承認欲求モンスターさんの配信活動記〜S級探索者、承認欲求を満たす為にダンジョン配信を始める。尚、リスナーは当人の事を聖人と思ってる模様〜

七篠樫宮

第一章 新人S級探索者シルバー

第1話 承認欲求モンスター爆誕

●REC――――渋谷S級未攻略ダンジョン53階層


 ――照らす太陽。雲一つない快晴。透き通った蒼い海。陽光を反射して白く輝く砂浜。

 そんな常夏のビーチとも言うべき場所に、一組の男女が水着で佇んでいた。


「【配信】スキル、発動」


 男女の片割れ、黒髪黒目の優男が小さく呟いた。


 ▼コメント

 :きちゃ!

 :一コメ

 :シルバー様!!

 :海だあアァ!!!!


 瞬間、男の視界に大量のコメントが爆速で流れだす。


「やあ皆! DMサイトの概要欄にあるように、今日は渋谷S級ダンジョンの未到達領域から配信してます。いやぁ凄いね。この綺麗な海。ここ、ダンジョンの中なんだぜ?」


▼コメント

:信じられんwww

:ダンジョンの神秘ってヤツか〜

:後ろの海よりもお前の方がキレイだぜ、シルバー

:水着似合ってる。上着からチラッと見える腹筋が最高


「そう? シトリンに選んでもらったんだよね水着コレ。あ、シトリンも居るよ! ほら、恥ずかしがらないで」


 男に引かれるようにして女がやって来る。


「別に、恥ずかしがっている訳ではございません」


 ▼コメント

:おっほ

:ふつくしい……

:黒のビキニがビキニががが

:綺麗な人?人なの?てかシトリンis誰?

:にわか乙wwwシトリンさんはシルバーが所有する遺物の一つ。ダンジョン協会からの評価を爆上げしたイレギュラーフィールドボス、機神工房オルガンストの討伐でドロップした別嬪べっぴん機械人形さんやぞ

:思考入力長文解説ニキチッス

:真夏のビーチ。水着の美女。良いねぇ!


 女――シトリンが配信に乗った瞬間、コメントが更に加速した。

 光輝く長い金髪に、金色の瞳。その白すぎる肌には傷一つ付いていない。神が生み出したかの様な美貌とプロポーションには世界が魅了される。

 男はその光景を見て苦笑しながら告げる。


「いやぁシトリンは人気だな〜。絶賛じゃないか。僕、要らないんじゃない?」


「そんな事はございません。私はマスターの所有物。私への賞賛は、全てマスターに還元されます」


「そう? ならいっか」


 ▼コメント

:そんな事ないよ!

:やっぱシルバー、そこから退いてくれ

:果たして我らの中にシルバーを退かせれる人間が何人居るのか……

:(一人も居)ないです

:無理ぽむ

:やっぱりシル×シトなんだよなぁ

:シト×シルだろwww

:は?戦争か??

:てか、ダンジョンだろ?そんな暢気のんきに会話してて大丈夫か?


 コメント欄が不穏な空気に包まれる中、ビーチにも不穏な影が近づいて来ていた。


「ん、ナニカ来てるね」


 男の視線の先、数百メートル向こうの海に魚影がうごめく。


 ▼コメント

:本当だ

:その距離で見えるとかマヂシルバー様神すぎて笑う

:え?数百メートルは離れてるよね。影デカすぎん??

:ヤバいだろコレ


「……感知出来ました。鑑定結果、メガロドンです」


「へぇ〜、討伐難度は?」


「攻略済みダンジョンで最低A級。未攻略ダンジョンに出現した場合は――――」


「場合は?」


「――S級、となります」


 同時、海が爆裂する。数百メートル離れている砂浜にも雨が降る。

 浮かび上がる巨体。全長三桁メートルを超えたサメが現れる。しかもただのサメではない。その姿は――――


▼コメント

:メガロドン……サメ?

:ダンジョンのサメはデカいなぁ

:全長百メートルは超えてるか?凄いなぁ

:誰もツッコミいれないから言うけどアレ、サメじゃないよね

:ここはダンジョン。なんでもアリだよ。だからアレはサメだ

尾鰭おひれどころか手と足に翼まで生えてるサメ私知らない()


 そのサメ――メガロドンには手足が生えていた。なんなら翼も生えて宙を泳いでいる。

 空中高速泳法で目指す先、ソレはもちろん――――


「狙われてるねぇ。奈落のモンスターは誰彼構わず襲って来るからね」


「どうなさいますか?」


 巨大モンスターに狙われているのに気楽な態度を崩さない男に、シトリンが尋ねる。


▼コメント

:逃げた方が良いんちゃう?

