第333話 わたしもあなたもここにいる
見知った顔ではあるが、髪型と服装を変えるとだいぶ印象がちがう。
そして、ゲームショウという場所に合わせているのかいないのか、妙に
だが、先に口を開いたのはそちらではなかった。
「おはよう、古賀くん」
「……どうも」
にこやかにあいさつを口にしたのは、同僚の
ただ、見た目的には少しも重なるところはない。
まず、身長。
エスタトゥーアは身長を高く設定しているため、幻界では立っていても普通に肩を並べて視線を合わせることができる。
だが、リアルの日和は自己紹介で「百五十センチありません!」と語るほど低い。まして童顔で可愛い系なので、仕事はできるのだが、初見では百戦錬磨の市民の皆さんに舐められる。よって、窓口に立つ時には必ずスーツを着用し、眼鏡を掛けているという徹底ぶりだ。明るめの茶髪もまとめていることが多いのだが、今日は髪をほどいてゆるふわにしているし、服装もオフィスカジュアルとはほど遠い私服である。もっとも、ゴスロリ系のもう一人に比べるとまだおとなしいものではある。
ため息をつく。
何からどう話せば、と迷う前に、この場をセッティングした首謀者が来た。
「あれ、やっぱり知り合い?」
「同じ職場なんだから、当然でしょ?」
「あはははは、だよねー」
明らかに地だろう。
ふたりの間で交わされる会話が、
「チケット渡しに行った時、ひょっとしたらって思ったんだけど……ダメだった?」
「いいえ、わたくしはとても楽しみにしておりましたよ」
その口調がガラリと変わる。
まなざしすらもが
「あの高名な、紅蓮の魔術師とリアルに会えるんですからね」
「勘弁して下さい……」
頬が熱くなるのを感じ、視線を逸らして片手で頭を抱えた。
「年貢の納め時ね!」
「それちがうからな!?」
他人事と軽く笑い飛ばしている柊子に怒鳴ると、日和はまるで舞台に立つときのように礼をした。パンツスタイルだが、優雅な仕草が一瞬、エスタトゥーアのそれと重なる。
「あらためて。
クラン
声音すらも、普段の彼女のものより一段と低い。
「――え、え、エスタさん!?」
「はい、ユーナさん。あなたを見上げるというのはなかなか新鮮ですね」
上ずった声で呼ぶ女の子に、日和は微笑んだまま振り向く。「メーアかと……」というつぶやきが彼女から漏れ、確かに、と思わずうなずいた。ふわふわな印象と、戦いの時のギャップならば、
「チケットを渡そうと思ったんですが、あの子は仕事らしくて……でも、来ていますよ」
「え、そうなの?」
「はい、仕事ですけどね」
ということは、メーアはスタッフだろうか。
そして、あの時出されていた二枚のチケットのうち、一枚をおそらく所有することになった相手は……今もなお、こちらを見ている。
ここまでの会話でもうバレバレなのだからと、覚悟を決めた。
「で、何でいるんですかね……徳岡さんは」
服装とキャリーケースを見れば、コスプレイヤーだろうと想像はつく。
本人はびくりと身をふるわせ、こちらを見る。そのまなざしが揺れていて、職場でのハキハキとした応対とはあまりにもちがうようすに、コスプレの件は触れないほうがいいかと思った。こちらも、ゲームについて突き詰められると厄介だ。ここはお互い大人の対応であるべきだろう。
よって、念押ししておいた。
「いや、あの……言わないんで」
「えっ」
「そうですね。職場ではヒミツ、ということで」
「あ、はい……」
外部スタッフではあるが、
その中で彼女が残されたということは、それだけ評価が高いと考えられた。実際、よく通る声は窓口に相応しく、応対もスマートで無駄がない。一緒に働いていれば仕事ぶりはよくわかる。
だが、そうした彼女と、
素直にうなずく彼女は、それでも安堵したようすを見せなかった。
ああ、そうかと思いつく。
「着替え、するならどうぞ」
「え?」
「そうでしたね。ユーナさん、ちょっと」
手招きした
「なるほど、目を離すなよ」
「ん? ああ……」
うすいピンクの薔薇柄のワンピースは、彼女によく似合っていた。少し大人びて見える服装だが、服を着ているというよりも着られているように見えるほど、その少し怯えたようすが気にかかる。
シリウスに言うと、曖昧に苦笑してうなずいていた。
「コスプレさえしてしまえば、彼女だとわからなくなるでしょうから……少しは安心かと」
丁寧な口調で切り出したのは、もうひとりの男子だった。
やけに整った見た目が爽やかに笑っている。何だコレはと
「……
「もちろーん♪」
「もうひとりしかいないだろうが!」
「そうですね」
くすくすと笑う高校生男子は、見事な交易商の礼を行なう。右手をにぎり、左手を皿のようにして胸の前で受ける仕草に、正しい解答を得られたと知る。
「シャンレン、こんなに若いって……」
「あ、うん、それは私も思ったわ」
しみじみとうなずく
「では、わたくしたちは準備がありますので、しばしお待ちを」
「んじゃ、ちょっと先にチケットのこと聞いてくるから」
「はい、お願いしますね」
シリウスの提案ににこやかに日和は応じた。だが、ユーナは困惑したまま、こちらを見ている。否、その視線は。
「え、あれ? じゃあ、あの……ソル……?」
恐る恐る口を開いたことばに、彼女へ振り向く。
ゴスロリ系の服装、濃いめの茶髪のツインテール、焦げ茶色の瞳。
そのリップグロスの光る唇が、真一文字に引かれ、解かれた。
「……ユーナのほうが先に気づいちゃうなんて……」
今にも泣きそうなくらい、表情を歪めて。
彼女は――
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