貴方がいない世界だなんて
曇天の空から光が差し込み、地上を照らす。神によって滅びかけた世界は1人の命によって平和に包まれた。世界は命を捧げた名を知らぬ者に一瞬だけ讃えたが、すぐに生き延びられた幸福感に彼の存在は塗り潰された。ただ彼を覚えて泣いているのは近しい者だけだった。
そして私もその1人であった。
彼の最後の言葉は「君がいない世界なんて意味などない。だから俺が君の代わりになる!」だった。あぁ、なんとも素敵な愛なのだろうと周りの人は思ったのだろう。まるで御伽話の王子のようだと。
でも私は望んでいなかった。初めは彼のために私が死ねばいいと思っていた。だけど彼の言葉で立場は逆転してやっと気がついた。『彼のため』だなんて自己満足でしかないのだと。そして残された側の気持ちなど1ミリも考えていなかったことを。
時は残酷。神はその涙ぐましい物語を見て、すぐに承諾してしまった。私は意見を言えず、あっという間に彼は消え、同時に神もこの地から去った。言いたかった。
「待って、彼だけではなくて私も。」と。
彼と同じで私も彼のいない世界では生きられない。私は物語のヒロインのように強い心はない。だから一緒に行きたかった。彼とずっと一緒に居たかった。彼にも気づいて欲しかった。私の手を取って欲しかった。私も同じ気持ちだよ、と。
でも、もう伝わらない。私の気持ちは。
身辺整理をして、みんなを安心させて、時が経ったら死のう。彼の元へ行こう。彼の命で作られた平和な世界を巡ってからもいいかな。彼の望みを叶えてあげられなくて申し訳ないけど分かってくれるよね。多分彼も同じ気持ちになると思うから。ねぇそうだよね。
『早く会いたいって』
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