第4話 アイドル
「ねぇ、一緒に行こう?」
いつものように屋上でお昼を食べていると、眠音ねむが話しかけてきた
「うん?行くってどこに」
「コンサートだよ、コンサート!ゆきちゃんの!」
「ゆきの…?あぁそういや、ねむは。見たことあるんだったな。ゆきのコンサート」
「うんうん、だから一緒にいこぅーよー」
「しかし、なんでオレと一緒に行く必要があるのか?」
そう言うと、ねむは2枚のチケットを取り出した
「これはね、ペアチケットなんだ。ペアで行くとお得になるんだよ〜」
そして、はいっとチケットの1枚をオレに渡した。
「ペアチケね…、それなら尚更オレじゃなくてもいい気がするが」
「いやぁ、ゆずを誘おうと思ったんだけどね。今私成績ピンチでしよう?だから(そんな事してる場合じゃあないでしょおー!!)って言われると思うんだよねぇ」
ゆずというのは「三森ゆず」という、ねむの友人だ。会ったことはないが、話を聞く限りねむとは正反対の真面目な人らしい。
「なるほど、だからオレを利用しようというわけか」
「利用だなんて、人聞き悪いな〜。私と彼方くんの仲じゃあん」
確かに、昼はいつも同じ場所(屋上)にいるが、そこまで仲良くなった覚えはないぞ…
「それに、彼方くんも行くべきなんだよ。ゆきちゃん、言ってたよ。お兄ちゃんが私のコンサートに来てくれなくて悲しい、と!」
あ、あいつ、ねむにもそんなこと言ってたのか…
「ねぇねぇ行こうよいこうよ行こうよ行こよいこうよ〜」
「だぁぁうるさぁい。…ねむよ、オレは「行かない」とは言っていないぞ?」
「じゃあ?」
「あぁ、行こうじゃあないか。オレもちょうど見てみたかったところだ」
この前の遊園地でのゆきをみてから、少し、アイドルといものに興味が湧いていたのだ。
そして、オレは、「アイドル」の月城ゆきを見に行くことになった。
「…しかしお前、勉強はちゃんとしとけよ」
「ちゃんとやってるよ〜むしろ最近は絶好調よ。ゆきちゃんのコンサート見るとやる気が湧いてきて勉強うおおおおおおおおおおおってなるんだよ!私もう、ゆきちゃんのいない生活なんて考えられない!今の私はゆきちゃんに生かされるといっても過言ではないのよっ!」
……
「春野花」という街
大きなビルや建物が当たり一面にたて並び、パソコンやゲームなどの売っている大型ショップが多数ある、その道に詳しいものなら誰もが知っている街。
単純に言えば「都会」だ。
そして、この街の外れに位置する場所にある。「アイドルストリート」と呼ばれる場所に、会場がある。
その会場はアイドル専用の会場であり。日々ここでアイドルがコンサートを行っているという。
もちろん、ゆきもその1人だ。
オレとねむは、ゆきのコンサートを見るためにその会場に訪れていた。
ざわ…ざわ…
会場の中は人で埋め尽くされていた。
凄い人だ…ゆうに500人はいる。
誰もが、主役の登場を今か今かと待ちわびている。
遊園地で見た時とは比べ物にならないほどのひとの数にオレは圧倒された。
「この中で、ゆきは歌うのか……」
「もう、なんで彼方くんが緊張してるのよ…。」
「だってよォ。すげー人だぞコレ?こんな中で、本当にあいつが…?」
「アイドルならこれくらい普通だよ。彼方くんは本当にアイドルのことなんにも知らないんだねぇ。…かつてのトップアイドルだった「神崎ひな」なんてもっと凄かったんだよ?」
そんな会話していると、会場内が暗くなった。
「…あ、はじまるよ」
とねむは言った。
多くの人が見守るなか。
会場内が星空に包まれた。ゆきの能力「星のきらめき(スターフィールド)」によるものだろう。
これにより一気に会場の雰囲気は変わる。無機質な室内があっという間に美しい景色に変わった。
ざわざわしていた観客の声も星空に飲み込まれるかのように静かななった。
そして、ステージに星の光が集まり、ピカッと輝いた。その瞬間当たりは一瞬真っ白に包まれ。
それがおさまる頃には既に、ゆきはステージの中央に立っていた。
わああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!
