第4話 連合軍到着

帝国暦226年4月3日 エラノス平原北西部


 この日、エラノス平原の北部・西部には多くの将兵が集い、陣地を築き上げていた。


「此度の戦、諸侯の皆様が中心となって、新たなる侵略者に対峙して頂く形となります」


 連合軍の司令部が置かれた天幕にて、ラティニア帝国軍からの使者がそう述べ、イルビア王国国王のガラン侯爵は鼻を鳴らす。


「ふん、これまで世界最強を誇っていた帝国がこの様か。真に情けないわい」


「まぁまぁ、ガラン殿。帝国はこうして我らに頭を下げてでも援軍を要請しているのです。その高潔さを高く評しましょう」


 隣に座るリグニア公国国王のルスラ5世はそう言い、ガランはため息をつく。


 此度のラティニア帝国皇帝ユリウス3世からの求めに応じ、声を上げたのは17カ国。平均して3万程度の軍勢がこの地に集い、総数50万人の将兵とそれと同数の怪異兵、300騎もの飛竜がある。洋上にも1000隻の軍船と10万の将兵がおり、完全なる包囲陣が敷かれていた。


 無論、その様子は相手も知るところだろう。だが、過去最大規模の兵力ならば敵の蹂躙など容易い筈だ。負けるビジョンなど全く無かった。


「とはいえ、20万の軍勢を容易く退けた敵だ。油断する事無く攻め落とそう。ワシは此度の戦で得られるという戦功には興味は無いが、勝利の栄誉は我が国の威信を高める事となるからな。土地は譲る代わりにワシらの戦闘の支援を頼みたい、リグニア公」


「お任せ下さい、『イルビアの獅子王』よ」


 そうして連合軍の諸侯達が騒ぐ中、エラノス平原基地司令部では、総司令を兼ねる藤田陸将が会議を開いていた。


「現在、我が部隊は完全に包囲された状況にある、北と西にはそれぞれ20万程の兵力が屯し、南にも10万程度が布陣。そして東の海には1000隻もの軍船が舳先を並べている」


 藤田の説明を聞き、第12旅団長の有田ありた陸将が怪訝な表情を表す。


「計50万以上の兵力ですか…20万を撃退したと思えば、この数とは…」


「偵察の結果、その全てが帝国軍ではなく、複数の国・地域より集められたものである事が判明している。現在第17師団と第18師団が部隊展開を進めているが、今動かせるのは先発隊のみだな…」


 藤田の言う通り、今エラノス平原に到着しているのは、50両程度の戦車と140両程度のCV90歩兵戦闘車で構成された第171戦闘団に、第18師団隷下の第181特科連隊のみ。火力は十分だろうが、相手の規模が規模である。下手に使い潰す様な真似だけは避けたい。


「ともかく、翌日から攻勢に出てくる筈だ。飛行場はすでに完成し、防空陣地も整備を完了させている。決して相手を見下さず、火力を以て相対するのだ」


「了解。しかし、この21世紀になって、単純な戦力や火力が必要な事態になろうとは…しかもミサイルの使用機会はかなり少なくなる様ですし…」


「誘導兵器は、ワイバーンの様な航空戦力に効くだろうが、地竜やら歩兵集団に対しては砲弾の方が安上がりだ。しかも相手には対砲レーダーも砲弾を躱せる高い機動力も無い。わざわざ誘導兵器を用いる必要性が低いのなら、ただの砲弾で叩いた方がいい」


 藤田はそう言い、テーブル上の地図の一点に指を指した。

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