性格壊滅したクソ師匠の元で、無茶修行させられてます

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 虎穴に入らずんば虎子を得ず。


 なんてことわざがある。


 何かを得たいなら、危険な目に遭わなければ手に入らない。


 みたいな意味だったっけ?


 でも、実際にそのことわざの通りにする奴が何人いるだろう。


 まともな人間なら、そんな虎の穴に入るような事しないはずだし、させない。


 でも、世の中には例外ってもんがあってだな。






 

「ちくしょおおおおおっ! クソ師匠てめぇ、おぼえてろよぉぉぉぉぉぉっ!」


 蹴落とされた。


 落ちた。


 そしてピンチ。


 あたりにはまもの。


 ちじょうにはくそししょう。


 て、ふってやがる。


 ひたいのけっかんきれた。


「やりやがったな、あの飲んだくれ! まったく生きて出られる気がしねぇよ!」





 俺はかっこいい冒険者に憧れている。


 冒険者として成功したいとも。


 だから師匠に弟子入りした時は言ったさ。


 確かに凄腕の冒険者になりたいと言ったさ。


 なるためなら、何でもやるとも、言ったさ。


 でも普通、まさかそのまま「何でも」されるとは思わんだろ。


「くそっ、こんのっ。だぁぁぁっ、ぜんぜん尽きねぇっ!」


 師匠に蹴落とされた穴の中に生息していた異形共。


 魔物が次々に襲い掛かってくる。


 俺は自分の武器である剣を、必死に振り回すしかない。


Q 強くなるならどうすれば良いですか?

A 死ぬ気で頑張れば強くなる。だから死ぬ気になればいんじゃね?


 なんてやりとりがあった末にこれだよ。


「くそがぁぁぁっ! ここから出たら、お前の脳みそ燻して燻製にしてやるあぁぁぁぁ! うるぐあああああ!」


 やべ、興奮しすぎて魔物の鳴き声みたいなのでた。









 半日後。


 死ぬ気で穴から這い出してきた俺は、ひどい有様だ。


 泥だらけだし魔物の体液まみれだった。


 あと、くせぇ。


 風呂入りてぇな。


 でも、死ぬ気で帰ったら、師匠は「ん、もう帰ってきたのか、じゃあ次」なんて涼しい顔→(*'ω'*)しやがって。


 思わず柄にもなく切れキャラでもないのに、ブチ切れて「ぶるぁぁぁぁぁ!」とか言っちまったじゃねーか。


 でも、それを涼しい顔して指一つでいさめた師匠は、どうなってんだ。


 性格は死んでるけど、実力は確かなんだよな。


 神、才能与えるやつ間違えすぎじゃね?


 なんでこんな奴に、才能与えたし。


「ぜえはあ」言ってる俺を、指一つでぶっとばした師匠は、手に持っている酒瓶を振った。


 水の音はしなかった。


「はあー、酒がねぇ。買ってこいよ。五分な」


 はぁー。

 はこっちのセリフだ。


 こんな師匠の元で鍛えなくちゃいけないなんて。


 チェンジできねぇかな。


 無理だろな。


 師弟関係の契約結んじまったし。


 契約ってのは重いんだ。


 一度交わしたら簡単には破れねぇ。


 そもそもそんな事するのが俺の目指している凄腕の冒険者なわけねぇから、やれねぇ。








 翌日。


 そんなクソ師匠に放り込まれたのは、ダンジョンの一画だ。


 99層まであるダンジョンなんだが、めちゃ強いクソ師匠にかかれば、障害なんてないにも同然。


 すいすい奥まで進んで行ったクソ師匠はあらためて、実力「だけ」は確かなんだよな。と思わされた。


 しかしここからが問題だ。


「じゃ、夕飯までに帰って来いよ」


 と言われて90層あたりに放置。


 俺は自力でそのダンジョンから脱出しなければならなかった。


 ねぇ知ってる。


 今の俺のレベル10。


 このあたりの階層の推奨レベル90。


 一つのミスで命散るわ!


 盛大に、散ってしまうわ。


 初心者なめんなよ。


 ライフ削られすぎてマイナスになるわ!


