高校生2人が幼馴染から進化する話
キャビアうどん
第1話 - 1
俺の名前は岡田
俺は雑魚だ。
世の中には俺より賢い人がたくさんいて、そういう人は誰に教えられるでもなく自分から積極的に動く。そして、そこからさらに学びを得て、どんどん成長するのだ。
だが俺には才能がない。
まず記憶力はあまり良くない。計算も早くない。コミュ力が強い訳でもないし、共感力とか、想像力とかはなおさらだ。
どれか一つでもあれば、何かしら才能が開花したんじゃないかと思うのだが、どうやら俺は恵まれなかったらしい。昔から劣等感が強いだけにいろいろチャレンジしたが、結局うまくいったことはなかった。
小4の時はユーチューバーになろうとして、ゲームを作りたいからプログラミングの勉強をしたし、音楽の才があるんじゃないかと思ってギターを触ってみたりもした。
ああ、あの時はやればやるだけ上達すると思ってたっけ。まあ、そういう能力は生まれつきランダムに決まっているというだけなのだろう。劣等感だけで自分が動いていたと気づいたら、どうでもよくなった。才能のある人は、楽しいから、とかまだ上達できるから、とかそんなことを言って自分を磨くのだ。
俺にはできないことだ。
「あ、修一くん、ごめんけど、ついでにメトロノームも持ってきてくれる?」
音楽準備室に入りかけた俺に向かって声をかけたのは、椅子に腰かけながら、腕に抱えたサックスを組み立てている男子、大村
「ああ、いいよ」
返事をしながら、俺は音楽準備室に入る。音楽室と音楽準備室は扉で直接つながっていて、部室として使っている音楽室から廊下に出ることなく入ることができる。
部屋は結構広くて、譜面台とか打楽器とか、端のほうにはしばらく使われていないらしいアップライトピアノなんかもある。静かな部屋の中を歩いて、メトロノームのある棚に向かう。
まず目につくのは、アンティークな振り子式のメトロノームだが、特にアナログ式のを使う理由はないので下の引き出しにあるデジタル式メトロノームを手に取る。見た目は小さな電子機械。液晶とスピーカの音でリズムを伝える。
それから空いている左手で譜面台を持ち、部屋を出る。
音楽室では、勝志がなにやら真剣な顔でサックスの歌口の部分をはむはむと咥えたりしている。サックスは、歌口にリードという繊細なパーツを使う楽器なので、手入れとかが大変らしい。
これは聞いた話だ。俺はリード楽器を演奏できないから。
俺たちは吹奏楽部・・・ではなく、人数が足りなくてアンサンブル部だ。アンサンブルというのは、定義的には2人以上の合奏を指す。このアンサンブル部では、おのおの好きな楽器を練習して、たまに合奏、みたいな感じだ。周りが田舎で学校自体の規模も小さく、どうにもふわふわした感じの活動になってしまう。
部員は全部で7人。・・・俺はこのふわふわした雰囲気がちょっと好きだったりする。
勝志は、俺が戻ってきたことに気が付くと、ぱっと顔を上げる。
「メトロノームその辺に置いておいて。・・・あ、譜面台持ってきてくれたんだ。ありがと」
勝志がちょっと恥ずかしそうに笑う。
勝志はいつもこういう感じで、なんか上目遣いっていうか、変に下に出る感じがある。これは今に始まったことではなく、他の人に対しても同じだ。
こう見えて、実は幼馴染なので知っている。
「別に。これぐらいならいつでもやるよ」
俺はそう返しながら譜面台を置く。
「そっか・・・。修一くんはさ、僕のことどう思ってる?」
「あー・・・大切な友達かな」
なんだろう突然。あんま考えたこと無かったけど。
「それより、チューニングはいい感じか?」
「え、あ、うん」
言われて気づいたかのように、勝志は再びサックスのほうに目を落とす。それから、試しに吹いて鳴らしたりし始める。
俺は勝志が演奏を聴くのが好きだ。・・・いや、音色も好きだが、本当は演奏している姿を見るのがもっと好きだ。
なんか下心があるようで申し訳ないが、演奏している勝志の瞳を見ると、熱い情熱が内包されているような気がするのだ。俺の中をどんなに探しても、決して見つからないような熱い感情だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます