その砂は泥のように硬くなる

お書記様

第零章

「あの…大丈夫ですか?」

そう、声が聞こえた。

まだ俺は生きているらしい、残念なことにな。

「…大丈夫に見えるのか?」

俺はビルから自分の意志で落ちたのだ、大丈夫なわけがない。

「はい…まったくの無傷です。」

なるほど、俺は無傷なのか。

また、死ねなかったのか。

あの時も死ねなかった、おかげで俺は罪を背負って生きねばならなくなった。

それが然るべき罰であることはわかっている。

だが…それでも考えてしまうのだ、

あの時、死んでいれば、あの時…

「あのー…大丈夫ですか?」

「君が見るからには大丈夫なんだろう?だったら何を心配しているんだ?」

「その、顔色が優れないので。」

「逆に今のご時世、顔色が優れている奴なんているか?」

俺の思考を見事に邪魔してきた質問に、俺はそう返した

今は、戦時中なのだ。

それも、我が軍が劣勢である。

そんな時に、自分は気分が良いです~、とでも言うかのように顔色が良い奴はそうそう居ない。

「いや、君は中々に顔色が良いな。珍しい。その顔が曇らないうちにとっとと俺のもとから去ったほうがいい。」

そう、俺のもとにいるとロクなことが起きない。

彼女自身のためにも早くここを去るべきだ…

「いいえ」

「…君は難聴なのか?君のためにも俺からは離れたほうがいいと言ってるんだ

第一に、俺は人と話すことが嫌いだ。今、君とはなぜか落ち着いて話していられるが、いつもは吐くほど嫌なんだよ…」

俺自身も疑問に思っていた、なぜこの少女とは普通の会話ができるのだろうか。

だが、そんな興味など無視しこの子と離れるべきだ。

「なおさら、離れられないですよ」

「は?」

何を、言ってるんだ?

「あなたのような人を、放っておけるわけないじゃないですか。

 だいたい、あなたはいつもそうです!

 自分よりも他人を優先して!許された事柄をいつまでも引きずって!

 …そんな人を、私が見捨てられるわけないじゃないですか…!」

正直、意味が分からない、この少女のことを俺は何も知らない。

まったくの初対面だ。

なのに…なのになぜだ?

俺はこの少女に以前会っていたかのような安心感を覚えてしまうのだ。

普通に話ができるのもそのせいか…?

なんだ、この違和感は?この少女も、俺の感じてる事も何もかもが

今は途轍もなく気味が悪く、そして懐かしいんだ。








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