第57話 中間報告①●
そういえば、この惑星に降りてから、そろそろ五ヶ月だ。
これまで何度か母艦であるブラッドノアにアクセスを試みたが、すべて拒否に終わっている。
信号は確かに届いている。宇宙空間に母艦の存在も確認している。それなのに返信は無い。
考えたくはないが、ブラッドノアの連中はなんらかの理由で応答できないのだろう。培養液に浸かるような大怪我を負っていたとしても、もう全快しているはずだ。
コールドスリープについたか、最悪の場合は全滅ということも考えられる。
どちらであれ、俺が生きている間に応答してはくれないだろう。
仮に味方が救難信号をキャッチしてくれたとしても、やってくるまでどれほどの時間がかかるのやら……。
なんというか、諦めがついた。生きて
これからは、この惑星の住民として生きていこう。
◇
伐採作業を続けること二十日。俺たちは目的の場所に到達した。
街の中心となる領主の館の建設予定地も確保したし、次は整地作業だな。
ティーレが手伝ってくれたおかげで、予定よりも早く伐採作業は終わったものの、切り株の撤去が追いついていない。人手がほしいと思っていたら、ガンダラクシャから応援がきた。
ドローンの報告で、荷馬車の列が近づいていることが判明する。
腹黒元帥か? たしか建材を融通してくれると言っていたな。それにしては多いような……。
三〇分と経たぬうちに、荷馬車を率いたツェリがやってきた。
「領地開拓は順調のようだな。まさかこれほど速く森を切り開くとは思ってもいなかったぞ」
「ここは大呪界の森のなかですよ。一体どのようにして知ったんですか、ツェリ元帥」
「簡単なことだ。城壁から様子を見ていた。しかし、短時間でどうやって大量の木を切り倒したのだ?」
腹黒元帥が質問を投げかけてくる。それが目的か。
大呪界は広い。奥へ行くほど強い魔物が増えてくる。当然、開拓作業は難しくなり、費用もかさむ。
魔物の巣くう森を短期間で開拓できれば爆発的に領土が増えるだろう。金になる魔物も多く、自然の恵みも豊かだ。回収拠点を構えれば莫大な利益が生まれる。
俺がいとも簡単に開拓したので、その手法を知りたいのだろう。
「俺とティーレの魔法です」
「魔法。〈
隠していても、この事業に携わった連中がいずれ口を滑らせるだろう。遅かれはやかれバレることなので、正直に打ち明けることにした。
「〈
「下手な嘘をついて隠し立てせずともよい。〈水撃〉では木の樹皮を
その言葉に気を悪くしたのか、ティーレは眉間に皺を寄せた。伐採していない樹木に歩み寄る。
「ツェリ元帥。このようにして倒しました」
樹木に手の平をあてがい、無詠唱で〈水撃〉を撃ち放つ。超高圧の水の刃が次々と木々を切り倒した。その伐採距離三〇メートル。……俺よりも長い。
「「嘘!」」
ツェリと俺の言葉が重なった。
ツェリは純粋に、目の前で起こったすべてに驚いているんだろう。
俺の場合は別のことに驚いている。いつの間に無詠唱で魔法を発動できるようになったんだ! いや、威力も追い越されてないか! 男の――夫としてのプライドがズタズタだッ!
【フェムト! おまえ……】
俺がすべてを念じるよりも先に、
――愛のなせる技です。あと、魔法については帝国法・連邦法ともに規制はありませんので、あしからず――
フェムトのやつ、魔法を隠れ
「殿下、それはもはや〈水撃〉と呼べないのでは……」
「あら元帥、これは立派な〈水撃〉ですよ」
ティーレはにこやかに笑っているものの、言葉には鋭いトゲがある。気のせいか、内包しているエネルギーが外に漏れているような……。怒っているのか? 興味深い現象なのでフェムトに記録に残すよう命令した。
【やっぱりアレって怒っているのか?】
――愛情ですよ――
愛情? 俺には静かに怒っているようにしか見えない。
――いずれわかりまよ。いずれ――
AIにしては
それよりも片付けないといけない問題がある。
【ティーレの魔法のことだけど、おまえの見立てじゃ俺のほうが出力が高かったんじゃなかったのか?】
――愛情のなせる技です。それよりもラスティ、一つ知らせておかねばならないことがあります――
【なんだ?】
――ラスティの考案した魔法理論は危険です。あまり
【魔法理論って、直列化、並列化か?】
――そうです。あの力は人間の領域を超えています。瞬間的ではありますが、連合宇宙軍の個人兵装よりも高い破壊力を発揮しました――
【武器でたとえるならどれに該当する?】
――単純な出力ですと、携帯式のAD(小惑星破壊)砲に該当します――
AD砲は個人で扱える兵器のなかでは最強の威力を誇る。その威力はFF級戦艦の主砲並で、下手すりゃDD・CL級戦艦のシールドを撃ち抜ける。暴発でもした日には、ガンダラクシャなんて消し飛んでしまうだろう。
なんて魔法を開発してしまったんだ……。
【フェムト、ティーレの夢に出て、魔法に関する知識を流布しないように釘を刺しておけ】
――安心してください。実行済みです――
優秀な相棒の言葉を聞いて、ほっとした。
ちょうどツェリの追求も終わったし、今度はこちらから質問してみよう。
「そういえばツェリさん、後続の一団はなんですか?」
「ああ、あれか。あれは約束した物資と人手だ。それ以外にも移住者が来ているらしい」
移住者? まだ領地開拓が終わっていないのに変だな。誰か告知でもしたのか? まあいいか、人手は多いほどありがたい。
木材も食料もあるし、問題無さそうだ。防壁造りも
「人手の約束はしていませんでしたけど」
「いいじゃないか、新しい領地に早速、人が来るなんて。普通は近隣の領主に贈り物をして募集をかけてもらうものだがな。運のいい男だ」
おいおい、俺から贈り物をせびろうとしていたのかよ。つくづく腹黒い元帥様だな。まあいい、本題はこのあとだ。
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