第13話 コラボ探索・特訓編

 柚子缶と妖精譚フェアリーテイルのコラボ探索第2回は赤穂ダンジョンの攻略だった。


 前回の毒ガスダンジョンとは打って変わって単純に戦闘力を要求されるダンジョンである。柚子缶の代名詞である『一点集中身体強化広域化』は妖精譚の面々には使えなかったので、今回はハルヒの『上級剣術』やナツキの『二刀流』などを全員に広域化してモンスターを討伐する。


 今は二層、ユズキが『上級剣術』で戦っていた。


「ユズキ、10時の方向!」


「はい!」


 カンナの合図で敵を見つけて剣撃を飛ばすユズキ。普段の身体強化と勝手は違うものの、先日の訓練である程度実用的な範囲で『上級剣術』は使いこなせるようになっていた。飛ばした武装したゴブリンを一刀両断する。


「次、1時!」


「うりゃっ!」


 息を吐く間も無く次のゴブリンが襲ってくる。カンナの的確な合図で次々に敵を見つけては飛ぶ斬撃で斬っていくユズキ。


 ゴブリンは渋谷ダンジョンの一層にいるような雑魚個体ではなく、「武装ゴブリン」と呼ばれる身長170センチ前後でさらに武器を持ち簡単な鎧も着ているためもはや渋谷のものとは別物であったが、『上級剣術』であれば苦も無く倒すことが出来た。


 次々と襲いかかってくるゴブリンを倒し続けることおよそ10分。ようやくゴブリンの増援は止んだ。


「……この層は終わりかな?」


「伏兵は居るかもしれないけど、とりあえず一息つけるわね」


 数秒に1体のペースで10分もゴブリンを斬り続けたユズキ。倒したゴブリンは200に届こうかという数であった。赤穂ダンジョンは武装したゴブリンの集団がひたすらに襲ってくるというダンジョンで、その数はおおよそ層の100倍と言われている。ここ、二層では200体のゴブリンが襲ってきたというわけだ。


「どうでした?」


 ユズキが妖精譚お姉さん方に問いかける。


「私のスキルを私より上手に使えてる子がここにいる」


 ハルヒが笑って答えた。


「さすがにそこ迄では」


「ふふふ、冗談はさておき。とりあえず柚子缶としての評価としてはやっぱり息ぴったりだね!」


「それ私も思った。カンナちゃんの声かけとほぼ同時にユズキちゃんが剣を振ってるぐらいの感じだもんね」


「えへへ……」


「私は魔力の使い方が上手いと思う。姉さんが『上級剣術』を使ってる時って魔力の出力が一定だけど、ユズキちゃんは攻撃する時とそうじゃ無い時で強弱のメリハリがあるね。それって意識してやってる?」


「意識して……かな? 剣を振る時にはえいって魔力を乗せるって感じですけど」


「やっぱりそうなんだ。私の言った通りじゃ無い。ほらそこの脳筋、聞いてるか?」


「うるさいな! そんな細かい制御が出来るなんて考えたことすらなかったんだよ! アキだって魔力の出力が『鑑定』で見えるなら教えてくれればよかったじゃん!」


「前から燃費悪く無いかって言ってたじゃない。『短剣術』しか持たない人には分からないだろうけどって聞く耳持たなかったのは姉さんでしょ?」


 ガルルルルと睨み合うハルヒとアキ。


「とりあえず魔石を回収しよう。一個1000円くらいだけど200個集めればバカにならない額だし。……三層は300匹のゴブリンが出てくるけど私とマフユで行けるかな? しんどくなったらカンナちゃんと交代で」


 そういってさっさと魔石を集め始めるナツキ。


「あっちはほっといていいんですか?」


 カンナは、まだガルガルしているハルヒとアキを指した。


「いいのいいの、いつものことだもん。あと妖精譚ウチの方針としてみんなでやるべき仕事をサボった人は打ち上げの飲み代が自腹になる事になってるからね。文句言いながらも魔石は集めるわよ」


 1時間ほどかけて200体のゴブリンの死体から魔石を回収した。


「一層でも思ったんだけどカンナちゃん、魔石回収の手際良いわね!」


「ゴブリンの魔石回収は慣れてるんですよ」


 ゴブリンの魔石と言えばカンナがソロで探索していた頃に毎日ヒィヒィ言いながら集めていたものである。武装ゴブリンは渋谷の雑魚ゴブリンより余程強いけれど、ゴブリンはゴブリン。痩せた胸に解体用のナイフを突き刺して胸を開き心臓に貼り付いている魔石を剥がす。魚を3枚に卸すような感覚で手際良く回収していった。


 三層では宣言通りナツキとマフユがゴブリンの群れに挑む。2人は短剣を構えカンナが『広域化』した『短剣術』で戦う。ナツキは自身の『二刀流』と合わせて短剣二刀流、マフユは『氷魔法』で氷の短剣を作り出してそれを武器にしている。しばらくは順調に武装ゴブリンを屠っていたが、およそ200体を倒した時点でマフユがギブアップした。


