§6 この惑星で仲間たちと合流しました。 main routine ラスティ

第158.5話 subroutine ティーレ_正妻動く!?  訂正2024/03/15



 私とラスティは、精霊様も認める夫婦です。

 それなのに姉上は仲を認めてくれません。

 私たちを引き離すだけでなく、今度は夫に西へ向かえというのです。

 それも味方だと思っていたアデルとエレナ宰相も一緒になって……。


 ラスティとは魔山デビルマウンテンでキスして以来、これといった進展はありません。精霊様に妻と認められて一年半になろうとしています。なのに進展がないのですッ!


 それもこれも私とラスティの仲を認めてくれない姉上が悪いのです!

 それどろか、愛する夫によからぬことを企んでいる様子。

 もう我慢の限界です!


 駆け落ちですッ!


 国を捨てた王女とののしられようが、愚かな女と指さされようが、私は一向にかまいません!


 そのためにはまず……、

【フェムトー様、お力を貸しください】


――どうしたのですかティーレ?――


【夫の――ラスティのもとへ行って、話をしようと思うのですが、近衛の目が厳しく……】


――夜這よばいをかけるのですね――


 よっ、夜這い!!

 精霊様はすべてお見通しでした。駆け落ちの先にある、めくるめくピンク色の世界について……私の心の奥底でくすぶっていた願望をズバリ言い当てたのです!


【さ、ささ、最終的にはそうなりますが、今回はそのための準備を進めたく…………】


――なるほど。駆け落ちしてから夜這いをかけるのですね――


 鋭い!


【端的に言うと……そうなります】


――となると夜這いへ向けての相談ということになります。それで間違いないですか?――


【……は、はいぃー】


――スッキリしない返事ですね。何か問題でも?――


 この際なので、精霊様に相談しました。

 ラスティとの婚姻についてです。


 他国はどうかは知りませんが、ベルーガにおいて婚姻は重要視されています。

 単なる夫婦のちぎりだけでなく、それ以外にも意味のある儀式です。一般的な結婚とは異なる魂を結ぶ行為。もっとも尊いとされる〝結魂けっこん〟です。

 この結びつきが強くなければ、王家の血は残せないと言い伝えられています。国の行く末に関わる重要な儀式。それゆえベルーガの王族は物心つく頃から、王族としての心得とともに婚姻の重要性を叩き込まれます。


 先の戦いで多くの王族がこの世を去りました。

 王家の正当な血筋を後世に残さなければいけません。とはいえ弟はまだ若く、生き残った王族は片手でかぞえるほど。

 とうぜん駆け落ちなど許されるわけもなく……。


――追っ手を懸念けねんしているのであれば、この大陸を出る必要があります。その辺はどう考えているのですか?――


 うっ……そこまでは考えていませんでした。


 黙り込んでしまったので、精霊様は確信したようです。

――そこまで考えが及んでいないのでしょう。視野が狭すぎますね。物事を俯瞰ふかん的に見ることができていません。ティーレの悪い癖です――


【仰るとおりです……】


 反論できない。ですが、姉上が目を光らせています。このままではラスティとまともに話す機会無く、また離ればなれになってしまいます。それだけは嫌です!


 最悪の場合、精霊様の助け無しでラスティの元へ行かねばなりません。近衛の監視をくぐり、たどり着けるでしょうか? 不安でなりません。


【……わかりました。諦めます】


――その必要はありません。駆け落ちは早計ですが、互いに愛を確かめ合うのは重要です。夜這いを決行しましょう!――


 それでこそ精霊様です!


 精霊様の導きに従って、天幕を出ました。

 夜陰に紛れ、近衛に見つからぬよう細心の注意でラスティの元へ向かいます。

 精霊様のお言葉どおりに進むと、不思議なほど人と出会いませんでした。


 さすがは精霊様心強い。


 積まれている資材や荷馬車の陰に隠れながら進むこと十分。

 人影を発見しました。

 覆面を被った黒ずくめです。どう見ても怪しい不審者。


 もしや暗殺者の生き残り!


