第171話 第三王女の行方 改訂2024/0611
かつての同僚リブラスルス(通称リブ)の案内で俺たちはスタインベック辺境伯の居城に迎え入れられた。
警備が厳重というわけではないが、なぜか城内の兵士はピリピリしている。
西の戦線からかなり離れた場所だが、ここスタインベック領も安全地帯というわけではないようだ。
武器を預かるという名目で武装解除を迫られ、主要な人物だけ広間に通された。
俺と、ホエルン、エメリッヒ、ロウシェ伍長、それに部下のラッキーとマウス。
カレン少佐とシン、ロンには広間に入らず部下をまとめてもらっている。
スタインベック勢は、当主のマリウス・スタインベック辺境伯とその子息マルール、マレーレ兄弟。
俺たちの前に立ちはだかった少年たちだ。よく見ると兄は伸びた金髪を後ろで束ねている。見分けるためか、弟の髪は供らしい短髪。でんと構える頼もしい兄と、その後ろでおどおどする弟。実に兄弟らしい構図だ。
最後に見事俺の背後をとった、かつての同僚リブ。
広間には十人の面々があつまっているわけだが……。
肝心の王女殿下の姿が見えない。
「第三王女殿下を迎えに来たのですが、殿下はどこにおられるのですか?」
貴族らしからぬ美丈夫、マリウス・スタインベックは盛大にため息をつくと、
「ルセリア王女殿下は西の端にある要塞都市エクタナビアへ向かわれた」
「エクタナビアは激戦区と聞いていますけど、なぜそんな危険なところに?」
「援軍要請のためです。援軍を出し
「引き留めなかったのですか?」
「引き留めたさ。だけど殿下の意志は硬くてね、夜陰に紛れてドロンさ」
「だから周辺を探索していたと」
「ああ、そこで運悪くスレイド卿たちとかち合ってしまったわけだ」
「とんだ邪魔をしてしまいましたね。すみません」
「謝る必要はない。すでに遠くへ行っているだろう。殿下は若くして魔導の道を
「だったら、すぐにでも捜索を再開しなければいけないのでは?」
「おそらく無理だ。殿下は短距離ならば魔法で転移できる。いまごろ魔法を駆使して、遥か先へと
「その援軍に俺たちも加わってよろしいですか?」
「そうしてもらえると助かるのだが、スタインベック領の兵と行動を別にしたほうが、そちらの都合が良いのでは? 卿はアデル陛下から勅命を受けている。であれば、我らが
「提案はありがたいのですが、ルセリア殿下と合流しても帰れないのでは意味がありません。それに単身で前線の兵を鼓舞するという人柄です、意志が固そうだ。国王陛下のもとに戻っていただくにせよ、一度、敵を蹴散らさないと無理っぽそうですから」
「たしかに殿下の気性を考えるとそうなってしまうな……。わかった。では兵の指揮を頼もう」
話がまとまりかけたそのとき、リブが声をあげた。
「ユリウス様、俺もついていっていいですか?」
「リブも行ってしまうのか」
「はい、殿下のために戦いたいと思います」
「いいのか? 君は平穏な暮らしを望んでいたはずだが」
「平穏な暮らしを望んでいました。ですが、大恩あるルセリア殿下の危機を見過ごすわけにはまいりません」
俺の知らないところで、リブに何があったのだろう? もしかしてナノマシンを譲渡した相手というのは……。
「スレイド侯、悪いがリブも連れていってくれないだろうか」
「かまいません、むしろ歓迎します」
「そう言ってくれると助かる。リブ、必要な物があれば遠慮することはない、好きなだけ持って行ってくれ」
「ありがとうございますユリウス様」
「スレイド伯、すまないが兵を招集するのに三日ほど時間をもらいたい。それまで出立は待ってくれないだろうか」
「かまいません。俺も西の地理に詳しい者を雇おうと考えていたところです」
「ああ、だったらリブは打ってつけの人材だ。西部の地図を書き起こしているからね。かなり精密な地図だ。リブの知識ともども役に立つだろう」
平穏な暮らしを求めながら、この惑星の地図をつくる。精密地図なんて罠を仕掛けること前提じゃないのか? 腐っても軍人だな。
話がまとまりかけたところで、エメリッヒが口を挟んできた。
「ところでユリウス辺境伯、差し支えなければ殿下の目的地――エクタナビアとその周辺の情勢を詳しく教えてもらえませんか」
失礼なことを口走るんじゃないあろうな……。いつでも口を
「エクタナビアのことを知っても、そこまで行けないと思うが……」
「我々であれば可能です」
「一体どのようにして?」
エメリッヒはドヤ顔で、口の真ん前に人さし指を立てる。
「それは秘密です」
それからエメリッヒはリブとユリウスを巻き込んであれこれ話し合いを始めた。
俺はというと、ホエルン教官がぐずりだしたので広間を出ていく羽目になってしまった。なのでエメリッヒの
ロウシェ伍長やラッキーたちに聞こうとしたが、彼女たちには小難しい話だったようで、俺のあとを追って広間を退出したとか。
まったく、つかえない連中だ。
まあ俺も、鬼教官とはいえ成熟した女性に腕を抱かれて得した気分だったし、いいか。押しつけられた魅力的な胸の感触を堪能していたので、あまり強くは言える立場じゃないな。よし、この件については忘れよう。
それにしてもあれほど苦手だった鬼教官に懐かれるとは……人生ってわからない。
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