「クソがああああ、無理難題にもほどがあるだろおおお!」


 当然キレ散らかした。


 でも、キレてばかりじゃいられない。


 俺は、なんとかそのダンジョンのモンスターとエンカウントしないように、こそこそ移動。


 あたりを進んでいた他の冒険者に助けを求めた。


 求められた冒険者は当然驚いたさ。


「えっ? こんな低レベルで?」「罠?」「モンスターの擬態じゃね?」っていう顔で。


 信じてもらえるのに、かなり時間かかったな。


 それでも、雑用係として何とか同行を許可。


 彼等の探索に付き合った後、入り口まで帰ってくる事ができたのだった。







 で、師匠の家に向かってみれば。


「夕飯まちくたびれたじゃんか、はよ」


 そんなセリフだ。


 毎度毎度飽きないのかって思うけど、飽きないから不思議だな。


 俺は噴火する火山の如く、キレ散らかした。


 フライパンでチャーハン痛めながらキレ散らかした。


 何度熱したその鉄の板を、クソ師匠の涼しげな顔にぶん投げたろか思ったか。


「はよ、じゃねえんだわ。このクソ師匠! 死ぬとこだったんだぞ!」






 極めつけは、魔大陸落下事件だな。


 適当な竜(※レベル99)を捕まえたクソ師匠が、俺の襟首をひょいと掴んだまま、長距離飛行。


 魔大陸というモンスターがわんさかいる所まで行って、俺を落っことしやがった。


「じゃ、一週間くらいしたら帰って来いよ。あと、ここの木の実で作る酒がうまいから、お土産よろしく」

「酒飲みてぇだけだろ。おい待てやこらぁああああ!」


 それで、一人でモンスターが彷徨う土地をうろうろしなければならなくなった。


 地獄のような思いをしたぜ。ほんと。


 やたら足の速いモンスターに一晩中追い掛け回されるわ、やたらごついメスモンスターに求婚されるわ(なぜ?)。


 やたら臭い泉に落下して、気分が最低になるわ。やたらまずい食料で腹を下しかけるわ。


 そんな所でも、ただ生きていくだけでも、やばい環境だった。


 それでもなんとか、親をなくした子供グレートゴーレムと仲良くなって、そいつに守ってもらえたからマシだったな。


 魔大陸の食物連鎖の頂点に立つゴーレムが味方になってくれなかったら、俺の命は三日ももたなかっただろう。








「おらぁっ。帰ったぞ、クソ師匠! 今日こそ殴らせろやぁ!」


 そういうわけで、魔大陸の端で苦労を共にしたゴーレムと別れ、海を泳いで渡った俺は一か月で師匠の元へ到着。


 新鮮な尽きぬ怒りを装備して、突撃したのだが。


「ん? 遅かったな。次のメニュー考えすぎて百個になっちまったじゃないか。選ぶのめんどくさいから全部やれよ」

「できるかあほんだら!」


 まったく反省していないし、さらに無茶な修行させようとしてくる。


 性格終わってんなこの師匠。


 けど。


「お?」


 殴り掛かった拳が、師匠の髪の一房を捕らえる。


 弟子入りしてすぐの頃は、師匠の動きに追いつく事すらできなかったというのに。


「なんだなんだ。ちゃんと成長してるじゃないか。優秀な弟子を持てて師匠はうれしいぞ」


 で、そんな時に限って普通に嬉しそうにされるから、困るんだよな。


「頭なでんな。ガキじゃねぇよ!」


 何だかんだ師匠のもとから離れないのか、一応努力が実を結んでいるってのもある。


 レベル1から強くなれずに誰も修行をつけてくれなかった落ちこぼれの俺を見てくれたのは、目の前のこの師匠だけだってのもあるし。


 けれど。


「じゃあ、明日は竜の巣で竜の卵を収穫してこい。あれ上手いからさ。そうだなざっと百個くらい」

「できるかあああああ! 死ぬわこのクソ師匠! ちったぁ休ませろや!」


 やっぱりその無茶ぶりはもう少し控えてくれ。


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