第478話 大切な話
アデルへの報告も終わって、久々に慣れたベッドでひと眠りしようと思っていたら、部屋を出たところでホエルンに呼びとめられた。王城内を巡回していたらしく、スレイド家の者を従えている。
「あなたたちは通常任務に戻りなさい」
「はッ!」
「ははッ!」
いつの間に密偵たちの上官になったのか、ホエルンが指示するとスレイド家の者たちは素直にこの場を去った。
残ったホエルンはというと、
「パパ、今回の一件で大切な話があるの」
いつになく真剣な表情だ。士官学校時代を思い出す。
気を引き締めて、どういう内容か尋ねる。
「どれくらい大切なんだ?」
ホエルンは目だけを動かし、周囲を警戒した。
どうやらここでは言えないことらしい。となると、秘密の守れる部屋での話になる。
「場所を変えようか」
俺の執務室へ向かおうとしたら、腕を掴まれた。
「先の反乱があるから、重要機密は別の場所で……私の部屋なら盗聴対策はバッチリよ」
さすがは俺の教官。このような事態も見据えての、あの部屋だったのか。趣味の武器庫じゃなかったんだ。
ほっと安心して、先行くホエルンに続く。
久しぶりに彼女の部屋に入った。
武器庫と試験場を兼ねたスペースが前よりも狭くなっている。その代わり、監視小屋らしきものがグレードアップしていた。
「先に入って待ってて、鍵を閉めてくるから」
ここまで情報漏洩を気にしているということは、きっと重要な話なのだろう。そう思いながら、グレードアップした監視小屋に入った。
広さは以前の三倍。キングサイズのベッドとクローゼットが増えている。殺風景なのは変わっていないけど、クローゼットが増えたということはお洒落に気を遣いだしたのか。いい兆候だ。
椅子がないのでベッドに腰かけていると、ホエルンが入ってきた。念入りに小屋の鍵も閉める徹底っぷり。
「それで大切な話って?」
「ちょっと待って、話す前に見てもらいたいものがあるの」
「見てもらいたいもの?」
「エレナ様もまだ知らないことよ」
帝室令嬢すら知らないだって! 最高機密レベルじゃん!
態度に出さず、心のなかで身構える。
覚悟を決めた俺の前で、ホエルンはクローゼットに手をかけた。
そこに秘密が隠されているのか!
安直な場所で不用心な気もしたが、ホエルンの部屋の武器棚を見たら、まず機密情報が隠されているとは思わないだろう。アリかも。
で、俺に見せたい物とは……。
固唾を呑んで見守る。
開かれたそこには、宇宙で見かける衣装があった。上級将校の
OL風のミニスカスートに、かつて実在したといわれる婦警衣装、それからナース、浴衣、セパレートのフィットネスウェアと続く。馴染みのある巫女服もあった。初期の長袴から、中期のミニスカ、亜種のスパッツなど網羅されている。
これはなんて楽園なんだ!
開かれたクローゼットにある衣装のなかで一番目を引いたのは、絶滅したと言われる体操服だ。こちらもブルマ、スパッツ、短パン、ジャージと各種取り揃えている。
はっ! 俺としたことが危うく騙されるところだった。きっと敵の目を欺くめの偽装工作だろう。さすがはホエルン。俺の上を行く発想だ!
「で、見てもらいたいものって?」
「これよ、これ」
そう言ってホエルンが取り出したのはバニースーツ。
……思考がロックした。
「耳と尻尾の有無で好みが分かれるらしいんだけど、パパはどっちが好み?」
え、ちょっと待って! まさかそれだけのために呼んだのか?!
放心状態で、バニースーツを見つめていると、今度は女性用の僧衣を出してきた。本格志向の頭に被るヴェールまでついている。
「パパ的には、こっちのほうが良かったかしら?」
「あのー、ホエルン教官。一つ質問していいですか?」
「いいわよ、スレイド訓練生」
「大切な話って聞いたんですけど、これって…………」
これって大切でもなんでもないんじゃ、と続けたかったが、鬼教官は最後まで言わせてくれなかった。
「あら私ったら、パパのこと忘れてたわね。はいコレ」
なぜか大人サイズのベビースーツを手渡された。
「思う存分、甘えていいわよ」
ツッコミを入れるのが馬鹿らしくなったので、現実を受け入れることにした。もうどうでもいいや。
この際なので、衣装を指定する。
「あのう、体操服――ブルマで」
「あー、そっちを選ぶんだぁ~。ふーん、そういう趣味なんだぁ~」
鬼教官とは思えない、JD的な悪戯っぽい笑み。
たまにはこういう日もいいだろう。なんせ聖地イデアから大急ぎで帰ってきたのだ。俺への臨時ボーナスとしておこう。
旅の荷物を片付ける前に、妻と〝にゃんにゃん〟した。
余談だが、旅の荷物を片付けるのに三日もかかってしまった。
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