第1幕・Aim(エイム)の章〜⑦〜
〜
♪ きりひらけ〜 しょうりへのみち〜
♪ うて グランドかけろ もえろ〜ちかもと〜
リビングのソファに横になっている
頭の痛みと眠たさで意識が
どうやら、その鼻歌は、リビングから玄関に続く廊下を出てすぐ場所にあるトイレから聞こえているようだ。
(あの声は、中野くん……?)
(そうだ、いつものカラオケバーで気持ち良くなって歌ったあと、彼に
さらに、その後の
奈緒美が、なんとか上体を起こそうともがいていると、廊下の方から聞こえてくる鼻歌のメロディが変わった。
♪ つよいきもちで しょうりをめざせ なかの
♪ さあ ゆめをひらけ うてはしれ〜 なかの〜
身体を動かすことをあきらめた彼女は、代わりに、頭の痛みに耐えながら、脳を働かせることに集中した。
(バーで、『吼えろ』を歌ったとき、完璧なコールを入れてくれたけど、中野くんも、ももクロのファンなのかな?)
(そのわりに、もっとメジャーな『走れ』や『行くぜっ!怪盗少女』を歌ったときは、反応が薄かったけど……)
いまも、聞き慣れないメロディで鼻歌を歌っている彼が、アイドルやライブ・コンサートに興味があるなら、ICTサポーターの仕事のことばかりでなく、共通の話題が増えて楽しいだろうな……と、ズキズキと響く頭で奈緒美は考える。
自分が作っておいた引き継ぎ資料に対して、大げさに感じるほど感謝の気持を述べてくれた相手と話すうちに、学校の現場でICTサポートの仕事をしていたときに抱いていた
その後、ほとんど初対面の彼に、自身の中学校の頃のことを話したのは、自分でも意外だったし、そんな話しを聞かされて、相手に迷惑をかけてしまったのではないかと、少し不安に感じる気持ちもある。
それでも、自分なりに、時間を掛けて、丁寧に仕上げることができたと感じている引き継ぎの資料を評価し、感謝の気持ちを伝えてくれた彼なら、ICTサポートの仕事に就いていたときの自分の意気込みを理解してくれるのではないか――――――という、淡い期待もあった。
彼女が、現在のイベント・プロデュース会社に転職したのは、前職に思い入れを持っていたのと同様、中学校時代に経験した不登校の時期に理由があった。
中学二年の夏休み明け、主に乳幼児が
夏休みの課題は、完璧に終わらせていたにもかかわらず、その療養期間のせいで、二学期はじめの実力テストなどを受けられず、通常の授業からも完全に取り残されたと不安に感じてしまった彼女は、病状が回復してからも、登校ができなくなってしまい、二学期が終わるまでズルズルと不登校状態になってしまったのだ。
カラオケバーで
彼女が、不登校の状態を脱することができたのは、自宅で動画サイトを視聴していたときに、自分と同世代もしくは、少し年上のアイドルの少女たちがライブ・コンサートで披露するパフォーマンスに勇気づけられたことが、もっとも大きな理由だ。
とくに、バーでマイクを独占しながら曲を歌ったももいろクローバーZは、奈緒美が、もっとも熱心に動画を視聴していたグループだった。
彼女たちが路上や家電量販店の店先でライブを行っていた頃から、メジャー・レーベルでのCD発売を経て、アイドル・イベントなどで徐々に人気を得ていく様子を見て、彼女たちを応援するうちに、
「自分も、できることから、がんばらないと……」
という気持ちが湧いてきて、年が明けた三学期から、少しづつ登校できる機会が増え、三年生の新学期からは、毎日のように登校できるようになった。
その頃から、奈緒美は、
「自分がアイドルになるのは難しいかも知れないけど……私に勇気をくれたアイドルたちが、もっとステージで輝けるように、お手伝いしたい」
と、考えるようになっていた。
ボンヤリとした意識の中で、バーで虎太郎に語ったことと、自分の過去のことが、
♪ ゆうぜんとふりかまえたバットに
♪ われらのゆめをのせて〜
♪ スタンドへ はじきかえせ
♪ えいこうつかむ そのひまで〜
聞き覚えのないそのメロディを耳にしながら、睡魔に襲われた彼女は、目を閉じて、再び夢の世界の住人に鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます