第11話「部活帰り」

 ある日、私は部活を一生懸命頑張った後、部室で着替えていた。

 体育館の横に部室が並んでいる。バスケ部は男女で隣同士だった。隣から男子の楽しそうな声が聞こえてくるな。

 中体連ももうすぐだ。三年生の先輩方は絶対に勝ち進むと気合いが入っていた。監督の先生から私もベンチ入りして、試合に出てもらうことがあると言われた。頑張らないといけないなと思った。

 着替えが終わって、みんなが職員室の近くに集まる。終わりの挨拶をしてから帰るのがいつもの流れだった。

 先生の話があって、お疲れさまでしたと挨拶をして帰ることになった。夏だからかこの時間でもけっこう明るいな、そんなことを思いながら帰ろうと校門を出ると、


「――あれ? 若月?」


 と、後ろから声をかけられた。見るとなんと白石くんがいた。


「あ、あれ? 白石くんも今帰ってるの?」

「うん、図書室で本を読んだり勉強したりしてて。あ、途中まで一緒に帰らない?」

「あ、う、うん、いいよ」


 二人並んで帰ることにした……が、そのことに気がついた三年生の先輩が、「仲良くしなよ~!」と言いながら手を振って走って行った。う、うう、当たり前だが部活の同級生や先輩に見られることもあるわけで……恥ずかしい……。


「ご、ごめんね白石くん」

「ううん、大丈夫。部活ってこんな時間までやってるんだな」

「そうだね、夏は日が長いからこの時間までかな。冬はもうちょっと短いけど」

「そっか、若月も頑張ってるんだな」


 白石くんにそう言われて、私はちょっと嬉しい気持ちになった。


「ふふふ、そうだよー、授業中寝てるだけの女じゃないからね!」

「そこでドヤ顔するのはどうなんだ……そういえば今日もなんかうとうとしてたな」

「うっ、す、すみませんでした……」

「いや、それが若月らしいよ」


 あ、あれ? 注意されなかったぞ……? でも、若月らしいと言われるのもちょっと恥ずかしかった。


「い、いや、次から気をつけます……」

「うん、その方がいいね。ノートはとれた?」

「う、うーん、それが途中書けてないような気がするんだよね……」

「そっか、じゃあノート貸してあげようか、明日持って来てくれればいいから」


 白石くんが鞄からノートを取り出して、私に差し出した。


「え!? い、いいの? ありがとう! あ、でも白石くんも勉強するのでは……」

「いや、テストも終わったし、今日はもうしないから大丈夫」

「そ、そっか、ありがとう、このご恩はいつか必ず……!」

「いや、気にしなくていいよ。それよりも家でちゃんと寝てる? 授業中眠いのは寝てないからとか?」

「うっ、い、家でもぐっすり寝ております……」

「そっか、寝る子は育つって言うらしいからな」


 そう言って白石くんが私の頭をなでなでしてきた。


「……ええ!? あ、そ、そうだね……あはは」


 う、うう、なんか顔が熱くなってきた。これは暑さのせいではないな、恥ずかしくなってちょっと俯いた私だった。

 そんな話をしながら、白石くんと別れる交差点まで歩いて来た。


「じゃあ、また明日」

「う、うん、また明日」


 白石くんが小さく手を振って帰って行く。私はその姿を少しボーっとしながら見つめていた。


(……あ、あれ? 私、なんか変な感じ……なんだろう、この気持ち……)


 なんだか胸がドキドキするというか、不思議な感じがした。この気持ちに気がつくのは、そんなに遠くない未来だった。

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