融合の触

@hom00

第一節:研究所の奥深く


 物語は、近未来の地球を舞台に始まる。


 欧州にある原子核研究機構の研究所の一研究室。


 ここには、日本の研究員、藤原直人、イギリスの研究員、エイダン・ジョンソン、カナダの研究員、ルイーズ・スミス、エジプトの研究員、イブラヒム・アリ、アメリカの研究員、アンナ・ウィリアムズがいのだった。

 彼ら世界各国から集まった一流の研究員たちが、日々革命的な反物質実験に取り組んでいる。


 六月上旬  十三時 研究所最奥の一室


 研究員たちは緊張と興奮に満ちた表情で、制御室でモニターを見つめている。


「人類長年の夢が実現するかもしれない時が来たわけだ」

 エイダンはカウントダウン画面の前に立ち軽く興奮気味に言った。


「確かに、今回の実験が成功すれば、エネルギー危機を解決出来るかもしれませんね」

 そうルイーズはにっこり笑いながらエイダンの方を見て答える。


「しかし、反物質と物質の融合実験は危険を伴います。十分な注意が必要です」

 イブラヒムは冷静に注意を促しモニターから流れる情報を確認している。


 制御室のb画面には、融合実験の準備が整った事を示すカウントダウンが表示されていた。

 研究員たちは心を一つにし、実験の開始を待っている。

  カウントダウンが動き出す。


「よし、始めよう」

 エイダンは少し緊張しながら、そう言い席に着く。


 カウントダウンがゼロになり、実験が開始される。


 反物質と物質が融合する様子をモニターで見つめる研究者たち。

 初めは順調に収束し始めこのまま行くかと思われたその瞬間、実験装置に異常が起きた。

 急速にエネルギーの収束が失われ、装置から暴走したエネルギーが漏れ外に放出され始めたのだ。


「なんだこれは!?」

 イブラヒムは呟く様に言い、焦り驚きながら食い入るように画面を見ている。


「エネルギー粒子が制御を振り切って暴走中! 制止できない!」

 動揺し焦りながらもアンナは、そう叫び必死にキーボードを叩いていた。


 研究員たちは何とか制御を取り戻そうとするも虚しくエネルギー粒子は暴走し始めた。

 そして大量の光と共にエネルギーの塊のような物が放出され続ける。

 研究員達は目が眩みよろけ、膝を付く者や椅子から落ち座り込む者、床に吹き飛ばされる者さえもいた。


 そんな最中、いち早く動いたのはエイダンだった。


「制御が利かない! 緊急避難! 全員、避難所へ!」

 エイダンは強ばった顔を片腕で覆いながら指示を出す。


「エイダン、藤原、ルイーズ、イブラヒム、みんな無事ですか!?」

 アンナは目が眩みよろけながらも、全員の安否を確認しようとしている。

 ふらつくアンナの肩を抱え藤原が外に連れ出す。


「有り難う」

 アンナは、まだぼやけた視界でふらつきながらも藤原に礼を言う。


「急いで退避しよう」

 困惑と焦りを押し隠し、藤原は頷き急かすように言った。


 研究員達が制御室から這這の体で避難する。


 研究所内の避難所へと逃れる中、外の様子は一変していた。

 研究所から放出されたエネルギーが街中に広がっていたのだ。

 街の中心の方から、空気中に青く光り輝く粒子が漂って来ている。

 そして、街は暗転し霧のようなものに包まれ始めた。

 街中の電子機器や照明が一斉に消え、ビルの窓には謎の輝きが差し込む。

 その光景は、研究所内の窓から避難してる職員達の目にも映っていた。


「これはまずい、こんなにエネルギーが外に放出されたら……」

 足を止めた藤原が窓から見える光景を見て、動揺を隠しきれずこぼすように言った。


「街中に何かが現れてる。見た事もない生物が……」

 エイダンは呟き、驚きを隠せない様子でじっと窓から街の様子を見ている。


 霧の合間に異形の姿の存在たちが現れ、現実とは思えない光景が広がっていた。

 人々は恐怖と絶望の入り混じった感情に揺れていた。

 室内に居る人々は窓を閉め外を見えないようにしている。

 外に居る人々は叫ぶ者や、逃げ惑う者、呆然と立ち尽くす者達で溢れた。


「私たちの実験がこんな結果を招いてしまったの……?」

 ルイーズは絞り出すような声で言い、顔から血の気が引いた様子で立ち竦んだ。


「街の人々は……どうなるんだ? 彼らに危険が迫ってるのでは?」

 イブラヒムはそう言い、恐怖に目を丸くし街の様子を不安そうに注視していた。


「研究所からのエネルギー放出を止めない限り、この異形の存在たちが暴れ続けるのでは……」

 藤原は呟き、険しい表情で窓の外の異変を見据えている。


「く……それじゃあ、研究室に戻って制御を取り戻すしかない……」

 エイダンはそう言うと、恐怖と焦燥を抱え街の方を見ながらも踵を返す。


 研究員たちは恐怖しながらも、この異常事態を収集する為に、研究室の制御室に戻る決意を固めた。

 街中に跋扈する異形の存在たちを恐れながら、彼らは制御室へ向かって行くのだった。

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