第38話 冒険者になる①●



 ソロバンの特許契約を結んだ後はギルド登録だ。

 予定では魔術師ギルド、冒険者ギルドの順にまわることになっている。


 まずは魔術師ギルドだ。

 魔術師ギルドの登録試験も簡単だった。旅をしているときに、ティーレからいろいろ教わったことが役に立った。試験結果はBランク。本当はCだったが、簡単な的当ての実技試験後、ギルマスから一騎打ちを所望された。穏便に仕掛けてくる魔法をすべて相殺したら、なぜかBランクになった。

 魔法を相殺して無効化しただけでBランクなんて、おかしい。理由を聞いたら、ギルマスがつかった魔法は古代の攻撃魔法だという。破壊力は凄まじく、殲滅魔法とも呼ばれる危険極まりない魔法らしい。それを登録にやって来た新人にぶっ放すなんてどうかしてる。

 どうりでギルド証が発行されるまで時間がかかったはずだ。


 この日は予定が大幅に狂い、冒険者ギルドへの登録は一日延びた。

 そういうことがあったので冒険者ギルドへはそれなりに準備をした。もちろん目立たないようにだ。


 翌日、馬車に揺られて冒険者ギルドへ向かう。ジョドーさんと雑談している間に到着。


「ラスティ様、冒険者ギルドに登録された後はいかがなされますか?」


「そうですね。森へ行って素材を採取したいと思います」


「そんなことをせずとも、ギルドに依頼を出せば手に入りますよ」


「そうなんですか。でも、自分の目でいろいろ見てきたいので……そのために冒険者になるのですから」


「左様でございますか」


 紙の材料のことを口にすると、いろいろ面倒なことになりそうなので、その辺は触れないようにぼかした。

 そして冒険者ギルドの試験を受ける。


 嬉しかったのは、いままでのように筆記試験がなかったことだ。実技オンリーなのでカンニングを疑われなくてすむ。


「それでは試験内容を説明します。冒険者ギルドの登録試験には模擬戦と魔法試験があります。両方受験することもできますが、模擬戦は戦闘職、魔法試験は魔法職がセオリーです。ラスティさんは魔術師と伺っていますので魔法試験だけでもよろしいですが、どうしますか」


「両方受けます」


「両方!」


 変なことを言ったかな。そういえば防具の類を持っていない。だから魔法試験だけって言ったのか……。


 だけど、この惑星の魔術師ってひ弱なイメージが定着しているし、厳しい訓練に耐えてきた連合宇宙軍の俺としては納得できない。それにこの惑星で、宇宙軍の戦闘技術が通用するかも知っておきたい。なので両方受けることにした。軍部としても知りたいことだろう。きっといい調査結果になるはず。


 いざ模擬戦かと思いきや、武具一式を貸してくれた。

 どうやら冒険者ギルドの試験はこういう方式らしい。聞けば、模擬試験では武具での戦力底上げを禁じているそうだ。


 なんでも、かつて魔剣やら聖剣やらでのし上がった冒険者がいて、ある日突然、角ウサギに殺されたとか。不名誉なこと極まりない死に様だ。ギルドの名誉のためか、人命第一なのか、それ以来このような武具貸し出し方式の試験に変ったのだという。


