シャルルという幼女
「ごめんなさい。まさか本当にへんた、お兄さんが賢者様だったなんて……」
「いいんです。ごしゅじんさまは、たましいの芯からへんたいですから」
所変わって屋敷内。
四つん這いで移動してきたため汚れた衣服を取り替え戻ると、テーブルを囲んで話す二人の声が聞こえた。
「まあまあ。勘違いは誰にでもあるからさ」
そう言ってぼくが席に座るのと入れ替わりにアリスちゃんが席を立つ。
「それではどうぞ、ごゆっくりです」
「あら? どこに行くの?」
「わたしはめいどですから。それに……」
言い淀みながら、アリスちゃんは自身の髪先をきゅっと触る。
この髪色のせいで彼女は今まで理不尽な目に合ってきた。その経験はトラウマとして深く刻まれ、未だにぼく以外の人間に慣れない。
ぼく自身もアリスちゃんが嫌な思いはするくらいならと、客人が来てもすぐ下がって良いよう言ってあるのだ。
しかしフリフリちゃんは不思議そうに首を傾げる。
「メイドだからって遠慮しなくていいの! 私は気にしないわ」
「で、ですが。私のその、髪は……」
「髪? うん、すごく綺麗! お手入れの仕方に秘訣があるのかしら?」
「……ふぇっ?」
意表を突かれて素っ頓狂な声を上げるアリスちゃん。
フリフリちゃんはそんな様子も気にせず、アリスちゃんの手を取ってにこやかに笑った。
「私、同じくらいの子と話すの初めて! だからあなたの事もっと知りたいわ!」
「あの、えっと、……はい」
やや困惑しながらも、席に戻されるアリスちゃん。
……いや、これにはぼくも驚きだ。
アリスちゃんに対する態度は人によって違いはしたものの、こうも好意的な態度を示したのは武器屋のもんもんくらいじゃなかっただろうか。
やはりメスガキに悪い子は居ない……ぼくは静かに涙を流した。良かったねアリスちゃん!
「それじゃあ、改めて紹介するよ。ぼくは賢者のアル。こっちはメイドのアリスちゃん」
ぺこり、と二人で軽く会釈。
「……やっぱり、何かの間違いじゃなかったのね」
「ごめんなさい。こんなしゅじんで」
幼女二人にはどうも通じ合うものがあるようだ。共通の話題の種になれて嬉しいなぁ!
「こほん。私の名前はシャルル・シャロ。気軽にシャルルって呼んで!」
「よろしくね、シャルルちゃん」
「よろしくおねがいします。……んえ? しゃろ?」
アリスちゃんは何か引っかかる所があるのか、少し首を捻る。
でも、今はそれよりどうしてこんな女の子が一人でぼくを探していたのか、何故同志たちを襲ったのかが知りたい。
そう質問を投げ掛けると、シャルルちゃんはごめんなさいと前置きしてから、
「えっとね。賢者様にどうしても聞いてほしいお願いがあって……。
でも、私がその事を人に聞いても誰も教えてくれなかったの。危ないからって……特に冒険者ギルドの、神官のお姉さんが」
危ないから? え、それはどういう?
「へんたいさんですからね」
「うん。今にして思えば、そういう事だったんだと思う」
もしかしてぼくって危険人物扱いされてるの!?
失礼な。確かにちょっと特殊な趣味嗜好かもしれないけど、公衆の面前では出来るだけ爽やかな好青年を演じてきたはずだ。
きっと何かの間違いだ!
「私はどうしても賢者様に会いたくて……。そうしたら町の人から、賢者様は女の子に踏まれて喜ぶへんたいだって話が聞こえたの」
……。
「何かの間違いだと思ったけど、でも、そういう事してたら正義の味方の賢者様が現れるって思って。それで……」
「な、なるほど」
もしかしたらぼくも悪いけど、これはちゃんと取り合わなかったギルドが悪いね!
ちゃんとぼくに取り合ってくれたらすぐ迎えに行ったというのに、何を警戒する必要があったんだろうね!
「それで、おねがいってなんですか?」
「これなの」
そう言ってシャルルちゃんは、町で会った時からずっと大事そうに身に着けていた鞘に入ったままの剣を取り出した。
一度はぼくも手に取ったから分かってはいたけど、これはすごく……重い。しっかりとした剣だ。
アリスちゃんはもちろん、酒場の大人たちだって振り回すのは難しいだろう。
だとしたら、この子は?
「シャルルちゃん。君は一体……」
ぼくが当然の疑問を口にすると一変、シャルルちゃんは真剣な眼差しでぼくたちを見据える。
「……私は勇者シャロの末裔、シャルル。
――賢者様。あなたにこの剣の封印を解いて欲しいの!」
アリスちゃんが椅子からひっくり返る音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます