第184話 想定の範囲……外?!
当初の予定では、秘策を授けて、その結果を観測するだけの楽な任務のはずだった。
この惑星の情報共有レベルは
「魔法で通信? あんた馬鹿かい。そんなことしてみな、情報がダダ漏れだよ」
そのくせセキュリティに関してはガッチガチで、木製の小箱を魔法で金属並に強化して、かつ魔法鍵なるものをかけている。
……理解できない。
暗号通信の技術が確立されていてもよさそうなのだが……。この惑星の住人はどこか抜けている。
この件については、そっと記憶の片隅に押しやった。
いまやるべきことはエクタナビアの防衛だ。
敵は、城門の外に
戦況はかなり悪い。
敵が攻城兵器で攻撃を仕掛けてくる前に策を実行したいのだが……。
もどかしい。勝てる
問題は末端の兵士だ。彼らは上官を信じて疑わない。……いや疑えない。そうするように訓練されている。
従順な兵士が無能と人生をともにするのは馬鹿げている。
まともな兵士がいればこちらで面倒を見てもいいのだが……。
この場――会議室にあつまったカリエッテの部下を見渡す。
誰も彼もが、この老女に心酔しているようだ。
たまに
しかし、秘策を成功させても、あとが続かないのでは意味がない。その後の行動が重要なのだ。被害を最小に留めて、最大の戦果が好ましい。兵力の優劣を度外視した勝利を求めてはいけない。
一時的な勝利に
弱ったところを叩くのは常道だが、敵も生きた兵士、死に
冷静ならば、そのような
「みんなよくお聞き、今夜この男が用意した秘策とやらを実行する。成功したらそのまま追撃戦に移るよ」
「本気かね? 失敗は許されないぞ」
「どのみち、あんたの策で砦はおじゃんだ。あの攻城兵器が出てくる前に、敵を叩き
「敵にそこまでの余裕はないと思うがね。想定外の事態で、立て直しは難しいはずだ。攻城戦どころではないだろう。最悪、退却という展開も見込める」
「だからかこそ徹底的に叩くのさ。裏切り者のバルコフは
「攻めてくると?」
「硬直状態が解けて、敗戦が色濃い。となると優勢になったこっちに隙が生まれる、心の隙だ。アイツはそこを狙ってくるのさ」
カリエッテの心配はごもっともだ。しかし、私の予想だと、敵はエクタナビアを諦めて退却するはずだ。まあいい、私の策をお
カリエッテ主導の下、軍議は進む。
リブラスルスは人質として城に残り、なぜか私に実行部隊の指揮が回ってきた。子飼いの一人、メイドのフローラをあてがわれた。このことから捨て駒でないことは判明している。しかし、なぜリブラスルス曹長が人質になるのか? 人質にするのならば私だろう。まったくもって理解できん。
「今夜は新月だ。谷風がやんだら行動開始だよ」
風の有無か、音の出ない便利な合図だが不確定要素が強いな。信頼できるのか?
「魔法で谷風を消せるのか?」
「いくら魔法でも無理ってもんだよ。この山――
「大した自信だが、風の有無を読めるだけでそこまで優位に立てるものだろうか?」
「優位に立てるよ。そうなるように訓練は積ませてきた」
訓練? 引っかかる言葉だ。まるで、風が無いときだけ動かせる部隊があるみたいな口ぶりだな。どうせ凧や
「頼むから、決死隊には組み込まないでくれ」
「何寝言を言ってるんだい。あんたには秘策を実行する役目があるだろう。生憎とアンタの持ってきた魔道具は扱いが難しくてね、勝手に死なれちゃ困るのさ」
「それを聞いて安心した。ところで部下のリブラスルスはどうなる?」
「あの目つきの悪いクソガキかい? あれなら殿下の玩具さ。こんな岩城で
「……深くは聞かない。生命の危険がないのならば、好きにつかってくれ」
「言われなくてもそうするよ」
玩具の意味はよくわからなかったが、命に別状がないのであれば問題ないだろう。部下には悪いが、留守番を頼もう。
それにしても面倒だ。まさか実戦部隊を率いる羽目になるとは……。信用していないのなら、ただの一兵卒として扱ってくれれば楽なのに。
ぼやいても仕方ない。エクタナビアでの権限はカリエッテにある。私は単なる雇われ、粛々と任務をこなすのみ。
会議は問題なく終わったものの、
仮にも私は軍事顧問だ。それなのに
この戦いが終わったら、
国難を除いてやるのだ、それくらいの請求は受け入れてくれるだろう。
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