紅月夜話-妖女と呼ばれ婚約者に棄てられた令嬢がいまさら皇太孫殿下に愛される理由は何ですか?-
あおい
一章 皇太孫殿下との縁談が降って湧きました。
第1話 算術趣味のひきこもり令嬢
「
そして、父が呼んでいるのは、まぎれもなく
が、しかし。
それを聴いても、呼ばれている当の本人である
書卓に広げた布との
「
紅月はそんなことをぶつぶつとつぶやきながら、細い
そのまま
そして、升目のいくつかの中には、
紅月の手は、先程から、その算木を次々と移動させているのだ。
「国の
ぶつぶつと言いながら、慣れた手つきで算木を
さて、その間も、父が紅月を呼ぶ声はやんではいなかった。
加えて、どたどたと
しかも、だ。
声も足音も、間違いなく、
それでも紅月は。まだ
「――紅月っ!」
やがてついに、父が
彼は遠慮なく扉を押し開けた。
「――三
そのまさに同じ
書卓に広げた布と棒きれとをひと
「今年、
笑いながらつぶやくのは、そんな
「どう思われますか、父上?」
そこでようやく、紅月は扉のところに立つ我が父・
挨拶のために軽く
「紅月……お前はまた、算木趣味になんぞ
英俊はいかにも困ったという表情で
そんな父を前に、紅月は長い
「お言葉ですが、父上。いちおうわたしにも縁談はありましたでしょう? 破談になったというだけで」
紅月の反論に、英俊は眉を
「
きっぱりと言って、また深い溜め息をつく。
紅月も苦笑した。
縁談はあったが、破談になった。
かつ、それが一度や二度のことではなく、数度にわたった上、
それがまさしく、いつの間にか
紅月の父である英俊が当主を務める蘇家は、代々高官を排出してきた、いわゆる名門の一角を占める家柄だった。英俊もまた、
その令嬢ともなれば、普通なら、成人すればすぐにでも、それなりの家格の家へ嫁いでいておかしくはなかった。実際、蘇家と
そして紅月にも、成人に際して、婚姻の申し入れはあったのである。
紅月が幼い頃に亡くなった母と、相手の母親とが、もともと親しい
それが正式なものになったのが、紅月が十六歳を迎えてからのことだ。
両家そろっての顔合わせの後、許婚となった相手とは、幾度かふたりで逢瀬も重ねた。十六歳だった紅月は、自分はこの人と結婚するのだ、と、当時、
けれども、自分たちが結婚に至ることはなかった。
――なんて、気味の悪い。
やさしかった許婚は、あからさまに顔を
――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます