第11話 ずっとそばに… (後編)

1月7日


クリスマス 年越し、新年と、過ぎていき。


年末年始でしばらくお休みだった、ゆきのアイドル活動も再開されて、しばらくたった。


今日も会場でゆきが歌っている…。


〜〜〜〜


ずっとそばにいるよ 隣にあなたがいる限り


力強いメロディー奏でる この想いを


大切なあなたのために 


この歌声が届くように


〜〜〜



今日は「アイドルストリート」の専用会場ではなく。

いつもと違う場所にある公民館でコンサートを行っていた。


ゆきの、その腕には。いつものように「ノノ」が抱かれていた。


オレは、いつもの様に、マネージャーと共に、ゆきを舞台袖から見守っていた。


遠くのファンとも交流できる機会はなかなかないことで、とても有意義なものだ。


ゆきは、アイドルとしてその活躍の幅をどんどん広げつつある。


妹が大きな存在に成長していくことは、

自分にとっても誇らしくもあり、そして、少し寂しさもあった。



「最近も絶好調ですね…」


「ええ…。ゆきの人気はどんどん上がっている。……このままいけば、ドームコンサートだって。夢ではないわ…!」


「ドームってあの、ソラドームですよね?あの「神崎ひな」がコンサートしたっていう…」


「ええ、そうよ」


ソラドーム

観客規模10000人を誇る、大陸最大規模の巨大な会場。

そこでコンサートを成功させることは。

紛うことなき「一流の者」である証を得ることでもある。

アーティストの誰もが憧れる夢の場所。

その歴史上でも、ドームコンサートを成功させたアーティストは数える程しかいない。

ましてやアイドルとして、ソレを達成、成功させた者は。

神崎ひな。ただ1人である。


…だからこそ、神崎ひなは「伝説」なんだ。


「でも意外ね…、あなたの口からひなの名前が出てくるなんて。…「世代」じゃないでしょうあなた」

「ええまあ。でも、この前少し勉強しましたから。…もちろん。オレ自身は、アイドルとしての神崎ひなを、直接見たことはないですよ」


「ふぅん……」


マネージャーは、オレの言葉を受けて何かを考えているようだった。

そしてしばらくして、マネージャーはオレに言った。


「ねぇ、彼方くん。あなた高3でしょ?たしか。もう進路は決めているのかしら」

「え、ええと、実はまだ…」


「そう。…もう1月よ。早く決めないと危ないわよ。…まぁ私としては都合がいいのだけれど」

「?」


「あなた。…ウチに来る気はない?」

「えっ」


「ゆきの人気が上がって行くたびに、当然事務所の仕事の量も増えていく。実は、そろそろ私1人でも厳しくなりつつあるのよ…。でもね。アイドル事務所のマネージャーや、事務仕事は、なかなか理解を示してくれる人が少なくてね…。あなたなら即戦力になれると思うのだけど」

「そ、それは……」


突然の誘いだった。

確かにオレは、ゆきを通してそれなりにアイドルという存在への理解はある。でも…


「……少し、考えさせてくれませんか」


「ふふっ、なにも今すぐ答えが欲しいわけでもないわ。…それに、強制しているわけでもない。 あなたの未来の選択肢として。ひとつの道を提示したにすぎない。……どんな道を選ぼうと、私はあなたを祝福するわ」


「…ありがとうございます」



〜〜〜


「みなさん。本日はお越しいただき、本当にありがとうございます!…こうして、普段とは違う場所でも、色々な方々が、私を応援してくれるのが伝わって、凄く嬉しいです!…名残惜しいですが、次が今日最後の、曲になります…」


今日のコンサートも終わりが近づいているようだ。


オレとマネージャーは見守った。


だが。



その時、ソレは起こった。


グラグラグラグラ……!!


「……!!」


突如、地面が大きく揺れだした。


その揺れはあまりにも大きく。

その場から動くことすら困難になってしまった。


「くっ……!!」

「まさか、こんなタイミングで……」


その揺れで、垂れ幕が降りて、観客席が見えなくなってしまった。


「観客席は…どうなっている!?」


「……大丈夫よ。向こう側には、ほとんどなにも物が置いていない。観客をここに留めておけば、被害は防げるわ」


マネージャーは、辛うじて体を支えつつも、モニターで観客席を確認しながら言った。


オレは一瞬ほっとした。


だが、もう1つの懸念がオレを襲う。


……ゆきは?