同時に観客の声が響き渡る。まるで怒号のような歓声。遊園地で見たものとはまるでレベルが違っていた。オレはそれに圧倒された。
「なに、これ。すご…」
ゆきはソレに動じることなく笑顔で手を振った
「みんなー!会いたかったよー!」
その声に再び観客が湧く。オレもー!とか私も会いたかったよぉぉぉおお"といった声も聞こえる。(最早叫び声に近いが)
声が収まると、ゆきは歌い出した。
〜
覚えていますか あの雪の降る夜
私たちは 出会った 〜
これは王道のラブソングのような歌である。
ゆきはその歌をしんしんと歌い上げた。
観客からは拍手が巻き起こる。
そしてその後もゆきは歌い続けた。
アップテンポな激しい曲もあれば
バラードのようにしっとりと歌い上げる曲もあり様々だった。
遊園地で見たゆきの姿は、あくまでほんの一部分だったのだと実感した。
アップテンポ曲なら観客も同様に腕を振り上げ盛り上がり。バラードなら観客も静かに聞き入る。
ゆきと一緒にに観客もステージを一緒につくりあげているのだ。
これがアイドル、か…。
なにより凄いのは、ゆきだ。ゆきはただ歌っているだけじゃあなあい。歌いながら様々に踊っている。それはきっと単純なことではないはずだ。
それに何曲も連続で歌っても息を切らす素振りすら見せない。あいつあんなに体力あったのか。
「まったく…、あいつはいつの間にあんなに…」
…
オレはふと、隣人がまったく話しかけてこなくなっていたことに気づいた。
「ねむ…?」
そしてふと、横を見ると。
「うおおおおおおおおおおお!ゆきちゃん!ゆきちゃん!マイベリーエクセレントスイートエンジェルゆきちゃんうおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そこには、今までに見たことの無いような生き物がいた。
ねむは激しく身体ぴょんぴょんとさせ腕を振り回しながら叫びまくっていた。
「お前、本当に。ねむか…?」
……まぁ、普段あれだけのほほんとしてる、アイツがこんなになってしまうほどに。月城ゆき、というアイドルはすごいという事なのだろう。
……
「今日は本当にありがとうーー!!!!みんなぁー!また会おうねえーーー!!!!」
わああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!
と観客の声が響く。
10曲ほど歌って、ゆきのコンサートは完了した。
………
帰り道
ねむは道が違うので既に家に帰ってオレは1人だった。
そこへ……
「お兄ちゃーん!」
妹のゆきが現れた。
「ゆき…」
「ねぇ、お兄ちゃん、さっき来てたよね…?」
「え、わかったのか?オレがいるの」
「わかるよ、だってお兄ちゃんだもん。それに、ねむちゃんと一緒だったね」
あの会場には500人近くはいたってのに、あの中からちゃんと1人1人見分けられるのか?
「ねぇ、どうだった?感想は?この前とは全然違ったでしょ?」
「そうだな、なんだか圧倒されたよ。まるで、別の世界にいるみたいだった。…それに、なんだか楽しかったよ。スッキリした気分になった」
これは正直な感想だ。最初は戸惑いもあったが、次第に会場の雰囲気にのまれ、後半はすっかり自分もあの世界観に乗ってしまっていたのだ。それはきっと、ゆきの歌の力によるものだったのだろう。
それに、あのねむの姿を見て自分もなにか吹っ切れたのかもしれない。
「ふふっ、そうでしょ?私からも見えていたよ。楽しそうなお兄ちゃんの姿。……そうして楽しんでくれる人がいるから、私はね、アイドルやっているんだよ。お兄ちゃんを楽しませられなきゃアイドルじゃないよ」
「はは、なんだそりゃあ」
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