第441話 外交



 ベルーガ王国はマキナ聖王国に奪われた国土を取り戻し、復興を成し遂げた。


 平行して行われた農業政策によりかつての栄光を取り戻しつつある。加えて、スレイド大尉が再現した数々の便利グッズ。

 食糧事情も改善し、経済もまわりは始めている。

 近い将来、ベルーガは類を見ない繁栄を目の当たりにするだろう。間違いなく大陸一の大国になるはず。


 そして、私はその国の王妃様! 夫である国王は若く、私好みに育っている。そのうえ、彼は私にぞっこんだ! ほかの王族は王位継承権よりも夫の奪い合いと、血生臭い王室ではない。なんと素晴らしいことか!

 治世が訪れたあかつきには全力で夫をでよう!


 自身の有能さにれたいところけど、次が控えている。外交だ。平和を甘受するためにも、国民を安堵しつつ周辺諸国と仲良くしないと。


 まずは星方教会。マキナとの遺恨があり、国民は教会を快く思っていない。表向きはマキナのせいにしているけど、被害者である国民の目はシビアだ。

 そんなわけで、星方教会との関係がこれ以上悪化しないように、かの教団が拠点を構える聖地へ使節団を派遣することにした。

 スレイド大尉とツェリに、西にある聖地イデアへの外交使節という大役を与えたのだ。


 彼の妻であるティーレもガンダラクシャより東、草原の国ラーシャルードの王族と会談。

 アルシエラ・カナベル元帥は、蛮族対策のため、いったん北の領地カヴァロへ戻ってもらい。カーラと問題児っぽい叡智の魔女様は火花を散らしながら第二王都へ視察。

 マリンちゃんは魔山の都プルガートへ里帰りしている。


 気難しい軍事顧問は奥さんたちを連れて、南部でマキナへの牽制も兼ねた軍事演習。


 忘れちゃいけない末妹のリセリアとリブラスルス曹長には、新婚旅行も兼ねて北で温泉堀りをお願いした。もちろん施工は専門の方々だ。スレイド工房のみなさんを起用。これで私の求めるスパができる!


 ホエルン・フォーシュルンド大佐という厄介者が残っているけど、王城には私とアデルだけ。

 初めての夫婦水入らずなんじゃないかしら?

 ちょっとした大型連休ね。何をしようかしら?


「やりたいことがたくさんあったはずなのに、いざとなると思い出せないものね。社畜体質ってやつかしら?」


 書類仕事もあらかた片付いたので休憩することにした。

 机にペンを置いて、灰皿を引き寄せる。

 チャイムを鳴らした。


 机の引き出しからタバコを取り出したところで、侍女が駆けつける。

「妃陛下、お呼びでしょうか?」


「コーヒーをお願い」


「豆はどうなさりますか?」


「深煎りで、あとミルクも」


「かしこまりました。すぐにご用意します」


 侍女を見送ってから、タバコに火をつける。


 この惑星に降り立って二年半になる。この惑星基準の二年半だ。

 いろいろあった。

 滅亡に傾きかけていたベルーガの宰相になって、ストレス発散にマキナ聖王国とドンパチやった。

 王都を奪い返して、それから年下の若い男――アデルと結婚した。この国の王様だ。おかげで私は王妃様。

 宇宙の帝室でも一、二を争う才媛の私からすれば、当然の帰結といえる。だって私、美人で優秀で家庭的だし。自慢じゃないけどボディラインにも自信がある。それに尽くすタイプ。モテないわけがない!


 でも取り扱いには細心の注意が必要。

 綺麗なバラにはトゲがあるっていうし、私って我が儘なのよね。

 そもそも帝室の娘だし、育った環境からして庶民とちがう。謀略の渦巻くドロドロした世界の中心にいたんだから。

 そんな殺伐とした世界の住人でも心の安寧は大切。

 だから、私のことをコロコロしようとしている連中を、この機に一掃することにした。

 不届き者を誘き出すために、わざと隙をつくったのだ。ベルーガを立て直した優秀な者たちを王都から遠ざける形で。


 さて一体何が出てくるのやら。


 思い当たるのは革新派、王道派だ。しかし、王家を疎ましく思っているのは、その二者だけではないだろう。きっとほかにもいるはずだ。ベルーガが滅亡すればよかったと思う者たちが……。


 国を裏切った者の一味だろうか? それともゴヨークなる大商人! はたまた、被害を受けすぎた暗殺ギルド!? ほかにも思い当たる節は多い。ベルーガが目障りな宗教家に、カルト教団と想像は尽きない。


 問題を抱えたままだと、おちおち出産もできない。

 世継ぎをこさえるのは、二年ほど先の予定だけど。家庭に収まったら収まったで、何かと不便を強いられることになるだろう。それまでにいろいろと悔いが残らないようにしないと。

 特に危ない火遊びなんかは、アデルの性格を考えるとさせてくれないでしょうね。


 いまのうちに楽しんでおかねば。

 命のやり取りという、この上ないスリリングな遊びを。

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