第5話 下層攻略配信

●REC――――渋谷未攻略ダンジョン21階層


「いや〜、まさかボスも貫通しちゃうとは思わなかったな」


 くそう。そこまで頭が働かなかった。深層のボスだとパイルバンカーだけでは倒せないんだが、中層ボスだとその程度だったのか。


▼コメント

:中層ボス(C〜B級案件)を一撃で倒す遺物

:凄かったわ

:てか大丈夫なん?他の探索者に迷惑じゃない?

:面白かったからOKです


「あぁ、他の探索者とかは大丈夫だよ。この渋谷ダンジョンにいるの僕だけだから」


 日本はダンジョン大国。渋谷にも幾つかのダンジョンがある訳だが、ここは渋谷ダンジョンの中でも一番若いヤツなのだ。


「今日はこの渋谷ダンジョンの最下層を調査する依頼と並行して配信してるんだよね。渋谷って人多いからさ、探索者人口も高いわけよ。だから、サッサと攻略済みにしてくれ〜って依頼ね」


▼コメント

:ほへ〜そういう依頼もあるのか

:それ、メッチャ危険じゃない?

:つまり貸切ってコト!?

:流石S級

:ダン協「新しいダンジョン出来たから最下層まで調査してきてね」S級さん「分かりました!」人死んだらどうするん??


 コメントで心配の声が上がっている。嬉しい。こんな俺を心配してくれるなんて!!


「大丈夫。ヤバいと思ったら引き返すし。僕、S級だから奈落級のダンジョンじゃ無い限りよゆーだよ」


 ダンジョンは十層毎に攻略難易度が上がっていく。上層、中層、下層、深層、奈落になるにつれ、ダンジョンはより凶悪に、強大に変貌していのだ。


▼コメント

:普通に心配なんだが

:ヤバそうなら引き返せよ

:ガンバレ

:S級さんなら行けるよ!!


 俺への心配や応援で溢れるコメント欄。シンプルに嬉しい。けれども、俺は下層のモンスター程度に遅れは取らない。まだ、俺の強さを信用しきれて無いのだろう。まあ、初配信だし仕方ないか。


 最近のダンジョン配信のトレンドを見ていて思った事がある。

 ――配信者弱くね、と。

 昨今のトレンドは可愛い探索者やイケメン探索者が攻略済みダンジョンで戦う事らしい。が、実力以上の階層に行って惨殺されるなんて事が多々あるようだ。


 おかしいだろう。ダンジョンは娯楽だ。例えその死が偽物だとしても、娯楽で人が死ぬなんて、時代を逆行でもしているのか?


 俺は目立ちたがりだ。しかし、そんな俺にもポリシーがある。

 ――相手を不快にさせない、万人にウケる目立ち。

 確かに人の死を好む人間もいるかもしれないが、それは少数だ。


 考えてみろ。

 親が小学生の子供に、人がゾンビアタックしている配信を見させるか?

 ――否。

 心臓の弱い老人が、孫と同い年の人間が死ぬのを眺めて喜べるか?

 ――否。


 ダンジョン配信者に必要な一番の才能、それはしくもダンジョン探索者に必須の才能と同じなのだ。

 

 ――他を寄せ付けない、圧倒的な『強さ』。


 それが俺が辿り着いた答えであり、これから俺が証明するモノの名前だ。


 人はその強さに安心できる。この人は死なない、倒されない、必ず最後には勝ってくれるという安心感。

 物語のヒーローが必ず悪を倒すように。俺はモンスターを打ち負かす。


 安心感のある娯楽。俺が提供できる、最大のコンテンツ。


「(だから、もっと俺を見てくれ。俺というヒーローを。新時代の英雄を、世界に見せつけろッ)」


 未攻略ダンジョン下層攻略配信という事が広まったのか、視聴者が続々と増えてきている。

 中層ボス戦は百人程度だったのが今、数千人が俺の勇姿を観に来ている


「(アァ、最高だ。俺は今、目立ち続けてるッ!)」


 もちろん、これらの考えは顔にも態度にも出ていない。極限まで極まった【ポーカーフェイス】&【詐欺】スキルは全てをあざむいてくれるのだ。


▼コメント

:初見です

:S級って本当ですか?

:今北産業

:S級探索者さん

:未攻略ダンジョン下層で

:配信中

:あなたのようなS級を知りません


 初見コメントも増えてきている。


「S級なのは本当だよ。ダンジョン協会のホームページにも載ってるから気になったら見てきてね」

 


 さて、コメントと雑談したり、ダンジョン攻略解説をしたりと、下層に降りてから十分が経過した訳だが――――


「うん。おかしいね」


▼コメント

:何が?

