第24話 幕間 天岸銀の腕試し

 コラボ動画の撮影が終わった。動画の編集や配信については『ん、あとはこっちで全部やっとく』というリリィ先輩の言葉に全てを託した。

 あの人は古参のS級探索者であると共に、歴戦のS級インフルエンサーでもあるので上手い事やってくれるだろう。

 

 今回のコラボ動画は【配信】スキルで撮影したものをD Mサイトの限定公開アーカイブからコピーし、一般の動画投稿サービスでもって配信する事になっている。

 俺は普通の動画投稿サービスのアカウントを持ってないので、既に高い知名度を誇っているリリィ先輩のアカウントでもって動画公開しよう、と話し合って決めた。



 

 そして現在。

 久方ぶりの休日。

 コラボ動画が公開されるまで、家で大人しく休んでいる――――なんてことはなく。


 俺はダンジョンに来ていた。ちなみに配信はしていない。

 なぜなら、俺が配信するとコラボ動画のネタバレになってしまうかもだからだ。


 あのコラボ企画で俺は進化した。

 リリィ先輩のお陰だ。

 俺は最初、あくまでも先輩の固有魔法【遊戯魔法】の効果内での話であり、先輩の固有魔法が切れれば、俺の成長した身体能力も無くなるのだと考えていた。


 だが、先輩によるとソレは違うらしい。

 俺の進化は探索者がダンジョンに潜る事で強化されるのと同じ事であり、先輩の固有魔法はそれをお膳立てしただけとの事。


 先輩は色々と詳しく説明してくれたが、俺は理解できなかった。

 とりあえずだ。俺、超、強くなった。以上。



 

 ―― 閑話休題それはともかく




 俺は今、数年前に出来たという攻略済みダンジョンの奈落に潜っている。

 進化した身体能力や魔法を試すために、だ。


「【領域魔法】、『虚閃きょせん領域』」


 こちらにブレスを吐こうとしていた水色の竜――フロストドラゴンの首を刈る。

 その巨体はよろめき、ボデンと倒れ伏した。胴体から離れた頭部がゴロンと転がる。

 そして塵と化し、残ったのは水色の鱗と巨大な魔石だけだった。


 それを見て俺は思った。


「(俺、強くなりすぎじゃね?)」


 フロストドラゴンは攻略済みダンジョンの奈落に出現するモンスターだ。

 俺がS級になる前に、戦った事がある。

 その時は負けはしなかったが、まあまあ苦戦したのだ。

 

 その鱗はあらゆる攻撃を防ぎ、俺の近接戦闘を封じた。しかも熱に耐性があり、俺の得意魔法である『灼天領域』はほとんど効かず。生き埋めにしようにも、その巨体の持つ破壊力でそれも叶わなかった。

 結局、フロストドラゴンが大口を開けた所に遺物【絶頂重槍パイルランサー】をぶち込んで倒したのだ。


 そんな強敵が一撃だ。

 要因は分かってる。固有魔法、【領域魔法】の進化。俺は固有魔法の原点に至った。

 『承認欲求を満たしたい!!』という俺の願望を叶える為に芽吹いた魔法。

 ……自分の承認欲求を満たす為に敵を火だるまにしたり、生き埋めにしたり、斬首刑に処したりするって、我ながらぶっ飛んでるな。

 

 今まで感覚でやっていた固有魔法の制御。ソレを理屈を理解した上で行う。それだけで俺の固有魔法は化けた。

 

 正直な話、コラボ3日目の時の俺は気が狂ってた。果てしない万能感。承認欲求本能に突き動かされるように魔法を生み出し操れていた。

 

 新たな領域の創造なんて滅多にやらない。いや、やらないというより、出来ないと言う方が正しいかもしれない。『灼天領域』が“炎で焼く”というシンプルな効果を持つように、複雑な効果を持つ領域を生み出すのは難しいのだ。

 

 俺は、なんで“固有魔法の無効化”という効果を持つ領域を生み出せたのか、自分でも良く分かってない。

 やはり、俺の無尽の承認欲求が底力を見せてくれたのだろうか。

 

 ……まあ、強くなれた要因は他にもあるかもしれない。俺が土壇場で創り上げた『虚閃領域』は領域範囲を狭める事で、領域効果の圧縮を可能にしたという訳分からん技術を使ってる。これは、他の領域にも転用できる技術だろう。たぶん。

 本来、俺の魔法に耐性を持つ存在フロストドラゴンなどにも貫通するようになっているのかもしれない。


 そう言えば――――


「お見事です。マスター」


 思考の海から引き上げられる。シトリンだ。

 俺が倒したフロストドラゴンのドロップ品を抱えて近づいてくる。


「いやぁ思ったより強くなってるね。これなら未攻略ダンジョンの奈落モンスターもワンパンかもな〜」


「はい。全てマスターのお力です。マスターに敵う存在など、この世にはありません」


 淡々と言葉を紡ぐシトリン。その黄金の瞳は俺を見ているようで、どこか、別の場所を見ているような、不安定さを孕んでいる。

 

 俺の底無しの承認欲求の事とは別に、俺には悩んでいる事がある。


 コラボ企画の後からシトリンの様子がおかしいのだ。

 

 なんて言うべきか、元気さ、あるいは積極性がない。いや、元々シトリンはクールな女性だが、ネガティブな女性では無かったはずなのだ。

 心ここに在らず。フワフワと目を離したら何処かに飛んで行っちゃいそうな儚さがある。

 そんな姿もまた魅力的に見えるのがマズイ。何が正解なのか分からなくなる。

 

 よし。今日のダンジョン探索、魔法の腕試しはこれくらいにして家に帰るか。寝れば大体の事は何とかなるのだ。


 俺はシトリンを連れて、ダンジョンから脱出した――。



 





*―――――――――――――――――――――――*

《業務報告?》

次話より3章入ります

なるはやで仕上げます

 

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