§8 この惑星の王都を調査しました。 main routine ラスティ

第243話 されど会議は進まず



 三姉妹が揃い、ベルーガの西、北、東の連携も成った。

 お次は中央の攻略。

 王都を奪い返せば、滅亡ルートを突き進んでいたベルーガに希望の光が見えてくる。


 王族はもとより、貴族の期待も大きい。

 そんなわけで、ベルーガの首脳陣(アデル陛下と三姉妹)は、いまが好機ばかりに貴族や騎士を呼びあつめた。

 本格的な王都攻めの会議を開くためである。


 会議には元帥も出席しているが、腹黒元帥やカリエッテは任地を守るので動けない。結果として、会議に参加しているのは経験の乏しい新米元帥ばかり。

 あまり、よろしくない兆候だ。


 王族に名を売るチャンスなのだが、貴族たちが発言することはなかった。

 結果、不毛な会議となり、王都攻めの会議は難航した。


 当然のことである。


 マキナ聖王国が攻めてきたときに、王都にいる有能な多くの貴族が捕えられたり、殺されたり、と人的被害が多い。

 生き残った多くの貴族は家督を継げなかった者や、その家の嫡男たちだ。

 国家運営に携わってきた一線級の人材と比較すると、経験に乏しく、有能とは言えない。そんな二流、三流の貴族様が主立った参加者なのだから、会議の結果はお察しである。


 加えて、ベルーガの王都は、建国以来、ついこの間まで落とされたことがなかった。いわゆる難攻不落の都だ。

 ぐるりと王都を囲む城壁は厚く、そして高い。魔法で強化された強固な城壁の高さはゆうに五メートルは越える。

 攻め落とすのは容易ではない。


 そもそも城攻め自体が難しいし、攻める側の条件も悪い。

 本来なら守るに難い平城なのだが異様なほど硬く、近づくにも遮蔽物がまったく無い。

 魔法で攻撃しようにも射程内に入る前に、矢の餌食えじきだ。攻城兵器で城壁の一角を崩したいところだが、前述したとおり堅牢な壁は厚く、幾重にも重ねられた強化・防御魔法でそれも不可能。

 攻城弓バリスタで、足場を打ち込んで王都に突入する案も出たが、それも難しいらしい。


 エクタナビアの一件を知る貴族から水攻めを提案されたが、王都自体が広大すぎて効果は薄い。敵以前に民が苦しむ結果になる。


 穴を掘って地中から侵入する案も出たが、カーラは渋い顔で却下した。

「城壁の真下――地中には鉄の杭を深く打ち込んである。錆止めの魔法も生きているはずだ。まず無理だろう」


「転移の魔法は?」


 ルセリア王女が習得しているという魔法の話を持ち出すも、

「転移の魔法も無理だ。城壁にかけられた魔法で弾かれる。そもそも魔法で転移できるのは少数。魔力の消費が激しく、そう何度も往復できない」


 似たような能力――マリンの護衛をしている白黒双子の魔族の影を渡る能力に触れてみたが、転移魔法と似たような答えが返ってきた。


「となると……王族用の秘密の抜け道から侵入しないと駄目なのか」


 俺の問いかけに、カーラの辛辣な言葉が返ってきた。

「それも却下だ。マキナ聖王国の暗部は優秀だ。加えて星方教会の破滅の星メギドもいる。王都を占拠してかなりの時間が経っているので、抜け道の存在はバレていると考えて間違いないだろう」


 カーラから城攻めに関して提案がない。彼女なりにいろいろ考えても名案が浮かばないのだろう。それとも焦っているのか?


 ふと、王兄の口走っていた王冠のことを思い出す。


「王冠は? 戴冠の儀につかう大切な宝なんだろう? 敵の手に落ちているってことはないのか?」


「それならば問題ない。王族の隠し部屋はベルーガでもっとも安全だ。絶対に見つからない」

 確信があるのだろう、カーラは淀むことなく言い放った。


「では、その隠し部屋から侵入しては?」

 カナベル元帥が言うと、三姉妹は揃って首を振った。


 カーラに代わってティーレが続ける。

「あの部屋は逃げるための場所ではありません。王族だけの秘密の部屋です。完全に隔離されています。それに王族とはいえ、直系の者にしか存在を知らされていません」


「おかしいな? 直系の者しか知らないのであれば、なんで王兄は知っていたんだ?」


「アレは王族のなかでもとりわけ強欲な男。お祖父様、あるいは父のあとをつけて、突きとめたのでしょう」


「う~ん、だとしたら打つ手無しだな…………エスペランザ軍事顧問、何か名案はありませんか?」


「王都に囚われている民を傷つけず、城を落とす……か。かなり難易度が高いな。考える時間をくれないか」


「せめて城門だけでもなんとかなりませんかね?」


「城門か、それが一番厄介な気もするが」


「敵を都からおびき出すとか、内通者に開けさせるとか、なんでもいいから考えてくださいよ」


「そう簡単に言ってくれるな。城攻めには心理的要素が大きく左右する。必ずしも成功するとは考えられん。いくつも策を用意せねばな。それに王都周辺に罠が張り巡らされているはず。まずはそれから無力化せねば手痛いしっぺ返しを食らうぞ」


「罠? 見通しのいい平地でしょ。そんなバレバレな罠になんて引っかかりませんよ」


「その慢心まんしんが、すでに敵の術中に嵌まっている証拠だ。見通しの良い平地でも落とし穴くらいは仕掛けられる。ある程度の重さに耐えうる蓋をすれば偽装は完璧だろう。そういった罠を事前に撤去しなければならない。でないと、攻城兵器を用意してもすぐに走行不能に陥ってしまう」


「地道にやるしかないですね」


「…………いや、いい手がある。城壁の射手が問題ならば矢種を奪えばいい」


「奪うって、難攻不落の王都にいる敵からどうやって」


「無駄弾を打たせるのだよ」


「見通しのいい平地でどうやって? もしかして兵士を盾にするなんて非人道的な作戦じゃ無いでしょうね」


「人の話は最後まで聞きたまえ。こうやるのだよ」


 エスペランザにしてはショボい作戦だったが、現状、打つ手無しの状況を考えればそれしかない。

 なんでも古代地球でつかわれた手だという。


 簡単に見破られそうな策だったが、俺たちはそれを実行することにした。


 それからいくつか策を授かり、会議はお開きになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る