第3話 初配信&スレ

「【配信】スキル、発動」


 ダンジョン協会本部から家に帰った俺は初配信の準備をしていた。


 ダンジョン配信の方法は簡単だ。【配信】スキルを用いてDDungeonMMythサイトに何らかの機械でアクセス。そしてチャンネルを準備するだけ。

 あとはダンジョン内で【配信】スキルを発動するといつでもダンジョン配信が出来るというわけだ。


 ちなみに、このD Mサイトは世界七不思議の一つとされている。百年前のダンジョン出現と同時にインターネット上に現れた怪しげなサイト。出現当初は新手のウィルスの一種とされていたが、【配信】スキルの発見により用途が判明する。

 何故【配信】スキルなんてモノがあるのか。D Mサイトとダンジョンの関係は何なのか。誰にも分からない。それでもダンジョン配信は少しずつ、着実に世間に広まっていった。


 もちろん、ダンジョン攻略という人の生き死にを晒すのはどうなんだという批判的意見も多く出た。が、攻略済みダンジョンのリスポーンシステムの発見、探索者ランク制度による配信規制、何より、世界はダンジョンという新たな娯楽に夢中になったのだ。

 そういった批判的意見は少しずつ封鎖され、ダンジョン出現から百年経った今では、ダンジョン配信は巨大なコンテンツ市場を形成している。


 人気なダンジョン配信者はアイドルのようなモノだ。分かるか? 人気なダンジョン配信者はメチャクチャ目立つ。

 そして、俺は最年少かつ最速でS級になった男……バズらないはずが無いッ!


「楽しみだな〜。美少女高校生インフルエンサーを助けてバズって無双するってマンガが昔は流行ってたらしいし、俺もワンチャンあるかな〜」


 まあ、高校生以下のダンジョン探索は原則禁止なんだけどね。資格が取れないんだよ。例外もあるけど。


 俺はダンジョン配信の準備を終え、初配信の内容を考えながら眠りについた。

 

 ――そして翌日、初配信を開始した。




 ***

●REC――――渋谷未攻略ダンジョン19階層


「…………」


 右手を振るう。

 前方から向かってきたレッドオークの群れがダンジョンの壁のシミとなった。

 レッドオークの討伐難度はD〜C級。中層に出るモンスター程度、俺なら片手で倒せる。S級の身体能力は化け物レベルなのだ。並のモンスターでは相手にならない。


 俺は黙々とダンジョンの中を歩き続ける。場所は最近出現した渋谷未攻略ダンジョンの19階層だ。

 攻略済みダンジョンよりも未攻略ダンジョンの方が珍しいかと思って配信してみれば……この有り様。


 ダンジョンに入り、配信を始めて十数分ほど経過。

 現在の視聴者数、なんと、――――ゼロッ。


 初めの方はアーカイブに残る事も考えて喋りながらモンスターを倒していた。どこが弱点だとか、こうすると良いよだとか。でも、キツいのだ。誰にも見られずに話し続けるのが。


 何がダメなんだろうか? 俺はS級だ。配信タイトルもS級要素を入れまくった。でも、誰も見に来ない。苦しい。俺は、配信して目立つ為にここまでやって来たのだ。それを原動力にしてS級にまで成れたのだ。


 誰か、誰か見てくれ……俺を見つけて――――


▶︎同時接続者数0→1


 瞬時に【ポーカーフェイス】スキル発動する。笑顔固定完了。


「こんにちは! 今日は最近渋谷にできた未攻略ダンジョンを攻略してるんだ。今は中層だね!」


 見られてる。誰かが俺を見つけてくれた。嬉しい。たった一人の視聴者が、こんなにも嬉しいなんて! 今すぐ会いに行って握手してサインでも書きたい気分だ!! 【逆探知】スキルでも使おうか!!!


「お、あれはキメラスライムかな。キメラスライムは生まれた階層によって討伐難度が変わるんだよね〜。未攻略ダンジョンの中層だからC〜B級くらいが適正かな」


 ちょうど良いところにスライム君がやってきた。スライムと言っても見た目はキモくてグロい。オーク系やウルフ系モンスターを取り込んだのか、上半身はドロドロのオーク、下半身はドロドロの四足歩行ウルフとなっている。


「キメラスライムの討伐のコツは核を壊す事。あとは発見次第すぐに倒さないと、ボスよりも厄介な存在になるんだよね」


 キメラスライムは厄介な性質を持っている。モンスターを取り込んで、どんどん強く巨大に進化していくという性質が。

 昔、俺が偶然潜ってたダンジョンにキメラスライムが大量発生して大変な目に遭った事がある。あの時は魔法で殲滅したが、今回は誰にでも出来るやり方で行こうか。


「【感知】系スキルを用いる事で、スライムの体内を移動している核を捉える事が出来るんだ。核の場所が分かったら――――」


 地面を蹴り、キメラスライムに近づく。この時、体内の魔力を閉じるのが肝だ。スライムは魔力感知で敵を判別している。


「――――こうしてスライムの中に手を突っ込んで核を奪う。キメラスライムはスライム系にしては珍しく溶解性液を保持して無いからね。嫌な人は剣とか槍で核を斬るのも有りだよ」


