第359話 別荘という名の監獄②
難を逃れた俺だったが二日目からは地獄だった。
ご機嫌取りに朝食をつくったはいいが、食事の席で妻たちが再燃する。それも大火事クラスの出火だ。昨夜、ガス抜きをしなかったのがいけなかったらしい。
賠償金額は相当なものになるだろう……。
悔やんでも、もう遅い。
忍び寄るように謝罪と賠償を請求される。
「あなた様、昨夜はみな羽目を外しすぎたようで大変でしたが、今日はご安心を」
「ん? 今日は政務をする予定だけど」
「安心してくれ、おまえ様よ。文官も育ってきているので、今日の政務は試験がてら任せることになっている」
「へー、そうなんだ。だけど俺のところはそういった予定じゃないから、このあと城に戻らなきゃ」
他人事なのでさらりと流そうとしたら、マリンが声をあげた。
「ラスティ様、ご安心を! そちらの部署にも話は通しています」
んッ? どういうこと?
思い返すも、そういった指示を出した心当たりはない。それに報告も来ていない。何かの間違いでは?
「エルメ、ベルナそういう話は出ていたか?」
優秀な文官に問いかけると、彼女たちは気まずそうに目を逸らした。軍事担当の二人も同様だ。
「…………もしかして、黙っていたのか?」
いたたまれなくなったのか、真面目なメルフィナが声をあげる。
「申しわけありません閣下。これには深い事情がありまして」
「アタシらも王女殿下の命令には逆らえないんだよ」
姉妹揃ってペコペコと頭を下げる。連動してエルメとベルナも頭を下げた。
嵌められたッ!
四卿のご令嬢に圧をかけられる人物の仕業だ。つまりティーレとカーラの共謀ということになる。
首謀者二人に目をやると、姉妹揃って悪人みたいに忍び笑いを洩らしていた。
「ウフフフフッ」
「クフフフフッ」
こういうときだけ姉妹の息はぴったりだ。さすがは仲良し姉妹、見事な連携である。
逃げようとするも、ホエルン・カナベル元帥コンビがすでに退路を塞いでいた。
宇宙軍の精鋭である鬼教官とベルーガの誇る用兵家、いいポジション取りだ。
唯一、逃げられそうな採光用のちいさな窓も、下にマリンが待ち構えている。
まさに絶体絶命。どう足掻いても絶望の状況。
戦場で強行突破を試みるのは最後の手段。死ぬか生きるか、命懸けのギャンブル。
命のやり取りが日常茶飯事の戦場みたいに死の危険性はないだろう。しかし考えものだ。だって毎日顔を会わす奥さんたちだし、一度逃げ切ったくらいじゃねぇ……。
潔く諦めることにした。
そんなわけで素直に白旗をあげる。無理難題を突きつけられるであろう無条件降伏だ。
「そ、それで、今日はいつまでなのかな……」
〝にゃんにゃん〟タイムについて尋ねると、照れたり、興奮したりと態度はさまざまだったが、
「「「「明日の朝まで」」」」
と肝の冷えるお言葉をいただいた。
いいだろう。たまには家族サービスをしよう。ただし死なない範囲で……。
しかし休養は必要! なので最低限の保証を確認する。
「あのう、明日も政務を休んでもいいかな?」
「「「「明日もッ!」」」」
驚く妻たちに、人生史上最大の嫌な予感がした。
「あのう、俺も一応、休養が必要なんで。明日は丸一日……」
すべてを言い切る前に歓喜の嵐が吹き荒れる。それも打ち消すことのできない欲望ゴリ押しの嵐だ。
「あなた様、明日も……それも丸一日ですかッ!」鼻血を垂らすティーレ。
「それでこそおまえ様だ! 惚れ直したぞッ!」カーラは大切な眼鏡を握りつぶしていた。
「お供しますラスティ様!」マリンは自慢の黒鎌を振りまわしている。
「パパ、素敵ッ!」とてもそうとは思えないジャブを繰り出す教官。
「旦那様の愛を感じます」と、なぜか肩をはだける元帥様。
俺の言葉を曲解したのは妻たちだけではない。お妾さんたちもだ。
「閣下、ご配慮痛み入りますッ! 不束者ですがッ、全身全霊をもって〝にゃんにゃん〟に挑みたく……」お堅いメルフィナ。
「アタシは……閣下が望まれるならいいけど…………」目を逸らして恥じらうイレニア。
「閣下の御為に、この身を捧げます」あくまでも上品なエルメンガルド。
「右に同じく。存分にお甘えください」豊満な胸を組んだ腕で持ち上げるベルナデッタ。
こうして俺は二日間の死闘を繰り広げることになるのだが、それは別のお話。
ただこれだけは言える。みんな良かったと……。
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