タイツ研究同好会へようこそ!先生!
まり雪
第1話 先生、お疲れですか?
とある日の放課後、とある高校の廊下にて。
「先生、今日もおつかれさまです」
見慣れた女子生徒が声をかけてきた。
「毎日遅くまで残られていて、お身体は大丈夫ですか? 最近なんだか顔色も悪いように見えます」
大和なでしこを体現したような才色兼備。加えて現生徒会長であり、名門黒田家の跡取り娘。
「わたくしですか? わたくしはいつも通り生徒会の仕事で。はい、もうすぐ部活の予算会議ですから。毎年この時期は大変ですよね。受験勉強もありますし。まあ恒例行事みたいなものなので慣れてはいますが。部員数や実績なども鑑みて予算の割り振りを考えたり、色々と骨が折れる……、すみません、お疲れの先生の前でする話ではありませんでしたね。ごめんなさい」
「そ、そんな。先生こそ、わたくしたちの為に毎日頑張って下さっているのですから」
「え、ああ。もうこんな時間。先生とお話してると時間があっという間です」
「先生はまだお仕事が? そう……ですか」
「あまり、ご無理はなさらないでくださいね」
「はい……。あ、あの! 先生!」
何かを言いかけて。
「い、いいえ。すみません、何でもありませんわ。それでは、また明日」
結局それを言えず飲み込んだ様子の伊都。そのまま礼儀正しく一礼し、生徒会室へと戻ろうとするが。
「……ごめんなさい、先生! やはりひとつご相談……いえ、お願いがあります!」
意を決した様子の伊都が、聞いたこともないような大きさの声でこう言った。
「わたくしが作った同好会の、顧問になってくださいませんか!」
「は、はい! 同好会です! あのですね、前々からお誘いしようとしてはいたのですけれども先生がお忙しいのは重々承知の上でありましてええそのでも私としてはどうしても先生がいいといいますかでもそれもただの私の願望ですし先生のお気持ちもしっかりと鑑みた上でご提案をしようと思っていましたらあれよあれよという間に2年が過ぎ去ろうと……」
自分から言い出したにも関わらず、何故かもじもじと永遠独り言をつぶやいている伊都。
「……へ?」
「ほ、本当ですか! よろしいんですの!?」
顔を赤らめて俯いていた伊都が一転、ぱぁっと花が咲いたかのような笑顔を向ける。
「え、活動内容……ですか。えっと、そうですよね……」
かと思えば急に歯切れが悪くなる伊都。
「活動内容、活動内容……」
「すみません。ここではその、ちょっと……」
伏し目がちにあたりを見回す伊都。外は夕暮れ。部活を終えた生徒たちが校内に戻ってくる声もちらほら聞こえる。
「は、はい! そうですね。場所を変えていただけると助かります」
「今の時間でしたらちょうど生徒会室が空いています。申し訳ないのですが、そちらまでご足労いただいてもよろしいでしょうか」
「ありがとうございます。それでは参りましょう」
歩き方はいつも通り凛然と。
「大丈夫、大丈夫よ黒田伊都……」
だが 魂の抜けたような表情でぶつぶつ独り言を唱える伊都の背中を見守りながら、生徒会室へ足を向けた。
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