第234話 王兄親子④
「クソッ、あと一歩で四人殺せるところだったのに! 俺様のナイフを受けとめやがって!」
偽マリモンの言葉に動揺する衛兵。
そんな部下を見かねてか、カーラが命令を発する。
「何をしている! オレのことはいい、はやく
衛兵が偽マリモンを包囲する。
「おめでたい連中だ。俺様がなんの準備もなくやって来たと思っているのか?」
「奴の言葉に耳を貸すな。死なぬ程度であれば何をしてもよい。捕らえよ」
かろうじて衛兵の隙間から見える偽マリモンは、水晶玉を手にしていた。
「ガーキの言ってた通りだ、王族ってのはつくづく馬鹿な連中だな。アイツの手引きですんなりここまで来れた。本当に間抜けな阿呆どもだ!」
そう言って、偽マリモンは手にした水晶玉を床に叩きつけた。
水晶玉が砕け散る。しかし、それ以外のことは何も起きない。
「チッ、不発か!」
さらに別の水晶玉が砕かれた。
「クソッ、ただの水晶玉じゃねーか。ガーキの野郎、
「殿下から許可が下りた。者ども、殺さぬ程度に痛めつけて引っ捕らえよ」
「おおっ!」
「クソッ、おまえら卑怯だぞ! 俺一人に、うわぁッ! ギャァーーー!」
捕り物騒ぎはすぐに収まると思っていたのだが……。
血まみれの偽マリモンが、衛兵の一人を殺し、俺たちの前に
「クソッ、クソクソッ、こうなりゃ
言いながら、マリモンは三本のナイフを投げた。どれも標的は異なる。
先ほど出した命令で、律儀に魔法の準備をしていた相棒が、
――魔法はチャージずみです。いまなら撃ち落とせます――
【やれっフェムト!】
――了解しました――
並列化した〈氷槍〉で三本すべてを撃ち落とした。
その直後、危険だと認識された近衛たちによって偽マリモンは斬り殺された。身体に刻まれた傷跡は二十を超えるという。
問題の王兄親子は死んだが、これで俺とティーレの婚姻問題はふりだしに戻った。
残された王族はティーレの姉妹だけで、その姉妹からまだ答えを聞いていない。
「俺とティーレの婚姻を認めてくれるか?」
「私は認めます。ですから、リブとの婚姻も認めてくださいね
ルセリアが、ティーレを見やる。
「ありがとうルセア。リブとのことは約束します」
こうして、俺、リブともに賛成の票が入った。
肝心のカーラだが……、
「ラスティ、貴様に一つ条件がある」
「姉上、どのような条件なのですか」
何も知らないティーレは心配そうな顔をしている。フェムトに祈っているのか、胸元で指を組んだまま。居ても立ってもいられないようだ。
「条件を飲む。だから賛成してほしい」
カーラはしてやったりと口端を上げた。
「オレと結婚しろ。条件はそれだけだ」
瞬間、ティーレの目が見開かれる。
「! 姉上、いまなんと!」
「言った通りだ。オレもラスティと結婚する」
「いけません。ラスティは私だけの夫ですッ!」
「妹よ。こうは考えられぬか? 妊娠して出産までの間、ラスティに要らぬ虫がつかぬと言い切れるだろうか?」
「マ、マリンがいます!」
「子供が生まれるまで十月十日。間違いが起こる可能性も
「た、たしかに……」
「その点、オレならば問題ない。同じ王族だ。主君に隠し立てするようなことは起こらないし、同じ妻という間柄。ちゃんとラスティのことは報告する。それほど悪い話とは思えないが……」
「姉上、狡いです」
「狡いかどうかは未来の話。さて、どうする我が妹よ?」
「あなた様ぁ~」
ティーレが腕に抱きついてくる。とても困った顔をしている。
どうやら人生指折りの選択らしい。カーラを断ったら、ティーレと結婚できないし……。かといって、俺のことを殺そうとした女と結婚するのも……。
でもなぁ、浮気とか出されたら絶対にNOって言えないじゃん。それ言ったら、暗に浮気するって認めたことになるし。
やっぱりカーラは狡猾だ。
散々悩んだ挙げ句、俺の選んだ答えは…………。
「間違いは起こしたくないな。ティーレには誠実でありたい。浮気とかする気はないけれど、近衛の人たちに迫られると逃げおおせられるかどうか……」
彼女は頬をぷうっと膨らまして、腕を
「ごめん。でもガンダラクシャからほとんど会うことができなかったし、いろいろ言い寄られて不安なんだよ。ホエルンのこともあるし……」
「こともあるし? もしや、フォーシュルンド以外にも女性がいるのではないでしょうね?」
突如、ティーレの声の温度が下がった。しまった地雷を踏んだか?
「いやホエルンだけだよ。いまのところは…………」
包み隠さず本当のことを白状すると、ティーレはいままで見たことのない冷めた表情で、
「いまのところは……。あなた様、あとでお話しがあります。私の部屋に来てください」
当然、断るという選択肢は無く、
「……はい」
俺、ティーレより年上だよな。なんで主導権握られてるの?
「おい、ラスティ。オレも話がある、あとで部屋まで来い」
カーラもッ!
いまさらながら、結婚は墓場という言葉が胸に突き刺さる。どうやらとんでもない妻を
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