第131話 帝室令嬢との再会② 改訂2024/02/21



 窮地きゅうちに立たされた俺は、相棒に助けをうた。


【フェムト、どうすればいい?】


――無理ですね。エレナの発言に問題は見当たりません――


【システムの不備とかないのか?】


――残念ながら――


 …………。

 まさかブラッドノアの懲罰ちょうばつシステムにおびえる羽目になるとは……。帝室令嬢に仕えるのはいいけど、馬車馬のように働かされるのはごめんだ。なんていうか、自分のペースで仕事をしたい。


 こんなときに限ってAIが気を利かせてくる。

――承諾してもよろしいのでは? アレの条件さえ満たせれば破格の待遇だと思いますが――


【アレって?】


――ラスティが頭を悩ませているアレですよ、アレ――


【もしかして婚姻のことか?】


――まったく鈍い。そうです、ティーレとの婚姻です。この際です、ねじ込みましょう――


 なるほど、それなら見合う条件だ。


「あのう、エレナ事務官。一つお願いがあるのですが……」


「いいわよ。


「ティーレ王女殿下との婚姻を認めてくれませんか?」


 言い切ると同時に、カーラが凄まじい形相で、

「ならん! それだけは絶対に許さんッ!」


 こりゃ駄目っぽいな。ティーレとの結婚はいばらの道かぁ……。


 そんなことを考えていたら、エレナ事務官はけろっとした顔で、

「いいわよ。ツェリも賛同しているし、私的にもOKだわ」


「エレナッ!」


「カーラ、ようく考えてみて。出会って間もない女性を死罪覚悟で助けたのよ。あなたの言う悪い虫には思えないわ、そろそろ妹離れしなさい」


「認めない。オレは断じて認めない。王族としてティーレの婚姻にだけは反対だ。どうしても結婚したいと言うのであれば、王族の賛同者を二名、連れてこい。それが条件だッ!」


 物に当たり散らすことはなかったが、近衛の騎士を魔法で吹っ飛ばして、カーラは天幕を出ていった。ここまで来ると苦手を通り越して、顔を合わせたくない。


「俺、悪いことしましたか?」


「全然、カーラはああいう娘だから気にしないで」


 いや、気にするだろう。一応、未来の義姉になるんだし……。


 一悶着ひともんちゃくあったものの、ある程度は問題が解決した。もっとも重要な婚姻に関しては保留だが、ここは一歩前進としておこう。でないと俺の心が折れてしまう。


 喜ぶべきか、悩むべきか、微妙な気分になっていると、エレナ事務官が大切な話があると通信してきた。


 どうやらこの惑星の住民に聞かれたくない話があるらしい。


 ティーレたちに帝国法のことをしゃべっていたので、軍のことについて開けっぴろげだと思っていたが、ちがうようだ。まったく面倒臭い事務官様だ。


「これでスレイド大尉は私のね」


 仲間ねぇ。たしかに広義の意味では、同じ宇宙軍の仲間だ。この惑星の住人より馴染みがある。

 しかし、含みのある言い方だ。悪戯っぽい表情から、なんらかの意図が見え隠れする。

 仲間ではなく、奴隷の間違いではないだろうか?


「表向きの挨拶は終わったけど、として話したいことがあるから、あとで私の部屋に来なさい」


「エレナ、余のことを気にすることはない。同郷の者と話してくるがいい」


「心遣いありがたく存じます、陛下。ですが、陛下にも大切な話がありますので、そちらを優先させてください」


「う、うむ。エレナが言うのであれば仕方ない。ラスティ・スレイド、宰相の命あるまで下がっておるがよい」


「はっ」


 陛下のお許しが出たので天幕を出る。

 すると、そこには兵士に当たり散らすカーラがいた。

「貴様、たるんでるぞッ! 警護にあたるのであればもっと背筋を伸ばせッ! おい、そこ見世物じゃないぞ! 周囲への監視を怠るなッ!」

 苛立っている彼女と目が合う。

「…………ふんッ!」

 カーラは目を見開き、凄まじい速度で顔をそむけた。


 出会って数日でここまで嫌われるとは……。まあ、俺も嫌いだけどね。


 ぼけっと突っ立っていると、執事風の男が近づいてきた。なかなかのイケメンだ。ティーレの周りにこんな男たちがいると思うと、心配でならない。なんとなく、ほんのちょっぴりカーラの気持ちもわかる。

 だけど、あの女だけは嫌いだッ!


「ラスティ様ですが?」


「ええ、はい、ラスティ・スレイドです」


 男は優雅に一礼して、

「エレナ閣下の側仕えをしているロビン・スレイドと申します。閣下の天幕まで案内いたします」


 イケメンの側仕えに、ローランは目を輝かせている。マリンはというと、ずっと俺にぴったりだ。


 ついでなので、この惑星のイケメン情報をサンプリングしよう。


「マリンはああいう男性に興味はあるか?」


「まったく、微塵みじんも興味ありません」


「マリンの理想の男性ってこの野戦基地にいる?」


「一人だけいます」


「誰だ? こっそり指で差してくれ」


 するとマリンは、こっちを指さした。


「俺じゃなくて、歳の近い相手だとどんな男性が好みなんだ?」


「ラスティ様以外の殿方はおりません」


「…………俺の年齢知ってる?」


「年齢など些末さまつなものだと考えています」


「多分、マリンが考えているよりも上だぞ」


「年齢の上下に関係なく、ラスティ様をおしたいしております。天幕での話を聞き、その想いはますます強くなりました」


「…………」


 どうしよう、マリンの場合はサンプルなので帝国法にも連邦法にも抵触してないのに……。本当のことを言い出せない。


「ご安心を、ティーレ様が第一夫人だと理解しています。私の初めてを捧げるのはティーレ様のあとにしますので」


 そうじゃないんだよなぁ。


 嘘つきになりたくはないけど、マリンにだけは嘘をつきと通そう。そのほうが彼女を傷つけなくてすむ。

 いろんな意味でストレスを溜めたせいか、久々の胃痛に襲われた。


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