:明らかに異常

:俺も探索者だから分かるけど、下層でこんなにもモンスターと出会わないなんてイレギュラーすぎる

:あー、確かに


 そうだ。モンスターが居なさすぎる。いや、正確にいうと【感知】系スキルでチラホラと見かけているのだが、すぐに感知範囲外に逃げていくのだ。まるで何者かに統率されてるかのよう――――――おっと。


「あー、モンスター居たね。この先の広い大部屋に集まってるみたいだ」


▼コメント

:それって統率個体がいるって事?

:知能があるタイプは厄介

:下層で他のモンスターを統率できるモンスターなんていたか?

:一度撤退したら?どれだけ感知出来たのか知らないけど

:ヤバいなら引き返せ


「感知できる範囲だと百はいるね。というか…………単一種族?」


 【感知】&【ナスカの俯瞰図】&【鷹の目】スキル発動。この三つを組み合わせると遠く離れた場所の風景が詳細に把握出来るのだ。

 ふむ。


「コレは……サルだね」


▼コメント

:サルゥ??

:ウッキー

:ウキッウキッ

:ウホッ

:ウキキキ

:ゴリラ居たな

:下層にサルのモンスターは居ない。つまり、そのダンジョンの固有種or新種or何らかのイレギュラー

:フィールドボスの可能性は?

:特徴ある?


「黒いサルだね。んー、クロザルって動物に似てるかも。ただこのモンスターは尻尾が真っ赤なんだよね」


 こういう時【鑑定】スキルでもあれば楽なんだが、人類は【鑑定】スキルをまだ発見していない。基本的に遺物の副次効果、或いは【固有魔法】でしか鑑定出来ないのだ。

 そして、俺の魔法は生憎とそういう系じゃない。モンスター鑑定系の遺物は所有してるが、肉眼での視認が必要。スキル越しでは無理。


▼コメント

:パサラ・マサラかも

:↑何それ

:一度遭遇した事がある。コイツは猿型モンスターで出現場所は深層。俺はその時四肢をもがれて殺された。

:生きてるってことは攻略済みダンジョンで遭遇したのね

:深層に挑める時点で相当な腕なんだが

:B〜A級

:アイツらはヤバい、引いた方が良い


 コメント欄に経験者が居たようだ。けど、パサラ・マサラか。聞いた事がある。


「確か、他のモンスターを捕獲して、そのモンスターを自分と同じ種族に作り変える性質を持ってるんだったっけ。全てが本体の有限影分身の術だ。思い出したよ」


 そうか。実物は初めてだ。けど、深層のモンスターがなんで下層に湧いているんだ??


▼コメント

:え、何それエグすぎ

:普通に怖いんだけど

:帰ろう

:ちょっと!?なんで進むの!?

:戻れ!

:ソロで挑む相手じゃない!


 コメントがすごいスピードで流れてく。俺を引き留めようとするコメントだ。

 しかし、俺の足はそれらの声を振り切って前へと進んでいた。

 俺の胸の内をどう表現しようか。

 ダンジョン協会からの依頼を達成せねばという使命感?

 パサラ・マサラという凶悪なモンスターを倒さねばという正義感?

 違う。どれも的外れだ。

 この気持ち、それは――――――


「(バズり、チャ〜ンスッ!!)」

 

 ――――圧倒的な自己顕示欲ッ!!!

 

 だってそうだろう?? 下層攻略配信中、強大なイレギュラーモンスターが現れる。そしてソレを討伐する俺ッ! バズるね。間違いなくバズる。


▼コメント

:帰ろうよパパ!!

:深層のモンスターの群れにソロで立ち向かう勇者がいると聞いて

:今月初のダンジョン配信死亡者はあなたですか〜???

:面白おかしくやられてくれ

:同接ヤバ

:変なのまで紛れ込んでる

:煽りとかではなく本当にヤバいから帰った方がいい

:マジでマジ?

:止まる気ナンセンス


 どこかで拡散されたのだろうか。視聴者数が跳ね上がっている。今、一万を突破した。

 それと共に、コメント欄がカオスになってきている。これはマズイ。俺の求める目立ち方じゃあない。


「皆、安心してよ。僕は新人だけど、S級なんだよ? S級のSは――――」


 進む道の果て、モンスターが集う広間への入り口が見える。


「――――最強のSなんだから」


 今、大量のモンスターの待つ大部屋へと足を踏み入れた。

 瞬間、無数のサル共が俺の方へと飛びかかってくる。『ウキキキ』の大合唱だ。耳が痛い。

 

