第382話 探偵役②
まずはギュスターブがドアをノックする。
「来客です」
「どうぞ」
了承をいただき、部屋へ入る
「おっ、スレイド大尉!」
「久しぶりだな。査問会以来になる」
リュールは速い歩調でやってくると、俺の肩を叩いた。それから家族ではないのにハグしてきた。
男同士で抱き合ってしまったが、悪くない。ともに戦ってきた宇宙軍の仲間と絆が深まった気がする。
「あれからどうですか? 敵対派閥の嫌がらせはまだつづいていますか?」
「あの一件以来、静かなもんだよ」
「そりゃあ、よかった」
「それよりもリュール少尉、ブリジットと結婚したって聞いているけど式はもう挙げたのか?」
「し、式はまだですね」
「でも籍くらいは入れたんだろう?」
「籍……ですか」
「もしかして、婚姻届もまだとか?」
「ハハハッ…………」
突っ込んだ話をすると、リュールは乾いた笑い声を最後に、無口になった。
「で、本当のところは」
「…………」
彼の答えを待っている間にも、どんどん顔色が悪くなっていく。
間違いない! こいつ一番肝心なところをすっ飛ばしている!
結婚のプロとしてアドバイスすることにした。
「それはマズい! 離婚の危機だ」
「り、離婚って大袈裟な。俺たち新婚ですよ」
「考えてもみろ。ブリジットはモテるぞ!」
「そうですかねぇ。アイツ、案外抜けてるし、そんなに美人ってわけじゃないし、まあブスではないですけど……」
いまは亡き宇宙軍の仲間トリムの個人データにはツインテ、八重歯のアニメキャラは人気が高いとある。おまけにブリジットは誰からも好かれていて、親近感が持てる。軍人としてそこそこ優秀なので、あまり男を警戒していない。隙あらばNTR対象になるキャラだろう。
そのことを力説すると、
「俺、ちょっと様子を見てきます」
「慌てるな、俺がなんとかしてやる。だから持ってきた用件を頼む」
「……でも、うかうかしてるとブリジットが!」
「安心しろ、俺が責任を持つッ!」
リュールを安心させるため、ロレーヌさんへ結婚式に立ち会ってもらうよう手紙を書いた。彼女はベルーガでの活動が認められ、いまや星方教会の司教様だ。思い出に残る立派な結婚式にしてくれるだろう。
婚姻届も作成し、中立の第三者として俺のサインも入れた。あとはブリジットのサインを残すのみ。
「王族のサイン入りだ。これ以上の後ろ盾はないぞ」
「恩に着ます大尉殿ッ!」
興奮するリュール少尉を宥めて本題に入る。
送られてきた手紙を見せて、作家志望の意見を待つ。
リュール少尉は三度ほど手紙を読み返して、思案顔。彼一人では明確な答えが出せないようで、副代表を務めるギュスターブにも手紙を見せる。
「ギュスターブ、どう思う?」
「内容を読む限りでは、ありきたりな貴族令嬢の恋文かと」
「隠された意図があると思うとか?」
「……微妙ですね。これといって変なところは見当たりません」
「一つだけ、変わった毛色の手紙がある。これだ」
リュールが読み解いた手紙のうちから一枚を引き抜く。
「この手紙だけおかしな点がある。最後の結び文句だ。その一枚を除いたすべてに日付があって『神の加護のあらんことを』『神のお導きのあらんことを』『神の祝福のあらんことを』などといった言葉で結ばれている。俺が抜き取った一枚だけ日付が無い。それに結び文句も『光のお導きのあらんことを』と唯一、神という言葉じゃない」
「仮に意味があったとしても、その手紙には何も変わったところがありません。手紙はそれだけではありませんし、気にしすぎかと。単なる書き損じでは? 誤って送ったと推測されます」
「恋文なら何度も読み返しているはずだ。差出人が〝睡蓮の花びら〟と統一しているのに結び文句が神への祈りで統一していないのが引っかかる。それに古代史の文学書で、似たような小説を読んだことがある」
リュールは手紙の束を手に窓辺へ行く。
無造作に抜き取った手紙を太陽にかざす。
「リュール少尉、透かしでも入っているのか?」
「いえ、透かしではありませんよ大尉殿。ですが、まあ、似たようなものですかね。見てみますか?」
席を立ち、リュールの横へ行く。
太陽にかざした手紙を見る。
恋文の綴られたそれが、光を通していた。細い光だ。ピンポイントに文字一つ、〝光〟という文字に穴が空けられていたのだ。針で空けたようなちいさな穴。目視だと見落としてしまうだろう。
「それになんの意味が?」
「暗号ですよ、暗号」
すべての手紙を太陽にかざし、穴が空けられていた文字を赤で囲む。
「穴を空けられた文字を日付順に並べると……」
差出人の真意が判明した。
針で穿たれた文字を繋げ、出てきたのは……。
クロイシ、オウト、ソト、ナンセイ
〝黒石〟――査問会で襲ってきた暗殺者集団だ。
カーラ主導のもと王都に潜んでいる〝黒石〟はすでに一掃されている。あくまでも一掃は王都内。彼女から、王都の外を捜査したと一言も聞いていない。
暗殺を企てていたので、王都に潜んでいると思うはず……。その心理を突いたのだろう。
〝黒石〟の司令塔が外にいる!
「王都外まではしらべてないな」
「有用な情報ってことでいいですか?」
「しらべてみる価値はありそうだ」
真偽の定かではない〝黒石〟の残党の情報を得られた。しかし、依然として差出人の正体は不明だ。
一体誰が、どういった目的でこの手紙を出したのだろう?
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