第21話 高圭嘉の恥知らずな依頼
「どちらさまでしょうか?」
門の内側のところまで行くと、いまは閉められている
「ああ、紅月か。――ちょうどいい。私だ、
開けてくれないか、と、どこか下手に出るような猫撫で声が聞こえてくる。
「……何の、ご用ですか」
警戒心も顕わに訊ねる。蘇家と高家とは断交して長く、ここ数年来、家人の行き来すらなかったのだ。それを、高家の嫡男が、いまになって急にどんな用向きでの来訪だろうか。
門扉を堅く閉ざしたままのこちらに
「なあ、紅月。おまえに言付けを頼みたいんだ。皇太孫殿下に」
「なに、を……
「殿下に、我が家の宴席をお訪ねいただけるようにと、正式な招待の書状をお届けしたい。おまえ、殿下と懇意なのだろう? 昼間、
圭嘉が口にするのは、吐き気がするような打算だった。よくも恥ずかしげもなく言うものだ、と、紅月はくちびるを引き結ぶ。
皇太孫に取り次ぎを、と、そう言ってくる圭嘉の――あるいは高家の――思惑は、紅月にもすぐに呑み込めた。すなわち、この
朗輝と紅月との縁談は内々のもので、
そこには、あわよくば高家の末の令嬢である
「今更そちらに、そのようなことをして差し上げる義理はございません」
紅月はきっぱりと断った。
圭嘉とは破談になった
それを、わざわざ労を割いてまで、どうして圭嘉を利してやる必要があるのだろうか。
紅月は門扉を開けるつもりもなかった。
「お帰り下さい」
そう言い棄てて、
「――……いいのか。そんなふうに突っ
ふと、不気味に低くなった圭嘉の声が、紅月の足を止めさせた。
「なあ、紅月。皇太孫殿下は、おまえの
問われて、紅月は言葉を詰まらせる。ぐ、と、言い
「ああ、その様子じゃあ、知らせていないんだろうな。――まあ、それも、そうか。月仙女・
なあ、と、そう言う圭嘉の声は、紅月の背筋を凍らせた。
「不吉だ、などと……だいたい、紅月など、
途切れ途切れにはなりつつも、反論を試みる。紅月が口にしたことは事実で、圭嘉もそれはすんなりと認めた。
「まあ、な。大事なひとり娘とか、容貌が麗しい娘なんかは、姮娥娘々に気に入られて天に召されてしまわないようにって、
圭嘉が言い掛けたとき、ついに
き、と、そこに立つ男を睨みあげる。圭嘉はこちらの顔を見下ろして、口角を
「どうした? 私はただ事実を口にしようとしただけだろう?」
「黙って、ください」
「皇太孫殿下は、その頃はまだ幼く、おまえの不吉な風聞をを知らないかもな。ここは私が、それとなくお耳に入るように計らおうか? 皇宮の
圭嘉の言葉に、紅月はますます目を怒らせた。
「……脅す、つもりですか?」
「はは、まさか。元
わざとらしく肩をすくめてみせる圭嘉に、紅月は
けれども最後には、無言のままで、相手から引っ
「……とりあえず、預かります。殿下がお受け取りになるかどうかまでは、保証できません」
「ああ、頼んだ」
ひらりと手を振って去っていく背中を、紅月は射抜かんばかりに睨み据える。乱暴に門扉を閉めて、父のいる正房に戻った。
「……どうした?」
紅月の尋常でない様子に、英俊が立ち上がり、こちらの肩に触れる。
「高圭嘉さまが……皇太孫殿下に、これを届けよ、と」
紅月は眉を顰め、それを受け取るしかできなかった自らを
「六日後に、末のご息女の成人祝いの宴を催すのだとか。そこに殿下をぜひお招きしたいから、と……わたしに、橋渡しを頼んできました」
「お前と殿下のことを、知った上でか?」
「いえ……それは、ご存じないかと。昼間、圭嘉さまとは、
「あわよくば縁を得て、皇太孫妃に、と、そう思いついたというわけか」
「それは……名家と呼ばれる家柄で、皇太孫殿下と似合いの年齢の令嬢が家にあれば、誰しも、考えますでしょう。父上も、わたしがあと、
強いて冗談めかして言い、紅月は笑って見せた。
そんなこちらに、英俊は痛ましそうに眉を寄せる。
「紅月……無理をせず、捨ててしまっても良いのではないか。殿下はお受け取りにならなかったとか、言い訳など、いくらでも立つだろう」
かつて一方的に婚約を白紙にしておいて今更頼ろうとしてくるなど虫が良すぎる。そんなものは放っておけ、と、そう英俊は言ったが、紅月は力なく首を振った。
「いいえ、父上……判断は、殿下にお
お願いします、と、そう言いおくと、紅月はひとり自分の
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