第458話 大本命



 張り合いが無いというか、手応えを感じないというか、王都でこれといった騒ぎは起きなかった。

 早馬による伝令もつつがなく往き来している。妨害ぼうがいも無い。


 エスペランザ准将からの手紙だと、あと三日で王都にたどり着くらしい。


 スレイド大尉たち使節団からの返事はまだ届いていない。王都から聖地イデアまでかなりの距離がある。第二王都での謀叛の知らせすら届いていないだろう。戦力としてアテにしていないし、業務連絡みたいなものだ。あと、彼の奥さんたちには早馬を出していない。そこまでする必要性を感じなかったからだ。


 敵対派閥が動くだろうと思っていたのだが、どうやら考え過ぎだったようだ。


 あれこれ準備したけど無駄に終わってしまった。残念。


 これほどのチャンスを逃すということは、革新派や王道派に事を起こす余力がないということになる。もしくはそれほどの胆力たんりょくを持ち合わせた人物がいない。

 欲を言えばベルーガのうみを出し切りたいところではあるが、大それたことを実行されないのは、それはそれで喜ばしい。それだけ力が弱まったということだ。敵対派閥については、地道にやっていこう。


 計画プランを練り直していると、思いもかけない報告がもたらされた。


「妃陛……宰相閣下、一大事でございます」


 近衛の一人が血相変えて部屋に転がり込んできた。慌ただしくノックをしておいて、許可も待たずにだ。おまけに面倒臭い呼び方も間違えかけている。

 慌てぶりも凄まじいが、緊急時はノック不要だと厳命しているだけに、それを忘れている様子からも事の重大さがわかる。


「派閥に動きがあったの?」


「それどころの問題ではありません。王城に通じる門が開け放たれています! それも正門が!」


 通用門なら開けることはあるだろうが、正門を開けと命令した覚えはない。第二王都へ援軍を派遣して、王都の守りは最低限。とうぜん王城も似たような有様なので、正門を閉じていた。

 開けるなと厳命していたはず……。


「アデル陛下の命令?」


「いえ、城門を管理している者に聞いたところ宰相閣下のご命令だと。指示あるまで開放厳禁と聞いていたのですが、正式な書面があるとのことで正門を開きました……」


 命令になかったイレギュラーを不審に思って報告しに来たわけね。なかなか優秀だ。


「その書面は偽物ね。そんな命令出してないわ」


「……やはり。ですが、あれは本物でした。偽造防止の針穴を確認したので間違いありません」


 スレイド大尉から聞いて、サインに針穴を開けるようにしたけど、この惑星じゃテンプレだったみたいね。私の調査不足だわ。


「本人が言うのだから間違いないわ。で、問題は正門を開けただけ?」


「いえ、王城を守る兵を迎え入れました。守備兵増強の話を聞いていなかったので、とりあえず練兵場へ通すよう指示を出していますが……」


 理解が追いつかない。近衛の話が本当ならば、正門を開けて、所属不明の部隊を城に入れたことになる。


「その王城を守る兵というのは?」


「マスハス侯の兵です」


 やられた!


 訪れないと思っていた動きがあった。それも急速に。

 頼みとする城壁城門が案山子かかし同然に素通りされた。


「数は!」


「二千を超えます! 王城に詰めている近衛の十倍はいるかと!」


 王城には近衛以外にも兵は詰めている。密偵一族のスレイド家もだ。それらを合算しても五〇〇にも満たない。加えて、強襲。結果は火を見るよりも明らかだ。


 幸いなことに、エスペランザ准将は王都まで三日の距離にまで迫っている。三日間、持ちこたえれば私たちの勝ちだ。

 しかし、城内に入られては……。


「重鎮たちを王城の奥――王宮にあつめてッ! いますぐによッ!」


「閣下は?」


「頼もしい助っ人を連れてくるわ。それよりもアデル陛下をお願い」


 変なところで頑固な年下の夫だ。私がいない間に駄々をねるかも知れないので、近衛に秘策をさずけた。



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