オレはゆきの方を見る。


「っ…、ゆきっ!!」


ゆきは、その場に尻もちをついていた。動けないのだ。

当たり前だ。オレだって、この揺れの中でまともに動けないのだ。ゆきだって動けるわけが無い。



オレはふと、ゆきの真上を見る。


ゆきの真上には、大きなシャンデリアがあった。

余りの揺れの強さにグラグラとしていて、今にも落ちそうだった。

マネージャーは観客にアナウンスを出していて気づいていない。


「嘘だろ……なんであんな物が……。くっそ、このままじゃあ、ゆきが……」


くそ、こんなとき「能力」があれば……。

ん、能力…?そうだ。


マネージャーの能力!!


マネージャーの能力は「瞬間移動(テレポーテーション)」だ。これなら瞬時にゆきの元にとべるじゃあないか。


だが、この場にいるのは、オレとマネージャーのみ。

そして、マネージャーは能力で自身を飛ばすことは出来ない…。

つまり、ゆきを助けられるのは、オレしかいない!



「マネージャー…!オレを、飛ばしてください。ゆきの元へ……」


「え……」


「このままだと、ゆきは死にますよ。今助けられるのはオレしかいない!見殺しにする気ですか!」


「で、でも、あなたは……」


「大丈夫です。オレには、この状況を打破できる。"とっておき"がありますから!」


オレは、出来うる限りの明るい表情をして、そう断言した。


「してくれないと。一生怨みます」


マネージャーは苦渋の顔を浮かべながらも。

オレの提案を受け入れた。


「……必ず。帰って、くるのよ。…約束して」

「………はい」


そして、マネージャーはオレの肩に手を触れた。マネージャーの瞬間移動の能力により。

オレは移動した。


視界が真っ暗となる。


……


マネージャーに言った、とっておきとは、もちろん「能力」の事だ。

少なくともマネージャーは確実にそう受け取っただろう。


だが。

オレには……。


オレには。能力は、ない。


そう、オレには能力がなかった。

いや、ないと言うのは違うな。

この世界に能力のない人間は存在しない。


"あらゆる例外も存在せず"にだ。


オレはまだ、きっと能力が開花してないんだ。

こんな歳になりながらも。


……



視界が明るくなる。

目の前には、ゆきがいた。


…オレはゆきの目の前に飛んでいた。


「よしっ」

「…お、お兄ちゃん!?」


「すまねえ、遅くなった。今助ける」

「あっ……」


……やはり、足は動けない。

だが、腕は動く。


オレは、ゆきの腕を掴み。そして

力の限り、ぶんなげたっ!


ゆきは、マネージャーのいる舞台袖に向かって、飛んだ。


「お兄ちゃんっ!!!」

「……………………」


心配そうな、ゆきの顔。


……オレは、ちゃんと笑えていただろうか。



……とにかく。


ゆきは、助かった。


あとは………………………………。


…………


激しい揺れの中では、足が動く事も、立ち上がることすらも。困難だった。


真上のシャンデリアは、今にも落ちてきそうだった。


くそっ。なにも案が浮かばねえ……。


こんなとき「能力」が目覚めてくれたら…!


くそっ、

出てくれよ、オレの力……!!こんなときに出せなくてなんのための力だよ……!!


なんでもいいから力をくれーーー!!


……


なんでもいいんだ……。

せめて……せめて……あいつを、笑顔にできる。

そんな魔法を……!



ガシャっ!!


……そんな願いも虚しく。


シャンデリアは無慈悲に落ちてくる


…………


あぁ、死の瞬間って、こんな感じなんだな


まるで、時が止まっているかのように、ゆっくりと感じる……。


……


オレは、覚悟を決めた。


死ぬ覚悟じゃあない。


この先、あいつらに。

"一生怨まれる覚悟"だ。



……




ー また、一緒に見に行こうね。彼方くん ー


ごめん。ねむ。


……


ー 必ず、帰ってくるのよ ー


ごめん。マネージャー。


…………



ー ずっと……。ずっとそばで、見ていてね。私のこと。


…お兄ちゃん! ー


……


「ごめん。ゆき」



ガシャアアアアアアアアアン


シャンデリアは、床に落ちた。

オレの全てを巻き込んで。


その瞬間。

オレは、意識を失った。



…………………………………………






01月07日 18時53分



月城彼方の「人生」は、終わりを告げた。




第1章 終

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