第125話 新しい職場
なんだかんだ言っても、俺は連合宇宙軍の士官らしい。
この惑星の騎士がどれほど強いのか、気になって仕方ない。
いまさらどうでもいいことなのだが、一度気になると頭から離れず、つい魔が差してしまった。
兵の訓練という名目でこっそり身体能力を計測したのだ。
フェムトが弾き出した結果は地球人のそれと似たような数値。
予想はしていたが安直な調査結果にげんなりした。
最近、歯ごたえのある調査結果を出していない。趣味で続けているが、惑星調査もそろそろ打ち止めか?
そんなことをぼんやり考えていると、兵士の一人が駈け寄ってきた。
「ハァハァ…………スレイド閣下……ハァ、走り込み……終了しましたッ! ハァフゥ」
人によって伯爵、
どうやら呼び方のルールがあるらしいが、どうでもいいことなので調査する気になれない。だから適当に流している。
これが帝国貴族なら
それに、あれこれ気にする男はモテないって聞くし……。ほどほどでいいんだよ。ほどほどで。
まだ肩で息をしている兵士に返す。
「わかった、小休止を
なまじっかセモベンテを倒してしまったせいで、稽古をつけてほしいという兵があとを絶たない。部隊を
でもまあ、兵士たちに
つかい慣れた木剣を手に、稽古場へ向かう。
俺の直属の部下は五〇〇。ほとんどが正規の騎士以外で構成されている。
初対面でやりすぎたせいで、古参連中は俺のことを煙たがっているようだ。
そんなわけで、預かることになった新兵たちを鍛えなければならない。
中間管理職は辛い、楽ができると思っていたのに残念だ。
木剣を振りながら歩く。
ずらりと並んだ兵士たちが稽古場で待っている。稽古待ちの兵士は一〇〇人を優に超えていた。まともに相手をしていては時間がいくらあっても足りない。
木剣で適当に、ここからここまで地面に線を引き、稽古する人員を選ぶ。
闘技場を模した円のなかに入るなり、兵士が大声をあげた。
「騎士見習いジェイク、参ります!」
正統派の剣と盾で武装した、若い兵が身構える。
「いいぞ、かかってこい」
「はいッ!」
がむしゃらに突っ込んでくるジェイクを最小の動きで
「動きが
「はい、ありがとうございました」
「よし、次だ」
新兵を負かして、短いアドバイスをする。それだけの仕事だ。
適度な運動で汗をかいて、ほどほどのデスクワーク。ぬるま湯につかっているような、だらけた日々を送っている。
稽古に参加するのは騎士見習いが多いが、たまに元傭兵やら、元冒険者やら、腕に覚えのある兵も挑戦してくる。
こうやって運動も兼ねた稽古をつけるのが日課になっている。
最後に、腕試しで戦ったゴブリンっぽい小男を倒して今日の稽古は終了。
「なかなかいい動きだったぞラッキー」
「褒めてくださるのは嬉しいんですがね、一〇〇人目でそれはないでしょう」
盗賊めいた凶悪な顔をしているものの、ゴブリンに似た小男――ラッキーは見込みのある男だ。得意の飛び道具とは別に、体格を生かしたナイフ術を教えている。飲み込みがはやく、将来有望だ。
「皮鎧を着込んだ相手ならまず負けないだろうが、全身鎧の騎士が相手だと手こずりそうだな」
「隊長の仰るとおりで。野盗や魔物の退治は得意なんですけどね。騎士様や正規の軍隊と戦った経験が無いんですよ。そういったガッチガチの奴らと渡り合える戦い方ってありますか?」
「鎧の
「なるほど、そこならナイフでも十分致命傷になる。さすがは隊長!」
元傭兵だと聞いていたのでもっと粗野な男だと思っていたが、ラッキーは真面目で素直に言うことを聞いてくれる。
ちなみに、腕試しで戦った五人は俺の部下になった。
大鎚のガンス、戦斧を振りまわしていたのは怪力に似合わず小心者のマウス。正統派の二人は、なんとロイさんところで働いていたシンとロンだった。
なんで商会で働いていた二人がここにいるかというと、冒険者は金になると聞いて商人見習いから
「商人のほうがよかったんじゃないのか?」
「ワシら、それも考えましてん。せやけど冒険者のほうが
「さいです。俺ら商人の才能あらへんのですわ」
変な
余談ではあるが、俺と戦った理由は魔法無しなら勝てると判断したかららしい。そういえばあの頃は魔術師を名乗っていたな……懐かしい思い出だ。
まあ、剣を交えた間柄なので打ち解けるのも早かった。彼らがブイブイ言ってくれるおかげで、兵士たちとの会話の切っ掛けも増え、俺としては楽なのだが……。
「スレイド隊長、そろそろ会議の時間です」
「わかったすぐ行く」
古参連中と顔を合わせる会議が苦手だ。
セモベンテは几帳面な男らしく、毎日のように会議を開く。ほとんどがどうでもいい騎士道の話なのだが、たまに訓練内容や兵士の練度についてあれこれ尋ねてくる。宇宙軍にもいた典型的な嫌な上司のそれだ。
箱の隅を突くような指摘が嫌で仕方ない。
しかし、会議を欠席するのは部隊の長としては許されないので、嫌々参加している。
知らせに来てくれた見習い騎士のジェイクを
「ラスティ・スレイド入る」
返事はなかったが、貴族の権限で天幕へ入る。
「これはスレイド閣下、こちらに」
ラスコーが上座へ座るよう手で示す。普通に接してくれるのはラスコーだけだ。セモベンテとアレクは露骨に俺を避けている。
遅れてセモベンテとアレクが天幕に入ってきた。
「これはこれはスレイド閣下。随分とおはやい到着ですな。兵の鍛錬に時間がかかるであろうと遅れてきたのですが、気遣いは無用だったようで」
「おいおい、新任の隊長がこんなにはやく来れるものなのか?」
二人の騎士はあからさまに敵意を剥き出してくる。ほんと、嫌な二人だ。
「まあ、それなりには」
「なるほど、たかが五〇〇の兵ではそれほど苦労されないと……であれば、マロッツェの森の探索にでも行っていただけませんか。我々は多忙なもので」
いちいち
感情で先走っては駄目だ。怒りを堪えて応える。
「わかった。聖王国の兵が潜んでいないか調査してくればいいんだな」
「話がはやくて助かる。あの森はまだ手つかずでしてな。敵と出くわすとは思えませんが、魔物にはお気をつけください。なぁに楽な任務ですよ」
どこが楽なんだよ。魔物とか危険ありまくりじゃないか!
まんまと嵌められた気はするものの、口うるさいセモベンテと距離を置けるなら引き受けよう。
「ほかに議題がないようであれば、ただちに向かうが?」
「左様ですな、取り立てて急用はありませんし、森へ向かわれるのであればそちらを優先してください」
セモベンテとアレクがニヤニヤ笑う。
退席の許可もいただいたことだし、ここは早々にマロッツェの森へ向かうとしよう。
「それじゃあ、調査に行ってくる」
ラスコーは何か言いたそうだったが、二人に威圧されているようで右手を浮かした状態で固まっていた。
なるほど、味方はラスコーだけか。今日の一件は査定に響くからな、二人とも覚悟しておけよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます