第352話 闇より来たれ
三人目は小柄な少年だった。漆黒の
双子姫よりもなお年若く見える彼は、杖ではなく、黒い宝珠をにぎっていた。
「
闇色の宝珠は、その
スケルトン、
ヒクッと結名の喉が鳴る。
時間もある。
「先手必勝!」
ひとり、
「――
同じく冥術陣が広がり、遂にフィールドへ15人目が出現する。
礼服に身を包んだ
「行け」
「――かしこまりました」
その意図を汲み、骸骨執事は手首をひるがえす。出現した銀盆が、即座に
最も俊敏な
「シャンレン、ユーナを下げろ!」
「はい!」
先だっての王家の霊廟で、対グロテスク戦では役立たずと認定されている
案の定、身動きできずに立ち尽くす結名に、地狼と不死鳥幼生がへばりついている。抱きしめることさえできない相手なのが、今回はより一層厳しい。
拓海はその手を取った。
弾かれたように、結名は彼を見る。その身体から、呪縛が解けた。
「――小川くん」
「後ろへ行こう。アルタクスとアデライールは前に、頼めるかな?」
その呼びかけで、拓海も地のままで結名に応えた。すると、その内容を理解できたのか、
「グルゥ」
「キゥゥ」
その鳴き声に、結名は口元をほころばせる。ふたりとも、主を心配しているからこそ、そばを離れられない。それがわかり、彼女はうながした。
「わたしの分も……敵を、討って!」
主の命を喜ばない
不承不承、といった具合に、地狼は結名から身を離して駆け出す。その後を追うように、不死鳥幼生も飛び上がった。
「ぺるぺる、ちょっと飛ばしすぎ。レンくん、ここはいいから前出て。ユーナちゃんはアンタが引き取りなさい」
「はあ?」
「このあと、でかいのが来るに決まってるでしょ。属性付与に徹しなさい。
そう言い放つと、彼女自身は前衛へと回復神術を掛け始める。
痛みがない分、回避を大きめにしているはずだが、それでもやはりHPはあっけなく削られていく。特に、奏多のダメージが大きい。HP自動回復スキルによって、皓星は救われているようなものだ。アイテムさえ使えれば、と苦く思う。
「す、すみません。あの、わたし一人でも大丈夫ですから」
まさか真尋へ抱きつく羽目になるとは思わなかった結名である。身を離した時、その手が伸びた。ポン、と軽く頭を叩かれ、結名は目を瞬く。
「そこにいろ。……まあ、俺もそろそろMP回復に勤しむべきだからな」
悔しそうにつぶやく真尋の声に、
「あ、師匠、魔力譲渡しましょうか?」
「いらん。調整しておけ」
「了解!」
憮然と返された内容に、芽衣は微笑んでうなずく。
必要とされているが、それは今ではない。
唇に
「――
投刃が
「飛ばしていいの?」
「あたしも、MP回復上昇スキル、ありますから!」
受け渡すのではなく、自己回復でカバーできる範囲で敵を削れ。
彼女は正しく、師のことばを受け取っていた。
番えた矢を放つ。雷を帯び、動きを鈍くしている
最前線で繰り広げられる剣舞は、柔と剛の剣によって構成されていた。時折きらきらと光が降り、ふたりに奇跡が届く。戦う相手は頭が半壊したゾンビや腐肉の魔獣だが、その光景は映画のように流れていた。
白い炎の壁が、後衛へと近づくスケルトンを牽制する。それを見て、結名は自身が役立つ方法に思い至る。
「あっ」
「どうした?」
「いえ、あの、アデラに
「あと二戦あるぞ」
訊き返され、素直に答えた結名だったが、
怯え切った青白い表情を見下ろし、紅蓮の魔術師は事実を告げる。
「まだユーナの出番じゃないだけだ。温存しろ」
「ガゥ」
HPが癒されていくさまに、結名は己の価値を思い出した。抱きしめることはできなくても、今なら。ぴったり重なる影に、地狼のほうがおどろきに身をふるわせた。そばにいることで効果を発するスキルだが、触れているだけでも更に効果は上昇する。それが重なることで、回復効果はほぼ倍化しているようだった。究極の
そして、ユーナの持つ従魔系スキルは、他にもあった。
「地霊術、できる?」
【任せて】
地狼の周囲に緑色の霊術陣が広がる。その広さは、アリーナに散ったメンバーを覆うほどだった。次の瞬間、フィールドより無数の杭が生える。一本一本はマルドギールほどだが、それは地狼の制御を受け、確実に敵を屠った。
残るはスケルトンのみ。
結名はマルドギールをかまえた。それを見て、真尋は苦笑を洩らす。
「頼もしいな」
「片づけてきます!」
足取りは軽い。彼女の
この時点で五分とかかっていない。
そして三戦目もまた、終幕を迎えた。
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