした所で、結果は変わらんじゃろう」
さらに言葉を続けようとしていた黄泉月の言葉を、不意に冥一郎さんが制した。
「あまり多くを話しても、みことの負担になるだけだ」
「……。仕方がないのう」
渋々言いながら、それでも意外とあっさり引いた黄泉月を横目に見つつ、私は正座によって痺れていた脚をようやく崩すことができた。
「……疲れさせたか」
「少し……だけ、です」
冥一郎さんと視線を合わせることができない。
自分の置かれた状況。そして――
「……っ」
気づけば、喉がカラカラに渇いていた。無自覚のうちに緊張していたのだろう。
既に冷めたお茶に口付け一息つく。どんな言葉を交わしていけばいいのか。
朝の出来事にはただただ驚くことしかできなかったが、
「冥一郎さん。あの――」
言葉を紡ごうとして、ふと躊躇する。
何を話そう。何を訊こう。自分がどんな言葉を紡ぐことが相応しいのだろう。
「…………」
今どんな言葉を紡いでも、きっと空虚なものになってしまいそうだった。
そんな私の胸中を察したのか、
「……せっかくだ。気分転換でもしようか」
「……はい?」
次の瞬間、フワリと視線の高さが変わった。
「え? あ、の……!」
気づけば、抵抗する間もなく冥一郎さんの手によって抱き上げられていた。
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