第272話 取り戻した玉座の間
しばしの休憩を挟んで、俺は玉座の間へ足を踏み入れた。
ただ一言、凄いに尽きる。
当然ながら、玉座の間は
超高額宇宙ツアーに記載されているものよりも広く感じる。ガンダラクシャにある俺の工房をすべて入れても、まだ余裕がある。
現在進行形で、壁に
側にいた兵士に尋ねる。
「なんで玉座を壊しているんだ?」
「カウェンクスが座ったので、
再利用すればいいのに……勿体ない。
玉座の近くにいるアデル陛下に歩み寄る。
未来の義弟は、エレナ事務官と顔を突きあわせて何やら相談している。
「捕虜一万か……どうするべきか悩むところだ」
「いくら敵でも皆殺しはよくないわね」
「うむ、武器を捨てて投降した者まで殺しては悪名が広まる。とはいえ、臣民感情を思えばこのままにもしておけぬ。難題だ」
差し出がましいと思ったが、口を挟んだ。
「陛下、捕虜を殺すのはやめたほうがよろしいかと」
「おお、義兄上もそう思うか! しかし臣民の声も無視できん。何か良い手はないか?」
考える。
王都の民はそれほど被害を受けていない。貴族は攻撃対象なので仕方ないけど、民家が焼かれた形跡も無かったし、無闇に住民を殺したとも聞いていない。
天下に
それを利用しよう。
「すべての元凶は聖王カウェンクスです。罪はあの王にあります。それと、王城の地下で見た惨状。あれらの首謀者、実行に移した者を
「あれらとは?」
若い国王にどう説明すればいいのだろう。あのような悪意に凝り固まった現実を、彼にはまだ知ってほしくない。
悩んでいると、エメリッヒが割り込んできた。
「スレイド大尉、君は疲れているだろう。少し休みたまえ。陛下には私が説明しておこう」
なかなか気の利く軍事顧問様だ。
ここはお言葉に甘えて休息しよう。
適当な場所に腰を下ろして、身体を休めることにした。
◇◇◇
どれくらい経っただろう。
口元に違和感を覚えたので目を開く。
たおやかな
「あなた様、目が覚めましたか?」
「んぁッ、ティーレ」
壁にもたれかかっていたはずが、いつの間にかティーレの膝枕で寝ていた。
どうりで寝付きがいいはずだ。最高の枕に頭を乗せていたのだから。
大分と楽になった身体を起こして立ちあがる。
広い玉座の間ではない。いつの間にか別室に運ばれていた。
「ごめん、こんなことさせちゃって。ティーレも忙しかっただろうに」
「そのようなことはありません。あなた様の活躍は軍事顧問殿から聞いております。妻として誇らしいです」
彼女は感極まっているようで、俺の手をとり握りしめた。
きっと手当てした人たちのことだろう。しかし、そこまで言われることだろうか? 俺としては当然のことをしただけなのに……。
詳しく聞くと、俺が助けたのはベルーガの重鎮たちらしい。
四卿――いわゆる国政のトップだ。俺が助けたのはそれに連なる血族だったのだ。
悲しいことに、軍務卿、外務卿といった大物は死んでいたが、内務卿と財務卿が助かったのだとか。
どれも権力者で、王都が占拠される前までは派閥を押さえ込んでいた大物たちだと知らされる。
なるほど、大手柄だ。
ふらふらになるまで治療した甲斐があった。
「ところでカーラはどこにいるか知らないか?」
「姉上ですか?」
ティーレが眉をひそめる。
別にカーラとイチャイチャしたいわけじゃない。今後のことで頼みたいことがあるのだ。
謝罪の代わりに、悲しげな顔をしている妻を抱きしめる。
「俺が言葉足らずだったね。カーラに国のことで相談があるんだ」
「でしたら、最初からそうだと言ってくれてばよろしいのに」
周囲を見渡してから、誰もいないことを確認して、軽くキスをした。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が流れる。王都を奪還したし、ちょっとくらいはいいかと大胆な手に移ろうとしたら、唐突にドアがノックされた。
「…………」
ティーレが俺をじっと見ている。
「…………どうぞ」
外に向かって返事すると、彼女の眉間に皺が寄った。
さすがに無理だろう。たぶんみんな知ってるだろうし、隠し通せっこないって……。
部屋に入ってきたのはカーラだった。
マリンにホエルンもいる。
妻が揃ったところで本題に入る。
「カーラ、頼みづらいんだけど、王城の地下――拷問に関係した者たちを突きとめたい。君の力を貸して欲しい」
身体を直角に折って頼み込む。
「おまえ様、よしてくれ。頼まれずともそのつもりだ。拷問を受けた者に、オレと近い歳の者もいたと聞く。見逃せない所業だ!」
「そう言ってくれると助かるよ」
「当然のことするまでだ。おまえ様のためにオレはいるのだからな」
カーラはそう言うと、静かに距離を詰めてハグしてきた。
それが終わると、ホエルンとマリンが声をあげた。
「パパ、捕虜の管理は私に任せて」
「ラスティ様、私もお手伝いします!」
左右から抱きつかれる。
水面下で妻たちの覇権争いが
結局、みんなと抱きしめ合って、軽いキスをした。
これだけのことで自発的に働いてくれるのだからエコな人材だ。しかし正妻戦争だけは避けたい。
「あっ! そういえば王冠、探すの忘れてた!」
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