「ごめん、魔力が切れかかってる。カンナちゃん、代わってもらっていい?」


「はい! 大丈夫です!」


 後退したマフユと入れ違いに前に出るカンナ。借りた短剣で武装ゴブリンを斬り伏せていく。いつものユズキとの探索では広域化身体強化の超強化でゴリ押ししているが、短剣術を広域化した事でナイフをどう振るうのが最適か感覚的に理解できる。スキルの効果に舌を巻きつつもナツキと共に残りのゴブリンを倒す事に成功した。


「これで300体か。次の層に進むと400体出てくるんですよね? このダンジョンって五層までだから最後は500体ですか?」


 300個の魔石を回収しながらカンナが尋ねると、アキが説明を買って出てくれる。

 

「カノンちゃん、それはちょっと違ってて、「五層までしか攻略されたことが無い」のがこの赤穂ダンジョン。五層までで合計1500体のゴブリンを倒して、六層に進んだパーティもいるけれど次こそボスかと思ったら相変わらずゴブリンが襲って来たからそこで撤退したっていうのが最高記録ね」


「六層以降は攻略されてないんですね」


「仮に六層で終わりなら合計2100体、もしも十層まであるようなら5500体のゴブリンを倒さないといけないって計算になるんだけど、なんと五層からゴブリンがスキルを使うようになるらしいのよね」


「モンスターもスキルを使うんですか!?」


「ええ。というかモンスターの特殊攻撃は全てスキルだと思うわ。例えば前回の殺生石ダンジョンのボス、毒の霧を吐いてきたじゃない? あれも『毒霧』ってスキルなのよ。私の『鑑定』でみると分かるの」


「モンスターのスキルまでわかっちゃうんですね。アキさんすごいです」


「分かるのは発動中のスキルだけで、切り札を隠されてると分からないからそこは注意が必要だけどね。それでここのゴブリンの話だけど、どうも武器スキル持ちと魔法スキル持ちがいるらしいわ」


 武器スキルとは、剣術や短剣術や格闘術といった特定の武器の扱いが上手くなるスキルであり、魔法スキルはその名の通り炎魔法や氷魔法などが使えるようになるスキルである。


「相手がゴブリンとは言え、武装していて各々得意な武器を持った個体が500体、敵によっては魔法まで使ってくるとかかなり厄介じゃないですか?」


「だからこそ、初めて五層を突破したパーティは最下層に違いないと思ったんでしょね。やっとの思いで五層を突破したともののまだボスとは戦えずに六層があって、これまで通りゴブリンが出てきたから撤退せざるを得なかったというわけよ」


「なるほど……」


 そんな話をしているうちに300個の魔石を回収し終わる。


「じゃあ予定していた通り、今日はこれで帰るよ。のんびりしてると一層のゴブリンが復活しちゃうから急ぐよー」


 ハルヒが声をあげて撤退を告げる。金額的には一個1000円程度の魔石が合計600個程。およそ60万円の売却額となる。2パーティで折半することを考えると儲けとしては少々物足りない……しかし、探索した今回の目的である「他人が自分のスキルを使うところを見て気付きを得る」については三層まで達成できたという判断だ。

 

「そもそも今日はがっつり稼ぐつもりでは来てはいないからね。前回の殺生石ダンジョンでは魔石とボスの毒牙が高く売れてるし、そっちで稼がせてもらった分、今日は特訓が主目的という感じで」


「ウチとしては色々経験させて頂いて有難いんですけど、なんか申し訳ないです」


 あっけらかんとしているハルヒに、ユズキが頭を下げる。


「ユズキさん、気にする事ないっスよ。妖精譚ウチの動画見てもらえたなら分かると思いますけど、普段からガチの探索ってあんまりしないんですよ。最低限の稼ぎがあればあとは面白い事しようってスタンスですもん」


「それはイヨの作るプランが原因だと思うんだけど。私達としてはガンガンに稼げる計画を練ってもらっても構わないんだけど?」


「でも黙々と稼ぎに行く動画って面白く無いし再生数伸びない上にファンも離れるし。

 柚子缶だって色んな敵を倒して行くしていくスタイルじゃ無いですか。ウチに似てるって思ってたんですよ」


「それ前にも言ってたわよね」


「人が多い分ウチの方がバリエーションが多いってだけで動画作りに対する考え方は近いスタンスだと思うんだけど……どうですかね?」


「どうと言われても。ただ、なるべく飽きないで貰えるようにしようとは心がけてますが」


 ユズキの答えにイヨは満足気に頷く。


「ですよね。似たようなモンスターを避けたり、ユズキさんとカンナさんが交互に活躍するようにしていたり、場所も北から西まで色々と……すごく気を遣っているんだなって同じ動画制作者として分かります」


「あ、ありがとうございます」


「うん。だからこそユズキさんは気付いてるはずです。


「……っ!」


 ハッと息を飲むユズキ。


「まあそういう相談に乗るのもお姉さんのお仕事だと思ってます。良い機会だしあとで反省会のついでに話しましょう」


 イヨは任せなさい!とやや自己主張に乏しい胸を叩いた。


「はい……、お願いします!」


 ユズキは頼もしい先輩に深く頭を下げた。

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