忍者が箒を使って何が悪い!〜私は忍の世界でも魔女になる事を諦めない〜
シュガースプーン。
プロローグ
第1話 決意
忍の隠れ里がこの世界にはある。
その忍の里の一つに私は生まれた。
今世と言うのは、私が前世の記憶を持って生まれて来たから言える事だ。
こことは違う世界での記憶、そこでの夢、憧れ。
前世で忍というのは物語の中のキャラクターだった。
男の子が憧れるキャラクターの一つだった。
しかし、女であった私が憧れたのは、忍術、忍法を使う忍ではなく、魔法を使う魔女や魔法少女だった。
カッコいい忍者とは対照的な、かわいい魔女っ子や、黒服で猫を連れた宅配の魔女や、見習いの魔女達に憧れをいだいた。
流石に、大人になった頃には魔女っ子のかわいい格好には恥ずかしさを覚えたけれど、でも、魔法を使う魔女にはずっと憧れ続けた。
だから、あえて言おう。
なんで忍者やねん!
一般的な大人ならば、ニアピン賞と言ってもいいのかも知れないが、私にとって魔女と忍では雲泥の差である。
私は、東雲家と言うこの忍の里の名家に生まれた関係で、幼少期から嫌々ながらも忍びとしての英才教育を受けてきた。
もともと大人ですからね、嫌々ながらも逃げ出さずにきちっとこなしていたわよ。
東雲家の長女で一人っ子。将来家を継がなくてはいけないと期待されてはやるしかないだろう。
それが、私が5歳の時、弟が産まれた。いや、産まれてくれた!
弟。そう、男の子! 男児! 長男!
男児の後継が産まれてくれた事から、長女の私は後継の呪縛から解放されたのだ。
そして、私はある本に出会っていた。
私の夢の鍵になるかもしれない本に出会っていたのだ。
『忍術多視覚検証伝』
偶然見つけたその本は、異端の本であった。
伝統によって受け継がれ、そして新しい技が紡がれていく忍術と言う技。
その忍術を、今までと違った視点から研究してみた。と言った内容の本だった。
本、と言うよりは日記に近く、とんでもない視点から忍術を研究してみては失敗談や、今までと違った反応が起こった事が書き留められていた。
はっきり言って、誰かの恥ずかしい黒歴史である。
しかし、その中の内容の至る所に、私は可能性を感じてしまった。
今ある忍術とは違う視点から見た事が書かれた書式からは、自分のマニアックな知識と重なる部分が見え隠れしていた。
忍術。それは己の内なる《チャクラ》を使って超常なる現象を引き起こす技。
チャクラとは何か? ただ教わるがままを受け入れて来たが、これは魔力と何が違うのか?
本にはこう書かれていた。
体内のチャクラを使わずに忍術を使う事はできないのか?
本には、この実験は失敗に終わったと書かれている。
『一度だけ。体内のチャクラを使わずに少し蝋燭の火が大きくなったような気がした。ただ、その一度だけで自分が疲れてみた幻覚かも分からない。それ以降、同じ様な現象は起こらず、あの時のゆらめきは疲れによる幻覚だったのだろう』
こう締めくくられている。
この一度が本当だったとしたら?
この著者にはっきりとした知識が無かったから失敗に終わっただけで、大気中にチャクラ、言い換えて魔力があると仮定してそれを扱える様になれば。
魔術や魔法を再現できる様になれば?
私はこの本の続きを試す価値があると思った。
魔女になる為に。
そう、これから私は忍の呪縛から解き放たれて魔女を目指す!
子供の頃、いや、前世から憧れ続けた夢を、現実に目指す事に心躍らせるのであった。
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