第371話 subroutine モルガナ_魔女の実力


◇◇◇ モルガナ視点 ◇◇◇


 明確な殺意が見えた。


 姉妹の負の感情が乗った荒れ狂う炎の龍が飛んでくる。

 なんの捻りもない単調な魔法だ。魔力に自信があるようだけど、私の前では児戯じぎに等しい。


 あのね。いくらエルちゃんが穏便にって頼んでも限度があるの。もう無理、我慢の限界!


 私は〈魔力吸収マナドレイン〉に改良を加えた魔法を行使した。


 魔力の奔流が煌めきとなって姉妹の魔法に激突する。


 本来〈魔力吸収〉は術者から魔力を奪う魔法だけど、私の改良した魔法はひと味もふた味もちがう。

 疾く放たれた魔法をもとの魔力に再変換し、そのままいただいた。


 私が改良したのは、


 まだ繋がっている魔力のラインをたどり、術者からも魔力を奪う。


 炎から光の粒子に変換されつつある魔力を取り込みながら、姉妹からも魔力を奪う。


 ここまでなら小細工のレベルだ。私の魔法にはまだ先がある。

 魔道具の理論にあるように、故意に放たれた魔力は少ない方へ流れる特性がある。姉妹の魔法を完全に打ち消さないのがミソだ。完全に消滅していない姉妹の魔法にどんどん魔力が注ぎ込まれていく。


 最悪、魔力の枯渇によって死ぬ可能性もある。そうならないように手加減はするつもりだけど、物事には常に失敗がつきまとう。久々の王城、見慣れぬ場所に緊張して、加減を誤ることも……。

 すべては姉妹が悪いのだ。話し合いをしようともせず、先に仕掛けてきた姉妹が……。


 問題があるとすればエルちゃんね。姉妹の身に何かあったらどうなるか……。


 私のお気に入りは、一見するとお人好しに見えるけど、なかなかに強かだ。ときおり、心を見透かしたように、隠している真意を言い当ててくるときがある。


 普段はボンクラだけど、たまに鋭いのよね。まあ、そういうところが可愛いんだけど。


 魔力が尽きてきたのか、妹のほうが片膝をつく。


 そろそろ頃合いね。

 彼には悪い印象を持たれたくない。なので、今回は見逃すことにした。

〈魔力吸収〉をキャンセルして、中空に漂っている魔力を姉妹に還す。優しい私はちょっとばかり奪った魔力も返してあげた。


 肩で大きく息をする姉妹を見て、勝利を確信する。


「どう、これで私が本物の〝叡智の魔女〟って信じてくれた?」


「み、認めよう」

「私は断じて認めません! ラスティにつく悪い虫ですッ!」


 エルちゃんから、長姉のカーラがとっつきづらいって聞いてるけど、妹のほうがとっつきづらくない?


 あー、でもでも私とエルちゃんじゃ性別がちがうからそうなるのかも。カーラは男性に厳しくて、ティーレは女性に厳しいってカンジ?

 ま、どうでもいいことだし、いっか。


 だけど吠え癖のついたワンちゃんは、ちゃんとしつけけないと。


 お仕置きにキツーイ一発をお見舞いしようとしたら、エルちゃんに腕を掴まれた。


「何事もほどほどにね」

 どうやら見抜かれているらしい。


 彼の言葉に従ってあげてもいいんだけど、それだと私が損をする。なので、ここぞとばかりに主張することにした。



「未来の!」

「旦那様!」


 とりあえず私の要望をぶっこんだ。

 断られないように、ベッドの上でのことも打ち明けた。結果は不発だったんだけど、行為に及んだのは事実だし。……私、嘘はつきたくないタイプなのよね。


 ここまですると、要望というか既成事実になるのだろうけど、そこは迷惑料込みということで……。


 大荒れに荒れる修羅場を見物しながら、エルちゃんの六人目の妻になったことを知った。


 ちなみに、四人のお妾さんがいると聞いて、心のなかで『よっしゃぁぁーーーーーーッ!』と歓喜したのは言うまでもない。


 だってそうでしょう。九人相手に〝にゃんにゃん〟を繰り広げているんだから、絶対に上手いはず! まったく初心な顔して……。


 これほどまでの良物件、そうはお目にかかれない。実にいい男を拾った。


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