幻界のクロスオーバー
KAYA
序章 広がる世界
第1話 追うモノ追われるモノ
ほんの少しだけ。
閉門の鐘が鳴るより早く、戻らないと。
初心者用の短剣を手に、足を踏み入れた森。
夕暮れの残光が、生い茂った木立の隙間からそこかしこに射していた。
チュートリアルで見かけた魔物はまったくいない。小さな虫とかうさぎとかねずみがいるはずなのに、と周囲を散策しながら、ユーナは進んだ。そもそも、道らしき道も見えない。
本人はあまり意識していないが、彼女が立てている葉擦れの音は相当大きく、静寂に包まれていた森をいろいろと打ち破っていた。
お気軽にレベル上げと、
そろそろ戻って、宿を取ろう。
あきらめて身を翻す……と、木の根につまづき、前のめりに姿勢を崩してしまった。あわてて手近な木に手を置き、難を逃れる。すると、つい一瞬前まで立っていた場所で、何かが空を切った。
鋭い風の音に、びくりと身を震わせ振り向く。
そこに、魔獣はいた。
ユーナを敵と認識して、唸り声をあげている。ユーナの背丈よりわずかに低いだけの魔獣の頭上、彼女の目の前には、はっきりと赤い幻界文字で「
森狼の息遣いが、感じられる。
VR《ヴァーチャル・リアリティ》の生々しさに顔をしかめた。
――だいじょうぶ、当てればいい。
チュートリアルを思い出しながら、ユーナは短剣を勢いよく正面へ突き出す。
森狼は大きく退き、刃から逃れる。……短剣は、当たらない。
ユーナは首を傾げた。命中率が低いのか、攻撃速度が遅いのか、判断がつかない。だが、そんな思考回路を、魔獣は悠長にながめて待ってはいなかった。
森狼は、ユーナ目掛けて跳躍した。
とっさに、木陰に身を隠す。その鋭い爪が、彼女の盾になった木の幹を抉った。深々と入った傷を見て、ユーナは息を呑む。
マズイ。
隔絶されたようなレベル差をそこに感じ、ユーナは森の奥へと駆け出した。
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