第511話 subroutine ガガリオン_崇高な遊戯


◇◇◇ ガガリオン視点 ◇◇◇


 それにしても上手くいった。順調すぎて、欠伸あくびが出る。張り合いがない。上手く行きすぎた感があるくらいだ。


 本物そっくりの遺書を残しておいてもよかったのだが、あの御方の指示であえて見抜ける程度の偽物にすり替えさせた。


 イスカの馬鹿がすり替えるのに手間取ったのは苛ついたが、後先考えずクラレンスの居室に飛び込む馬鹿で助かった。

 おかげで部下に注意を促すフリをして、部屋の外で待たせることができた。

 これで秘密を知る者は、俺とイスカ、それに偽の遺書を用意した侍女だけ。いや指示を出したあの御方も含まれるか。


 指示にあったように、私はすり替えられた遺書を偽物だと証言した。


 今頃、本物だと証言したイスカと侍女が疑われているだろう。

 侍女は憂国会の手の者だが、切り捨てるよう指示されている。


 あくまで私の予想だが、あの御方はしびれを切らしたのだろう。


 なかなか憂国会のことを公表せぬ王家に、マスハス家の一件を憂国会の仕業であると意図的に匂わせた。そう思わせる節がある。もしかすると巧妙に国を揺さぶっているのかも知れない。


 ともあれ、この一件で私が疑われることはなくなった。偽物の遺書だと証言したのだからな。


 成り上がりのラスティも、フレデリック家が旗頭の座にしか興味がないと思い込んでいるだろう。そう思い込むように演技に力を入れてきた。


 しかし解せない。


 聞けば、いまの王妃――エレナ・スチュアートの暗殺に失敗したどころか、憂国会の名前までバレているとか。一度目の暗殺失敗は東部で、二度目の暗殺失敗は王都で。あの御方の謀略をこうも簡単にいなすとは、並々ならぬ運の持ち主だ。おまけに頭も切れる。

 控え目に見ても、あの女宰相は優秀だ。いや、優秀すぎる。いずれあの御方と憂国会の繋がりを突きとめるだろう。

 その時、我ら憂国会はどう動くのだろうか? まったく先が読めない。


 楽しみでならない。


 手に汗握る謀略の攻防。興奮する命のやり取り。治世では楽しめない人を駒に見立てた崇高な遊戯。

 駒を摘まもうとする差し手の指が近づくたびに、魂が震える。仲間が食われるのを見て、生を実感する。

 あの偏屈な父が、この歪んだ遊戯に没頭するのもわかる。


 ああ、憂国会の一員になれてよかった。


 それにしても楽しみだ。次は一体誰が食われるのだろう?


                   〈§14 終わり〉

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