永久に続く愛

花園眠莉

永久に続く愛

 何度生まれ変わっても、どんな姿であろうと、どこで会っても必ず『貴方』だとわかるから。だから、また私に出会ってね。


 私は今日も何となく外をふらつく。特にやることもないから。貴方を救う時に命を捧げる契約してからは仮初の命を貰い生きている。正しく言えば生きてはいないのだけれど。私の命を投げ出して、死神になっても貴方を救いたかった。実際は陰と陽が結びつく原理と一緒で半永久の命と死が結びつくだけだから死神とは違うけれど。


 ふと、一人の男が目に入った。『貴方』だとすぐにわかった。私が『貴方』の近くへ行く…よりも先に話しかけてきた。

「すみません、そこのお姉さん。今時間ありますか?」あまりにも下手なナンパで私を引き留めた。その姿が愛おしくて微笑む。『貴方』の為なら時間を空けるのに。

「はい、空いていますよ。」

「…よかった。ええと、近くにゆっくりできそうなカフェがあるので…行きませんか?」何も用意していないのがバレバレで、変わらないことに安心した。私は頷いて彼についていく。


 落ち着いた雰囲気で居心地の良さそうなカフェだった。メニューを見ると横文字ばかり並んでいて何を食べようか悩む。私の好きな見慣れた文字を見つけ注文を決めた。

「何頼むか決めました?」頷くと彼はベルを鳴らした。

「お待たせいたしました、ご注文どうぞ。」店員さんは爽やかな笑顔で対応をしてくれた。

「抹茶ラテとチーズケーキをお願いします。」私に続けて彼は注文をした。

「アイスティーとショコラタルトをお願いします。」

「かしこまりました。」


 彼が私のことを覚えているのか聞いてみたくなった。覚えていて欲しいという願いの通りになるかはわからないけれど。

「なんで貴方は私をカフェに誘ったんですか?」直接聞けなくて遠回りの質問を言葉にする。

「ええと、変に思ってしまうかもしれない理由なんですが…貴方を見た瞬間、何故か話さないと、引き止めないと後悔するって感じたんです。ナンパをしたことがないのでスマートには出来なかったですが。」覚えてはいないけれど何処か体が覚えていてくれたのかな。それだけで嬉しくなる。

「嬉しいですよ。」


 少し遅くなった自己紹介を始める。

「えっと、僕は羽川宙音と言います。お姉さんの名前はなんですか?」そらねという音が好きだな。貴方だから好きなのかもしれない。

「私は、桔梗です。」仮初の命の名前を言う。名字も真名も名乗ることはできない。

「桔梗さん、素敵な名前ですね。」へらりと笑う彼に笑顔を返す。

「お待たせしました、アイスティーと抹茶ラテとチーズケーキとショコラタルトになります。ご注文以上でお揃いですか?」先程とは別の店員さんが持ってきてくれた。

「はい、ありがとうございます。」彼は軽くお辞儀をする。細かいところでありがとうを言う癖は相変わらずなんだ。

「ごゆっくりどうぞ。」


 「美味しそう、頂きます。」二人で手を合わせてから食べ始める。

「このショコラタルト、サクサクしていて美味しいです。」

「このチーズケーキもどっしりしているけれど軽くて食べやすいです。」それぞれケーキの感想を言いあって食べ進める。抹茶ラテも抹茶感があって美味しい。暫く無言の時間を重ねる。


 「あの、変なことをまだ会って間もないのに、身の上話をしてもいいですか。」急な言葉に驚くけれど、どこか覚悟を決めていた。突拍子も無いことを言うのは変わらないまま。

「勿論です。」


 「つい先日、余命を言い渡されました。いつ、歩けなくなるかもわからないみたいで。そんな中、貴女にあったんです。最期に素敵な思い出になりました。…でも、怖いんです。誰とも深く関わって来なかったものですから忘れられそうで。」私はずっと、ずっと貴方を覚えていますよ。

「私とお話しているので大丈夫ですよ。記憶力は良い方なので。」ふと口から溢れた言葉は飾り気のないものだったけれど本心だった。すると宙音君は目から涙を流した。私は未使用のハンカチをそっと差し出した。彼は受け取って涙を拭う。

「すみません、こんな姿を見せて。」

「その一面をこんなと言わないでください。」彼は私を視界に捉えた。

「桔梗さん、僕達、昔会ったことありますか?」唐突に、けれど真剣に聞いてきた。

「ずっと、ずっと前に会ったことありますよ。」嘘ではないけれど本当のこととも少し違う。

「やっぱり、そうなんですね。」そういった後『貴方』に戻った。


 「いつも、先に死んでごめん。ねえ、理桜。…何か、わからないけど怖い、怖いよ。」はらはらと涙を零しながら『貴方』は言葉を落とす。

「私がいるから大丈夫だよ。」隣へ行きそっと手を握ってそれから抱きしめた。『貴方』が酷く苦しそうに泣くから私も視界が揺れた。

「理桜が言うなら大丈夫かな。」かつての名前で呼ぶ『貴方』は声を震わせながら呟く。

「理桜を置いて死にたくないよ。死ぬのは怖いよ。ねえ、理桜。」言葉を交わすたびに不安がこみ上げるんだろう。縋る様にハグを交わしたまま泣き続ける。

「私は貴方が大切だから、ずっとそばにいるからね…玲君。」必ず死ぬ前には一度『玲』に戻る。

「そろそろ、宙音に身体、戻してあげないと。」もうそんな時間なんだ。額と頬にキスをあげ、向かいの席に戻る。

「またね、玲君。」『貴方』に本を手渡す。


 ふわりと笑って宙音君に戻った。飲み終えたグラスと空になったお皿を重ねて紙を渡す。

「宙音君、これ私の電話番号とIDです。」宙音君は目をパチパチさせて驚いている。顔をふっと緩めて穏やかに話し始めた。

「あの人と話せたんですか?」次は私にハンカチを渡してくれた。

「はい。」


 「今日は本当にありがとうございました。もし良ければ今度またお茶でもしましょう。」宙音君は柔らかな声色で素敵な提案をしてくれた。

「はい、勿論。今度は宙音君ともお茶しようね?」宙音君は凄く驚いていたけれどこれは私の本心。

「またね、桔梗さん。」

「またね、宙音君。」

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