負けないで もう少し 最後まで書き続けて(棒)

 佐藤から書籍化の打診を持ちかけられて以来、俺は新作の執筆を再開した。


 タイトルは


『現代ダンジョンを歩くためのスパルタ講座 ~上司の命令でしぶしぶ動画配信をはじめたら、内容がハードすぎてなにやらバズってしまった件~ 有名になりすぎたので仕事を辞めて美少女に囲まれてます』


 である。


 現在なろう界隈で流行っているVtuber配信とダンジョン探索を絡めた作品であり、定番のハーレム要素も取り入れている。トレンドと読者の好みをふんだんに盛り込んだ完璧な布陣であり、ランキングを狙える可能性も十分にある。


 俺はいま、一世一代の大勝負に挑む気持ちでこの作品に全てを賭けていた。


(よし、筆が乗ってる。アイデアもどんどん湧いてくる。面白い。面白い! これなら絶対ランキングに行ける!)


 猛スピードで俺は原稿を仕上げていった。書けば書くほどどんどんと勢いが増し、自分でも恐ろしいぐらい完璧な展開が書けている。今の俺、超神がかってる!


 執筆が楽しすぎて、毎日昼夜も忘れてパソコンと向かい続ける。

それから2ヵ月が経ち、ついに俺は原稿を完成させた。



++++++



 そして実際に笛吹きになろうで『ダンスパ』を投稿する予定日となった。

俺は万全の態勢を整え、いつもやっている戦略通りに事を進める。


 まず笛吹きになろうのランキングに掲載されるために重要なのは、初日の投稿でどれだけ読者からの評価を得られるかに掛かっている。初投稿で大量のブックマークや評価ポイントを獲得できれば、日間総合ランキングに載ることができる。そしてそのランキングに載れば、それが呼び水となってますます多くの読者からの注目を集められるのだ。


 ランキング掲載による集客効果は絶大であり、こうしたランキングがあるからこそ人気作品というのは生まれるのである。つまり言い換えれば、連載作品をヒットさせるためには、ランキングを攻略することが絶対条件なのだ。


 ここでミスをするわけにはいかない。俺は細心の注意を払って投稿内容を見直した後、最初のエピソードを朝6時36分に投稿する。ほどなくして2話、3話、4話、5話と、朝の通勤時間帯を狙って間隔を空けながら連続で投稿していった。


 基本Web小説とは、通勤時間などの隙間時間に読まれるものであり、言わばこの時間帯こそがWeb小説界隈のゴールデンタイムと言えるのである。この読者が最も多く集まる時間を狙って投稿すること、これこそが作品が読まれるための導線を広げる最適解なのである。


 夕方5時36分からも同様の戦略を取り、読者が帰宅中の時間を狙って小説を連続投稿した。できるだけダンスパが多くの読者の目に触れられるように、他の投稿者と投稿時間が被らないようにタイミングをずらすことを意識する。具体的には、36分、46分、56分と、端数の時間帯になった時を狙うのだ。


 間違いを起こさないために、俺はそれらの作業を全て予約投稿を使わず手動でやった。

6話、7話、8話、9話、10話と時間の間隔を空けながら投稿し、俺はその日のうちに10話分のエピソードを公開した。



++++++



 翌日になり、俺は笛吹きになろうの日間総合ランキングをチェックする。目論見通り、ダンスパは57位に入っていた。ブックマークや評価ポイントを大量に獲得し、そして感想も2、3件ほど送られている。


(よし、この調子だ! 狙い通り)


 まずは第一関門をクリアしたことで、俺はひとまずの喜びを味わった。小説を書き始めた頃は、このランキングにどうやったら載れるのかがわからなくて、苦悩を続けていた。


 だがもう今の俺は違う。俺はランキングに乗るための秘訣を知っていたし、どんな小説が評価されるかも知っている。後は自分が編み出した攻略方法に則り、抜かりなく実践するだけだ。


 そして俺は更に日間ランキングを駆け上がるべく、10話連続投稿を、2日目、3日目、4日目、5日目と続けていった。



++++++



 投稿をはじめてから6日目となり、ついにダンスパは月間総合ランキングに掲載された。掲載順位は86位。まずまずの結果である。


 笛吹きになろうで最も重要なのは月間ランキングに載ることである。そのページはホーム画面の次に読者の訪問数が多い場所だった。つまり日間ランキングの比ではないほど、更に大勢の読者の注目を集められるのだ。


 月間ランキングに載ったことで、ダンスパのブックマークや評価ポイントは毎日、倍々になって増えていく。その総合ポイントの急増の確認を終えると、俺は投稿頻度を1日3話のペースに緩めた。一度月間ランキングに載ってしまえば、100位以下に落ちない限りはずっとこの倍々ゲームが続いていく。


 月間ランキングに載ってから重要なのは、毎日継続的に投稿を続けることであり、無闇に大量のエピソードを投稿してもあまり効果がない。後はどれだけ作品を面白くできるか、これが最も人気作になれるかの命題となるのである。俺はその研究結果にしたがって、次のフェイズに移行した。


 俺はダンスパのアクセス解析のページを開く。

各エピソードのPVやいいねの反応を鑑みながら、小説の内容を調整するためだ。他のエピソードよりPVやいいねが少ない箇所を集中的に改稿し、より読者が毎回のエピソードで満足感を得られるように工夫を施した。


(よし! ここはもっと上手い引きを作れたな。これなら新規の読者も小説を楽しんでポイントを入れるはずだ。後は残りの日数で、どれだけポイントを稼いでランキング10位以内に入れるかだな。人事を尽くして天命を待つ、だ)


 俺は祈る気持ちでパソコンを閉じ、ベッドに入る。

逸る気持ちが抑えられず、新作が発売できたらどのソシャゲに課金しようかな? と考えを巡らせた。


 そして投稿をはじめてから25日目となり、佐藤が提示した三ヵ月の期限まで、あと5日となった。

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