 俺はその黒い猿顔に、愉悦の笑みを浮かべるサル共を冷めた目で見ながら右手を向けた。


「――――【領域魔法】、『灼天しゃくてん領域』」


 右手の指をパチンと鳴らす。ちなみに意味はない。ただのカッコつけだ。

 

 俺の方へと向かってきたサルの大群が、突如として紅蓮の業火に包まれた。

 俺の魔法により産み出された、その限定空間のみに作用する不滅の炎。

 悲鳴をあげる暇さえ与えず、モンスター共を骨の髄まで燃やし尽くす、俺の得意魔法。

 

 焔は一瞬で広場にいた全てのサルを包み、ドロップアイテムすら残さず塵に変えてしまった。


「フフ、言ったでしょ? 僕を倒したいなら、奈落のモンスターでも連れてきなってね」


 言った記憶は無いがカッコいいから付け加えた。

 視聴者達を安心させる為に俺はニカっと笑っておく。カメラの位置は分からない。でも、【配信】スキルはそこら辺を上手くやっといてくれるのだ。有能。


▼コメント

:はぁぁあああああ!!???

:え、ヤッバ

:何が起きたの????

:深層のモンスターなんよな

:領域魔法……固有魔法か!?

:マジでガチのS級やん

:あの大群はA級じゃ倒せない。規格外戦力のS級くらいじゃないと

:S級強すぎて草も生えない

:S級の戦闘風景を初めて見たわ。バケモノすぎん??

:普通にカッコよかった

:あら、よく見るとイケメンな気が……

:擦り寄りが増えてwwwちなみにどこ住みっすか??

:特定した。S級探索者シルバーか?ダン協のホームページに新規ページが追加されてる

:特定✖️調べた◯


 コメントが今日一番の盛り上がりを見せている。これだよコレ。コレが見たかった。視聴者もどんどん増えてきている。


「あれ、自己紹介がまだだっけ。改めまして、新人S級探索者、シルバーです。よろしくね」

 


 その後はパサラ・マサラのような深層のモンスターが現れるといったイレギュラーも無く、順調に下層を攻略していった結果――――


▶︎同時接続者数50,143


 ――視聴者数は五万人を突破し、俺は下層試練ボス部屋まで辿り着いた。


 

 


***

【俺達】底辺ダンジョン配信者を煽るスレPart125【畜生】

 

350名無しのダンジョン視聴者

【速報】煽りに行った底辺ダンジョン配信者様がS級探索者様だった件について


351名無しのダンジョン視聴者

草(笑えない)


352名無しのダンジョン視聴者

なんで誰も気づかなかったんだよ


353名無しのダンジョン視聴者

わざわざダン協のホームページなんて確認しにいかんわ


354名無しのダンジョン視聴者

てか拡散速度ヤバすぎwww


355名無しのダンジョン視聴者

有名探索者パーティに飛んでったのがデカいな


356名無しのダンジョン視聴者

それな。アレで一気に探索者界隈に広がった


357名無しのダンジョン視聴者

その上イレギュラーモンスターときたら……バズりますわ


358名無しのダンジョン視聴者

どうする?まだ煽る気ありゅ???


359名無しのダンジョン視聴者

俺はない


360名無しのダンジョン視聴者

俺も


361名無しのダンジョン視聴者

腑抜け共が


362名無しのダンジョン視聴者

↑ならおめーが煽ってこい


363名無しのダンジョン視聴者

ごめんなさい煽れません


364名無しのダンジョン視聴者

実際どれくらい強いん???


365名無しのダンジョン視聴者

まず固有魔法持ちの時点で化け物


366名無しのダンジョン視聴者

調べた感じ、パサラ・マサラは深層でも上位のモンスターらしくて、それを秒で燃やし尽くす魔法


367名無しのダンジョン視聴者

強すぎて強さが分からない定期


368名無しのダンジョン視聴者

調べたら探索者なって一年とかで草www


369名無しのダンジョン視聴者

はー才能の世界かよ


370名無しのダンジョン視聴者

他の底辺配信者探すか


371名無しのダンジョン視聴者

いや、俺達が始めた物語なんだから見届けようぜ


372名無しのダンジョン視聴者

どこまでイケると思う?


373名無しのダンジョン視聴者

本人申告だと奈落もイケるっぽい


374名無しのダンジョン視聴者

怪物だぁ


375名無しのダンジョン視聴者

てか、普通にS級さんの配信面白いわ


376名無しのダンジョン視聴者

最近のダンジョン配信者、テンプレゾンビアタックばっかりだからな。つよつよモンスター相手に無双ってそうそう無い


377名無しのダンジョン視聴者

ワクワクしちゃうぜェ

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