 核を奪われたキメラスライムは形を保てなくなり、最後には塵となって消えていった。

 ドロップアイテムは魔石と奪い取ったキメラスライムの核だ。


「それと、このやり方だとキメラスライムの核が確定で手に入るのでオススメです」


 どうだ? 為になったか? 有用だったか? モンスター相手に無双する要素もあったがイケたか? 固定視聴者獲得なるか?


 俺は固唾を飲みながら、コメント欄を見つめた。


▼コメント

:それってスキル?


 パァ、初コメ来たぁぁアア!!!


「純粋な身体能力だよ。S級ともなると身体能力がメチャクチャ上がるんだ」


 気になるよね。S級探索者の身体能力とかスキル。俺なら気になって目が離せないもん。


▼コメント

:ハァ?違うよ。配信画面を詐欺るなんてどうやってるのって聞いてるの??


「え?」


▼コメント

:未攻略ダンジョン中層のキメラスライムってC級がパーティ組むか、最低でもB級じゃ無いとソロは無理だろ。それを君みたいな若い子が討伐とか嘘松すぎwww


「あ、え」


▼コメント

:CGスキルとかか?とりあえずダン協に通報しときます。これに懲りたらS級詐欺とかやめた方がいいよ。じゃあなwww


▶︎同時接続者数1→0


 ……は? …………いや、は???


 おいおいおい、ダンジョン配信画面を偽るなんて聞いた事ないよ。あるわけないだろ。全部実力だぞ。え? 偽物だと思われてるの、俺? S級だよ? えぇ???


 

 ――それから何をしたのかよく覚えない。

 

 気づけば俺は二十層の試練ボス部屋の前にいて、俺が通った道には多種多様のモンスターのドロップ品の山が出来ていた。





***

【俺達】底辺ダンジョン配信者を煽るスレPart125【畜生】

234名無しのダンジョン視聴者

暇すぎる。皆なにでD Mサイト見てる??

 

235名無しのダンジョン視聴者

コンタクト型投射機

 

236名無しのダンジョン視聴者

電子レンジ


237名無しのダンジョン視聴者

テレビ


238名無しのダンジョン視聴者

ナノマシンで網膜に直接接続して見てるわ


239名無しのダンジョン視聴者

偶に現れる裕福掲示板民


240名無しのダンジョン視聴者

ナノマシンとか怖いからヤダ


241名無しのダンジョン視聴者

結構便利だぞ。ダンジョン由来の機械なら大体接続出来るから。これから覇権来ると思われ


242名無しのダンジョン視聴者

こんな配信見ちゅけた

【S級探索者による華麗なるダンジョン攻略配信。これで君もS級に!!】

 →D MサイトURL

尚、視聴者ゼロ人の模様w


243名無しのダンジョン視聴者

草。釣り針デカすぎ。メガロドンでも釣り上げる気かな??


244名無しのダンジョン視聴者

メガロドン(討伐にはS級が必要な模様)


245名無しのダンジョン視聴者

自演か?内容は?


246名無しのダンジョン視聴者

見てないから分かんない。自演ではない。


247名無しのダンジョン視聴者

んじゃ、煽りに行くか??

S級(笑)さん顔真っ赤になるんかなwww


248名無しのダンジョン視聴者

良い事思い付いた


249名無しのダンジョン視聴者

何?


250名無しのダンジョン視聴者

全力でS級(笑)さんをヨイショしてあげようぜ

ほんで気分良くなってるところを全力で煽り散らかそう


251名無しのダンジョン視聴者

良いねそれ。ただ煽るだけじゃ飽きてたし


252名無しのダンジョン視聴者

S級(笑)さん「これがS級です」

俺ら「スゲェぇぇ!! もっとすごい事して!!!」

S級さん「えっその」

ってな感じになるまで要求しようず。S級さんが応えられたら相手の勝ち。ダメだったら俺らの勝ちな。

 

253名無しのダンジョン視聴者

突入する?


254名無しのダンジョン視聴者

S級さんの仮面が剥がれるまで3


255名無しのダンジョン視聴者


256名無しのダンジョン視聴者


257名無しのダンジョン視聴者

突入ーー!!!ソイヤッ


258名無しのダンジョン視聴者

ハッ


259名無しのダンジョン視聴者

本日の底辺ダンジョン配信者煽り、ターゲットはS級さんで決定!!


260名無しのダンジョン視聴者

愛称がS級さんになってて草w

 

 

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