 連合宇宙軍でも似たような話を聞いたことがある。要するに、つまらない事故で評判を落としたくないのだろう。


 あれこれ考えるのも面倒なので、サクッと終わらせることにした。


「ほう、魔術師が模擬戦を挑んでくるか。説明されたと思うが魔法は禁止だぞ。使用できるのは鍛えあげた肉体と貸し出された武具のみ!」


「はい」


「怯えることはない。手加減してやる」

 フルフェイスの兜を被った試験官は余裕だ。


 見れば素肌が見えないほどガッチガチに防具を着込んでいる。鎧の隙間もしらべたが、鎖帷子くさりかたびらを着込んでいる。


 対する俺は、露出の多い皮鎧だけ。装備は公平じゃなかったのかよ……。

 がっかり感があったのでこっちもズルすることにした。


 鬼教官のアクションデータを使用してもよかったが、あれは強すぎるので別の戦闘データを探す。

 そうだ。グッドマンからもらった外部野にアクション映画のデータがあったな。この惑星に降り立って骨がバッキバキだったとき、暇つぶしに映画鑑賞したっけ。


 コピーしたグッドマンの個人データを参照する。

 アクション映画から実戦でもつかえそうな剣技を検索。


 チョイスしたのは正統派アクションと銘打った映画の動きだ。どの辺が正統派なのかわからないが、重そうな大剣を振りまわす様は力強く、頼もしい。以前、ティーレに披露した技だ。見たこともない技だったのか、彼女は驚いていた。結果は高評価。多分、この戦い方で通じるだろう。

 今回は別の技も組み込もう。映画には力押しの大振りな技だけでなく、様々な小技もあった。こっちも試してみよう。


 今回は参照だけではなく、動作を脳へインストールした。これで完璧に再現できる。

 軽く剣を振る。

 おっ、思っていたよりも軽いぞ! なるほど、全身のバネをフル活用して手首もつかうのか。勝てそうな気がしてきた。


 心に余裕が出るとあれこれ考えてしまうもので、追加でフェムトに命令を出した。


「対人用のサンプルがほしい。相手の動きを保存しておいてくれ」


――了解――


 肩慣らしを終えると、俺は模擬戦用のコートに足を踏み入れた。


「さあ、どこからでもかかってこい!」


 そう言いながら試験官は剣を上段に構える。隙だらけだ、こちらの攻撃を誘っているのか?


「どうした打ってこい!」


 剣は上段に構えたままだ。どうやらカウンターが得意らしい。ならば一気にたたみかけるまで!


「いくぞっ」


 勝負は一瞬だった。


 俺の圧勝だ。


 ナノマシンで脚力を強化して、速攻の一撃を胴にお見舞いした。てっきりカウンターが飛んでくるものだとばかり思っていたのだが、試験官は呆気なく吹き飛んだ。


「見たかあれ」


「速いってもんじゃないよな」


「打ち込む力も相当なもんだぜ。防具でガチガチに固めた試験官を一撃でぶっ飛ばしたぞ。本当に魔術師か?」


 観戦していたギルド職員が口々に漏らしている。

 またしても、やりすぎたらしい。


 休憩を挟んだあとは魔法試験。


 今度は説明係の人が、的に〈火球〉の魔法をぶつけて実演してくれた。

「こんな感じでまとに魔法を当ててください。魔力が測定されます。的は特注の魔道具なのでこわれることはありません。正確な魔力を測定するため全力でお願いします」


 壊れないとわかって、ほっとした。これならば問題ないだろう。しかし、いままでのことを考えると……。


【フェムト、ティーレと同等の威力に調整できないか?】


――可能です――


 優秀なAIに感謝した。ティーレと同等の魔力ならば問題はないだろう。


 説明係の人と同じ〈火球〉を的に飛ばす。直撃とともに炎が広がった。こうして見るとティーレの魔法もなかなかの威力だ。


 なんとか的を破壊せずにすんだ。


 試験は無事終了。

 結果はDランク。Bランクでなかったことに、ほっとした。


「おめでとうございます、ラスティさん。数年ぶりのDランクです。今後のご活動に期待しています」


「数年ぶり?」


「登録者にはランク制限をしていまして、いきなりC以上にはなれないんですよ。試験説明でもあったように、人命第一のランク付けとなっていますので、いくら能力があっても経験を積まないと昇格できない仕組みになっています」


 えっ、人命第一って本当だったの。俺の知らなかった裏事情がガンガン出てくる。

 ってことは深読みしすぎたのか! 知らぬ間に俺の心は汚れていたらしい。ギルド職員の善意に満ちた瞳が眩しすぎて、しばらくの間、目を合わせることができなかった。

 俺って、いつの間に心の汚い人間になったんだろう……。


 ネガティブ感情を振り払い、まずは森での依頼を探す。

 Dランクだと素材のナナサク草の採取とゴブリン討伐というのが受けられるらしい。

 採取や討伐する数ノルマは書かれていないし、期限もないようだ。

 両方受けてみよう。


 受付嬢に声をかける。


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