第2幕・Respect(リスペクト)の章〜①〜

 5月11日(木)


 〜御子柴奈緒美みこしばなおみのさざめき〜


「――――――それで、そのサポーター君との約束は、どうなったの?」


 平日の午後9時近くにもかかわらず、盛況な客入りの韓国料理店の個室で、御子柴奈緒美みこしばなおみは、友人たちによる質問攻めにあっていった。


 興味津々に、近況をうかがおうとするのは、遠山京子とおやまきょうこ。奈緒美とは学生時代からの仲である。

 

「社会人2年目ってことは、私たちより四つくらい年下だよね? どんな男の子? 似ている有名人はいる?」


 同じく、学生時代のサークル活動を通じて知り合った葛西美紀かさいみきは、奈緒美の話しから、中野虎太郎なかのこたろうの人となりに興味を持っているようである。


「お二人とも、過ぎです! ナオミさん、困ってるじゃないですか!? ところで……結論として、そのコタローさんは、がありそうなんですか?」


 同席する二人をたしなめつつも、自分自身も好奇心が抑えられない、といった感じで質問するのは、吉野公香よしのきみか。奈緒美が最初に勤めた会社の後輩で、韓国スター好きという共通点から、アイドルファンが集うこのメンバーに加わっている。


 友人たちの矢継ぎ早の質問に、奈緒美は戸惑いながらも、目尻を下げた微苦笑で応じた。


「中野くんからは、ゴールデン・ウィークの予定を聞かれたんだけど……イベントの準備や撤収の日程と重なっちゃってて……だから、まだ、次にいつ会うかは決まってない……」


「う〜ん……中野くんが似ている有名人かぁ……強いて挙げるなら、キンプリの岸優太きしゆうたくんとか、フィギュアスケーターの宇野昌磨うのしょうまくんかなぁ?」


 彼女が、学生時代からの仲である友人二人の質問に応えると、後輩女子が、


「岸優太くん系統の容姿ってことは、俳優の伊藤淳史いとうあつしさんとも似てたりします?」


と、茶々を入れてくる。


「まぁ、そう言えなくも、ないかな……?」


 後輩の質問に小首をかしげながら答える奈緒美。


 コース料理のチーズタッカルビの「め」に投入されたサリ麺は、盛り上がるトークの中、すっかり冷めて、チーズとともに固まっている。

 

 鍋のようすを気にしながらも、奈緒美の返答にうなずいていた京子は、

 

「そりゃ、そんな男の子となら、ナオミも上機嫌になるか」


と、困惑気味ながらも機嫌よく語る友人のようすを眺めつつ、

 

「でも、そんなに、彼女がいないとか、ありえるのかな?」


と、つぶやく。


「あっ、たしかに……」


 京子の言葉に、美紀も同意する。


「彼女がいる男性なら、ナオミさんをうちまで送り届けたりしない、ってことですか?」


 公香きみかがたずねると、京子と美紀は同時にうなずく。


「もちろん、それだけで、判断できるワケじゃないけど……私が彼女なら、酔っ払った知らないオンナを家に送る彼氏はイヤだな……」


 京子の言葉に、今度は美紀と公香きみかがうなずいた。


「ナカノくんだっけ? ますます、どんな男の子なのか、気になるな〜。ナオミ、彼には、他にどんな特長があるの? アナタと趣味や話しがあったりするの?」


 美紀は、より一層、興味を持ったという感じで、奈緒美にたずねた。


「趣味といえば、私がももクロちゃんの『吼えろ』を歌ったとき、コールを入れてくれたんだよね。ファン以外には、あまり知られてない曲なのに、どうして、知ってたんだろう?」


 彼女の言葉に、一同はナニかを感じ取ったように、一斉に「あっ…(察し)」という表情をつくる。


「それは、やっぱり、ももクロのファンか、アイドルオタクってことじゃないの?」


 苦笑いしながら、自らの見解を語る京子に、再び美紀と公香きみかが、大きくうなずく。


「あ〜、部屋はアイドルグッズやポスターでいっぱいとか? 有り得そう……」


「男性も、最近の若いアイドルファンは、見た目だけじゃ、わかりにくくなってますもんね……」


 それぞれが私見を述べつつ、『推し活』に余念がない自分たちの趣味を棚に上げた三人は、


「うわ〜引くわ〜」


と、声を揃える。


「ちょっと! 知らない男性の趣味を勝手に決めた上に、論評するとか、いくらなんでも失礼じゃない!?」


 奈緒美が声を上げると、京子と美紀が、


「でもね〜」


と、反応したあと、公香きみかが、たずねる。


「ナオミさんは、ナカノさんが、アイドルファンじゃないって思う理由があるんですか?」


「う〜ん、あのあと、ももクロちゃんの『行くぜっ! 怪盗少女』とか『走れ』を歌ったときの反応は、サッパリだったんだよね……だから、少なくとも、ももクロちゃんの熱心なファンってことは無いと思うんだ……」


 奈緒美は、後輩の質問にそう答えたあと、彼女が疑問に感じていたことを付け加えた。


「あと、私が、リビングのソファーで横になっているとき、中野くんの鼻歌が聞こえてきたんだけど……『きりひらけ しょうりへのみち』とか、なんとか……あの歌、なんの歌なんだろう?」


 先輩の言葉に反応した公香きみかが、


「気になるなら、調べてみましょうよ!」


と言って、奈緒美にスマホでの検索をうながす。


 すると、ほぼ同時に彼女のスマホにメッセージアプリの着信通知が表示された。


 ==============


 夜、遅くに申し訳ありません


 今週の日曜日、御子柴さんは、

 なにか、ご予定はありますか?


 ==============


 ==============


 御子柴さんのご都合が良ければ

 一緒に行きたい場所があります

 

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 中野虎太郎からのメッセージを確認した四人は、個室内でお互いに顔を見合わせた。

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