 気配を殺して短剣を抜きます。夫のそれと似た厚みのある短い刃。


 月明かりが反射しないように慎重に後ろに構え、人影の動きを観察します。

 巡回の騎士をやり過ごすと、人影は凄まじい速さでこっちに飛んできました。


【精霊様ッ!】


――大丈夫です。あれは……――


 精霊様が言い切る前に、人影が眼前にやってきました。

 乱暴に口を手で塞ぎ、

「しっ、静かにして」


 覆面をしていますが、私にはわかります。人影はラスティです。匂いにでわかりましたッ! 愛する人の匂いを忘れるはずがありませんッ!


 黙って頷きます。


 その仕草を確信するなり夫は覆面を脱いで、そのまま唇を重ねてきました。有無を言わさぬ熱い接吻ベーゼ


 さすがです、あなた様ッ!


 顔にかかる熱い息。湿しめりを帯びたそれに胸が高鳴りました。

 夫を抱きしめて、しばらく愛を確かめ合います。

「……ぷはっ、キスしていい?」


「んもう、あなた様ったら、それはする前の言葉ではありませんか」


「あー、うん、そうだね。そうだった。順番が間違ってた、ごめん」


「許します。ですからもう一度」


「うん」


 大切な行為なので二度しました。


「ところで、あなた様はなぜここに?」


「そういうティーレこそ、こんな夜更けに?」


「実は、あなた様に会おうと、こっそり天幕を抜けてきました」


「俺もティーレに会いたくて……こっそりここまで」


 ラスティの言葉に、胸がジーンときました。愛する夫もまた、私と同じ考えだったようです。


 残念なことに駆け落ちは両者とも断念。

 私は追っ手の事情から、ラスティは私の幸せたのために。


「みんなから祝福されて婚姻したいんだろう。人生で一度っきりの大切な日だ。俺たちの記念になる日にしたい。それに後ろめたい思いをさせたくないんだ」


「あなた様……」


「……我慢させちゃってごめん」


「私はいっこうにかまいません。それよりもあなた様、妹を迎えに西部へ行くと耳にしたのですが、本当ですか?」


「うん、本当だ。末の妹さん――ルセリア殿下を迎えに行くんだ。……ああ、危険はないから安心して」


「知っています。姉上から聞きました。ですが安全でないのもたしか。西部は裏切り者の元帥がいると聞いています。くれぐれもご注意を」


「約束する。君のために必ず戻ってくる」


「私もお待ちしています」


 それから夫に既成事実をつくるよう迫りましたが、拒否されてしました。悲しいことです。

 いつのも私であれば、ここで引き下がっていたでしょう。ですが駆け落ちを覚悟して出てきた手前、退くわけにはいきません!


「あなた様に、抵抗があるのであれば仕方ありません。」


「いや、そうじゃなくて……そういうことは婚姻のあとにするのが正しい愛だと思う。夫婦初めての共同作業だろう。だからこそ、雰囲気づくりは大切かなって……」


 たしかに一理あります。

 初めてが、このような野ざらしの場所では恥ずかしくて誰にも自慢できません。

 ですが、一度燃えあがった情熱の炎はいきなり消せないのですッ!


「では一つだけお願いを。あなた様が無事に帰ってくるよう、おまじないをしたいのです」


「それだったらいいけど」


 言質げんちは取りました。


 それから躊躇ためらう夫に嘘をつき、胸を揉んでもらいました。七回です、七回! 偶然や、奇跡ではありません。


 これで既成事実の完成です。キスをして胸まで揉んだのですから、付き合ったばかりの恋人ではありません。

 異論は粛清しゅくせいします!


 あとは子供を授かれば……。いくら頭の硬い姉上でも認めざるを得ないでしょう。


 ラスティとの婚姻は着実に近づいています。

 あと少し、そうあと少し…………。


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