第31話 怪しい3人組

「ちょっと~、真美マミ奈々ナナ、やっぱりやめようよ~。ブーちゃんに悪いよ。こんなことがバレたら、ブーちゃんに嫌われちゃうよ!」


 同級生の2人に向かって、同じ言葉を私は、もう何度言っただろう?


 それぐらい繰り返している。


「志保がうじうじしているからだ!あー!うちの若い者を何人か連れてくればよかった!」


「あの人たち効くよね~。沙耶サヤの元カレ、一発だったもんね」


「ちょ、ちょっとあんた達...何をしているの?」


「えへへへへ♡」


「大したことじゃない。嘘をつく男が悪い。見かけ倒しで、口先だけの男なんて大っ嫌いだ。志保、感謝するんだ!現場を押さえたら、うちの道場で腐りきった考え方を....みっちりと鍛え直す!」


 そう言った後、奈々は舌打ちをした。


「それに、佐々木教授とつるんでいる時点で怪しい!たまに、校舎裏に黒いスーツを着た人たちを何人か見かけるけど、佐々木教授の手の者だろう?あの男とつるんでいる事態、悪だ!あの子豚!」


 この大学で、奈々と知り合った。ボーイッシュで身長が177,8cmある背の高い女性。化粧っ気は丸っきり無いないが、きめ細かい肌でショートカット。アメカジを好み、スカート姿など見たことがない。


 だから、少し離れた場所から見ると恰好いい男性に見えてしまう。


 私よりも背の高い女性って、あまり出会ったことがなかったから新鮮で、私の方から話しかけた。


 街を歩くと、女子高校生からキャーキャー言われる。それぐらい格好いい。だが、極度の男性嫌い。いや、曲がったことや嘘つき、いじめなどを嫌う凄く真直ぐな人だ。本当に格好いいが、融通が利かないのが玉に瑕だ。


 感情に波があり、好き嫌いもはっきりとしている。ナースに向いているかというと??である...。


 そして、奈々の祖父が全国に構える「雷神館」で、日々鍛錬を積んでいる。たまに迎えに来る「雷神館」の関係者らしき人たちは、白いスーツを全員が着ている。


「武士たる者、「清白」で「剛毅ゴウキ」であれ」それが「雷神館」の指南であり、奈々は実直にこの教えを貫いて生きている。


 本人は気が付いていない様だが、佐々木教授の周りにいる人たちと、そう変わりないように見えるが...。


 周りからは「葬式コンビ」と、ひそかに呼ばれている...。


 それにしても、あ~面倒くさいことになってしまった。


 ブーちゃんが、街で女性を泣かしていたと、真美と沙耶が私に教えてくれた時、近くにいた奈々がそれを聞いてしまった。それが事の発端だった。


 奈々はニコニコ商店街で見た光景を2人から聞いて、「私もついて行く!」と、私と真美の後を勝手に追ってきた。


 沙耶はバイトで、今日は来れないみたいだ。


 も~真美は絶対、奈々に聞こえるように、ブーちゃんのことを私に話したに違いない!


 真美は奈々や沙耶と仲が良く、世渡り上手。何にでも首をつっこむ性分でトラブルメーカー。そして、トラブル好き...。


 そんな奈々と真美、それに私の3人で、佐々木教授の教授室付近で、ブーちゃんが出てくるのを待っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 何で待っているかっていうと、関東国際医療大学の情報通である真美が、新たな情報を仕入れてきて、私に報告してきた。


 昨日から、ブーちゃんの行動がまた一層おかしくなったみたいだ。昨日っていうと、私と朝あった後のことだろう。何でも講義を一番前の席で受け、講義後は率先して、講師や教授に質問をしに行く様だ。


 今までしたことが無かった様なのに...。


 さらに、昼休みはいつもなら、食堂の食券機そばの椅子に坐っていたブーちゃんが消えた。すごく美味しそうに食べて、礼儀正しく社交性もあるから、食堂のおばちゃん達からは大人気であった。


 でも、昨日から講堂で、おにぎりを食べながら勉強をしていたらしい。


 今日にいたっては、大きなお弁当箱2つ持ってきた様だ。


 だから、食堂にいなかったのね。何度も会いに行ったのに...。


 それも、真美のがこっそりと弁当を覗いても、気が付かないぐらい、勉強に集中していたようだ。


「志保...お弁当ね、間違いなく女性が作った感があるって。見栄えのセンスが女性的で、ご飯を作れない男性が逆立ちしても無理なモノだったらしいよ。ブーちゃんの好みを知り尽くしている感じのある、ボリュームも愛情もたっぷりの、お弁当だったみたいよ」


「な、ま、まだ分からないもん!ブーちゃんのお母さんが遊びに来て作ったかもしれないし!」


「そうだけど...」と、残念な子を見るような目で、真美が私を見てきた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 時折話ながら、佐々木教授の教授室付近の廊下で待っていると、女性と男性2名が教授室から出てきた。


「あ~海斗さん、み~け♡」


「み~け♡、じゃないわよ。ちっ!」


 ちょっと奈々、顔、顔!おっかないって。それに、舌打ちしちゃダメ!


