ちょっと背伸びしてみたいお年頃
りおん
第1話「ノート」
「はい、ここテスト出るぞー、ノートにとっておけよー」
(ふぁぁ……授業ってなんでこんなに眠いのかな……)
左手であくびを隠しながら、右手でノートにペンを走らせる。中学生になってからだと思うが、授業中に睡魔に襲われることが多くなった。淡々と話す先生の声が催眠術のように聞こえる。
私、
きっと眠い授業をする先生のせいだ、と勝手に決めつけてしまう。
「ここも出るぞー、書いとけよー」
(はいはい、テストに出る……の、ね……)
そこから先の意識はなかった。
* * *
キーンコーンカーンコーン。
(――ヤバっ、寝てた……)
終業のチャイムと同時にハッと気がつく。今日も先生の話は全て催眠術だった。みんなどうして眠くならないのだろうか。
ノートにミミズのような線が書かれてあることに気がつき、ゴシゴシと消しゴムで消す。眠いながらも頑張って書こうとしていたらしい。
(ヤバいなぁ、途中から全然書けてないや……)
授業が終わったので、黒板は日直がどんどん消している。ノートは授業の三分の一もとれていない気がする。先生がテストに出ると何度も言っていた……ような記憶があるので、大事なところもあったのだろう。これはまずい。でも私はこういう時いつもとる行動がある。それは――
「白石く~ん……ノート、見せてくれない?」
「またかよ……お前また寝てただろ」
「えへっ」
「えへっ、じゃねぇよまったく……ほらよ」
「ありがとうー!」
そう、白石くんにノートを借りるのだ。
黒、赤、青の三色で、色数は決して多くないが、大事なところをしっかりと書き分けてあり、それでいてとても見やすい。先生が黒板に書いた内容だけでなく、話した内容も書かれてあって、そのあたりの変な参考書よりも役に立つ。そして整った綺麗な文字。いつみてもはあぁとため息が出る。
――私は、白石くんのノートに恋をしていた。
「――なに、人のノートみてボーっとしてんだよ」
いきなり話しかけられてドキッとした。顔を上げると白石くんが不審そうな目でこちらを見ている。
「な、なんでもないよ……」
「ふーん……ちょっと若月のノート、見せて」
「え……え!? だ、ダメに決まってるじゃん」
「なんでだよ……俺はいつも見せてるのに。じゃあ俺のノート返せ」
「う、うう……」
それは嫌だ、まだ内容写してないし、もっと見ていたい……。
私はしぶしぶ自分のノートを白石くんに差し出した。
「ふーん……」
ペラペラとノートをめくる音が聞こえる。先程のミミズのような線は消した。でも白石くんのように綺麗な文字ではない。恥ずかしくてだんだんと耳のあたりが熱くなってきた。
「……三十点」
「え?」
「若月は、まず授業中に寝る癖を直そうか」
白石くんはそう言うと、私の頬にそっと手を当てた。
「――え?」
「寝る癖直したら、ノート取るコツ、教えるよ」
私の頬を触っていたその手で、今度は軽くおでこをつついて、白石くんは自分の席へと戻って行った。
「……い、今の……って」
耳のあたりの熱が、顔全体へとうつっていくのが分かった。今にも沸騰しそうだ。
あれ? 私は何に恋をしているんだろう……。
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