:未攻略ダンジョンで死んだら死ぬよ??

:いや、シルバーならいける

:俺たちのシルバーは最強なんだ


「前から気になってたんだよね」


「何がです?」


「――フカヒレって美味しいのかなって」


 男が海の方へと進んでいく。足が海水で濡れるのも構わず、接近してくるメガロドンと相対する。


「今日のご飯はフカヒレスープにしよう」


 その巨体との距離が残り数十メートルになった瞬間、男は右指をメガロドンに向けて鳴らした。


「【領域魔法】、発動」


 パチンと、男の魔法が発動する。

 誰にも気付かれない、不可視の斬撃がメガロドンを襲う。メガロドン自身にすら気付かせず、その巨体は三枚に下ろされた。

 メガロドンは塵となり、巨大な魔石とドロップアイテム――メガロドンのヒレを残して消えていく。


▼コメント

: あんびりーばぼー

:うおおおおおお!!!!

:シルバー最強シルバー最強シルバー最強シルバー最強シルバー最強

:いつ見ても意味分からんくて草

:最後メガロドンさん何かしようとしてたのに三枚下ろしにされちゃったぁ


 今日一番のスピードでコメントが流れる。

 男は超速で流れるコメント全てを認識し、ほがらかに笑う。

 

「ハハッ、コレくらい全然だよ。他の先輩たちならもっとスマートにやってるさ」


 はたから聞くと、その言葉は謙遜けんそんのように聞こえる…………が、男の本心は異なっていた!


「(おっほ、コメント気持ち良いぃイイッ。賞賛最高!!)」


 男――天岸アマギシ シルバーは若手最強と名高いS級探索者である。


 そして――――


「(あ〜同時接続者数同接が上がってくぅぅう! もっと、もっと俺を見てくれ!!)」


 ――――重度の承認欲求モンスターである。




***


 西暦で言うと2×××年、元号で言うなら斉天134年の3月某日。

 今日でおさらばの高校の制服に身を包み、片手に卒業証書を持つ男――俺、天岸 銀は人生に絶望していた。


 昔から目立つ事が好きだった。保育園のお遊戯会では大役を掻っ攫かっさらい、小学校では答えが分かってなくても手を挙げて当てられにいった。

 小学校まではそれで良かったのだ。目立つ事が正義で、目立つ者の周りに人が集まっていた。


 狂い始めたのは中学からだ。目立つ事は良い事だったが、目立ち過ぎる事は悪だった。

 出る杭は打たれる。では、出過ぎた杭は? そう、引っこ抜かれるのだ。


 俺は浮いた。舞空術でも持ってるんじゃないかと勘違いする程浮きまくった。


 目立つ事を辞めれば良いんじゃないかって? 俺に死ねと申すのか。

 

 誰かに見られたい、褒められたい、認められたい、賞賛して欲しい。俺はその欲を抑えられなかった。


 そんな承認欲求の化身のような人間の成れの果てが、この俺だ。


 大学は全落ちッ! 就職先はゼロッ! バイトは半日で辞めさせられるッ!


 ただ、幸か不幸か俺の家は裕福だった。俺というお荷物が居ても余裕で養えるほどだった。一人暮らしできてるし。

 結論を言おう。今日から俺は浪人生を名乗る無職になってしまった。ちなみに勉強はしてない、してもよく分かんない。



 そんなニート生活を続けて数日。俺はとあるコンテンツにハマる事になった。

 そのコンテンツの名は『ダンジョン配信』。


 リアルタイムでダンジョンの攻略を配信するというヤツだ。

 ダンジョン攻略のハラハラドキドキ感、宝を見つけた時のワクワク感、ダンジョン探索で得られる全てを疑似体験できるそのコンテンツは世界中が熱中していた。


 俺はソレを見ながら閃いた。


「そうだ。俺もダンジョン配信者になろう」


 そして強いモンスターを倒してバズるんだ。『キャーッステキ!』『銀様最強ーーッ!』ってな感じで持てはやされるんだ。

 よし、ならずはダンジョン探索者資格を取りに行くか。


 ――これが後の最年少S級探索者、シルバーの原点オリジン。我が事ながら、中々に俗まみれである。

 

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