 も~、お願だから大人しくブーちゃんが出て来るのを待っていようよ。


 あと、鋭い目つきで真美と海斗さんを睨みつけないの!


 何でこんな真逆な行動を取る2人が、仲良くつるんでいるんだろう?


 私がブーちゃんを追っかけまわしているのも、2023年度の大学の7不思議の1つらしいが、この2人が仲のいいことも入っている様だ。だって真逆だもん。


「海斗さん♡どうされたんですか?」


 首を横にして、甘えん坊キャラを演出している。いいな...身長も155cmぐらい。大きすぎないからやる仕草も可愛い。こんな子にかかれば男何て...。


「ああ、真美ちゃんじゃないか!何⁉一緒に遊んでくれるの?合コンの誘い⁉後ろの2人が一緒なら、どんな男でも喜んで来るヨ!」


 奈々が即座に「違います」と鋭く冷たい声で、海斗に投げつけた。


「ははっ...。相変わらず奈々ちゃんは手厳しいな。まあそれが、奈々ちゃんのいいところなのかもね。それより、どうしたんだい⁉おどろおどろしい教授室の前に、看護科の美女3人がいるなんて⁉」


 自分がしたっている教授の悪口を、堂々と言っちゃう⁉



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今通りかかったら、アシスタントの山本さんや海斗さん達が揃って出て来たんで、挨拶しに来たんです。私たちはこれから尾行いや、ショッピングです~。それよりも揃って出て来るなんて何かあったんですか?」


 そう首をかしげて研究員の海斗さんの目を真直ぐに見つめる。自分の可愛さをしっかりと把握している。あ、あざとい、真美...。


「今、教授のお気に入りが来ているんだよ。それでね、内密な話をしている様なんだ。たまに僕らに聞かれるとまずい話もしているようで...まあ、大学教授でありながら、謎多き人だからね。まあ、なんて言ってもあの人は...」


「海斗君.お喋りし過ぎですよ。そんなお喋りな子はを受けることになりますよ...」


 そう、どこからともなく現れた山本さんが、ほほ笑みながら静かにササヤいた。


「ご、ごめんね。真美ちゃんたち。お~い!真」と言って、この場から逃げるように消えてしまった。


 シーンとした廊下で私達3人と、笑顔の山本さんだけがいる。い、いづらい。


「ご、ごめんなさい。すぐ帰りまーす」と言いかけたその時、「わ、わ、もうこんな時間だ!」と佐々木教授の部屋の扉が開いた!


 ブーちゃんが出てきた!


「や、山本さんさ、さようなら~」


 私たちの後ろ姿を、見えなくなるまで見送っている山本さんが、怖かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ちょっとブーちゃん素早い。ちょこまかと。何あの動き...私たちが付いて行くのがやっとこだよ。


「うむ。あの動き中々悪くない。しっかりと母指球に力を入れて走っているな。悪くないぞ!」


 お、奈々が少し笑顔だ。珍しい。


 マンションらしき場所の一室に走って入りこんで行った。ここに住んでいるのかな?


 ふふふふふ。覚えたからねブーちゃん...。


 出迎える人はいないようだ。少しホッとした。凄い綺麗な女性が出迎えたらどうしようかと思った。


 と思ったのもつかの間で....5分後、凄く綺麗な女性と一緒に玄関から出てきた。


 あの人が、ブーちゃんの大切な人なの...?ブーちゃん...。


 それも私よりも、うんん...奈々よりも背が高い。


 あ、あれが、真美と沙耶が見たという外人さん?確かに綺麗。びっくりだよ。私よりも背が高く、お胸もすごく大きい。顔も、あんなに綺麗な女性初めて見た...。


 それに...ブーちゃんといて、すごく嬉しそう。ブーちゃんといて、すごく楽しそう...。


 自然と涙が溢れ出てきた。かなわないよ。あんな幸せそうな2人の間に割って入るなんて。


 涙が止まらない...。


 場がシーンとした。


「志保...残念だな...飯なら付き合うぞ...」


 奈々ったら、本当に男らしい。男性なら惚れちゃうよ。


 そんな私たちをほったらかしにし、一人わなわなと震えている真美がやっと、重い口を開いた。


「ち、違うよ!志保、あの人じゃない!私たちが知っている人じゃない。本当だって!あんなショートボブじゃなかったし、もう少し背が小さかった。本当だよ。まさかブーちゃんが二股...。それもあんな綺麗な人達を...」


 私が泣きじゃくっていると、真美がすごく焦った表情で私に言ってきた。


 えっ...?ど、どう言う事?


 いつもの真美ではない。本当に驚いている、素の表情であった。私も真美も、どうしていいか分からずに困惑している横で、「実に不愉快だ...」と、静かに呟くような声が聞こえた。


 奈々が怒っている。全身から殺気が漏れ出ている!


「「ひい!」」


 私と真美は余りの恐ろしさで、抱き合って震えてしまった。


「ついにあの子豚...男の本性を現したか...「雷神館」の指南とは真逆な行為を行うとは...。我が手で成敗してくれる!」


「「ひい!」」


 もう!どうなっているのよ、ブーちゃん!このままじゃブーちゃん、奈々にやっつけられちゃうよ!


 もう何が何だか分からないよ~。

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