第384話 冒険の準備



 俺たちは、謎の手紙の差出人――〝睡蓮の花びら〟からもたらされた情報を確認していた。


 俺、リュール、ホルニッセ、ギュスターブと大の男四人が広げた地図と睨めっこして、〝黒石〟が潜んでいそうな場所を探している。


 王都南西には大きな森は無く、東へと伸びる山脈があるくらい。それ以外は荒れ地が広がっている。

 身を隠せる場所は少ない。そんなところに隠れてもしらみ潰しに探されたらアウトだ。素人の盗賊団ならわかるが、名うての暗殺者集団が隠れ家にするとは思えない。


「隠れるとしても森くらいですね。それほど広くなさそうだし、すぐにバレそうだ。ガセネタですかね?」

 リュールが言うと、ホルニッセが地図には描かれていない情報を口にした。


「山脈の始まり――ふもとに岩場があります。マキナが攻めてくる前に崩落がありまして、その時の岩が撤去されずに残っているのです」


「王都復興の際、話にのぼらなかったけど」


 思ったことを口に出すと、ホルニッセはすぐさま答えを返してくれた。

「道から外れているので、撤去する必要性がなかったのでしょう。あそこは農耕に適した土地ではありませんし」


 初耳だ。岩場なら身を隠すに十分だろう。問題は規模だ。いくら大きな岩でも一つ、二つじゃ隠れられない。岩場というくらいだ、複数の岩が転がっているはず。


「ちなみに、その岩場ってどれくらいの規模だ?」


「それなりに……視察に行った騎士の報告なので要領を得ませんが」


「その視察に行った騎士と話はできるか?」


「残念ながら……。マキナとの戦いで亡くなっています」


 アバウトな報告書。それに道から外れた場所。一度、しらべてみる必要があるな。


 それ以外にも〝黒石〟が潜んでいそうな場所をピックアップする。


 岩場以外にも滝や洞窟があるらしい。


 ところで滝のどこに隠れる場所があるんだ?

「なんで滝が怪しいんだ?」


 リュール少尉が補足説明を入れてくれた。

「大尉殿、滝といえば裏側にある秘密の場所。物語の定番ですよ」


 知らなかった。

 惑星事情について、また一つ知識が増えた。


 適当に話を合わせる。

「……そ、そうだな。だけどあそこは湿気がキツくて、武具が錆びるぞ」


「油紙で包むんですよ」


「さすがは社長、物知りですね」

 ギュスターブが褒めると、リュールはまぁなとぶっきらぼうに返した。


 リュール少尉に自慢する様子はない。ということは、滝裏の存在は当たり前のことになる。

 知ったかぶりをしてよかった。危うく恥をかくところだった。


 こういうときは堂々としたほうがバレにくい。

 演技を完璧にするためにも話の主導権を握る。


「これで決まりだな。岩場、滝、洞窟の三カ所が怪しい。そこをしらべよう」


「それ、俺も参加しなきゃいけませんか?」


 リュールの質問に、即行で返す。

「いや、こっちで手を打つ。少尉には引きつづき、出版会社の運営を任せるつもりだ」


「よかった。製版の都合でいろいろと忙してく、時間に余裕がなかったんですよ」


 ほっと胸を撫で下ろすリュール少尉に、知ったかぶりがバレていないと確信した。


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