夢の旅路
注文の多い死刑囚
一夜目
……こんばんは。
ここに人が来るのは、久しぶりかな。
(SE ぺらりと本のページを捲る音)
夢の世界へようこそ。
起きたら……いや、この世界では眠りについたら、のほうが正しいかな。
意識を飛ばした瞬間忘れてしまう、そんな泡沫のような世界だからこそ、気兼ねなく寛いでいくといい。
(SE ぺらりと本のページを捲る音)
…私?私はここに住むものだよ。
そうさな……響きが悪いが、夢魔とでも言う方が伝わるのかね?
ともかく、気にしないでくれていい。ただ居るだけだ。多少の物音はするかもしれないが、君の安寧を邪魔するようなことはしないよ。
(SE ぺらりと本のページを捲る音)
(間)
(SE ぺらりと本のページを捲る音)
……どうしたんだ?寝ないのかい?それが一番手っ取り早いし、ここに来ると強弱はあれど眠気に襲われるはずなんだけれど……寝れなかったりするのかな。
……君のような子はたまに来るんだ。余程現実の方で深く眠っているのか、こちらから干渉しないとどうしようもない子。……まぁ、仕方がないか。
(SE パタンと本を閉じる音)
(SE 木の床がぎしりと歪む音)
(SE 近づいてくる足音)
(声 距離が近くなる)…寝かしつけ、という奴だ。一度意識を飛ばせば、君が元いた世界に逆戻りするからね。君が寝るまで、他愛もない話くらいはしてみよう。人肌も効果があるだろうし…いや、正確には人ではないんだが。まぁいい、少し動かすよ。
(SE 衣擦れの音)
(声 ここからトーンを落として)
…どうかな、膝の上は。体温がよく感じられるということで、君のような寂しがり屋が寝るのにはうってつけだそうだ。
…温かい?別に、夢でも感触はあるさ。ただ、起きた時に君が覚えていないだけ。
(SE 頭を撫でる音 間隔を空けて不定期に続ける)
一人の夜が好きな人もいるが、こんな場所に来てしまう時点で、君はきっと温もりを求めているんだろうね。気付いているのか、いないのかは知らないが。
………そういう場所なんだよ、ここは。君のような子だけが迷い込む、不思議な場所。起きた時には忘れてしまうけれど。
(間)
もう、慣れたものさ。別に、人の子を寝かしつけるのが嫌いなわけじゃないからね。好きに喋れる相手というのは、中々便利……面白い……いや、可愛いものだし。
(間)
(声 誤魔化すような軽い咳払い)
…そうだな、折角だから、寝るまで私の好きなものの話でもしてみようか。
眼を閉じて、想像してごらん。濃紺の夜と、煌めく星空。それを寝転びながら見上げて、静かな空気を身体いっぱいに取り込むんだ。
(声 ここから暫く声をゆっくりと)…ひとつ、ふたつ。息を吸うごとに、自分が自然と一体になったように感じる。涼しい夜風に攫われて、木の葉のように舞ってみたくなる。夜空に取り込まれて、優しい月の光をずっと浴びていたくなる。
(SE しばらく掌で優しく叩くタッピング音)
…そういう、夜の景色が好きなんだ。
こういう語り口は、どうかな。君も、楽しんでくれるといいんだけれど。
(SE 掌で優しく叩くタッピング音)
深夜の湖面なんかは、鏡のようにもなる。
満点の星空を、映し取ったかのように綺麗な空が、私たちの足元で揺らめいているんだ。
掴もうと手を伸ばすと、染み入るような冷たさがじんわりと指を包む。
波紋が星空を穏やかに揺らすのが楽しくなって、ぱしゃ、ぱしゃと手を動かしてみて…あは、冷たいね。
(SE 掌で優しく叩くタッピング音)
(SE 水の中でたまに手を動かす音)
(長めの間)
静寂だった世界に水音と、私たちの息遣いが増える。夜をふたり占めするような気分かな。
…うん?音がする?……そうだね、ここは、夢の世界だから。
君があると思えば音がする。感触は…どうだろう、君の想像がリアルであればあるほど、感じ取れるかもしれないね。…ふふ、私の温かさも感じるのかな。
(SE すりすりと肌を撫でる音)
どう?温かい?
(間)
はは…続きを見ようか。
(SE 水の音終わり)
そうだな、今度は………緑の溢れる森林の中、どうだろう。
あまり、生き物がいないような、どこか神聖な木々の隙間。
微かな日差しに照らされながら、背の低い草むらをベッドがわりに寝ていると、一つ爽やかな風が吹いて……。
(SE 風が吹いて葉が動く音 続ける)
葉のさざめく音と。
(声 少し距離が近くなる)
私と。
(声 かなり距離が近くなる)
君だけ。
(SE 掌で優しく叩くタッピング音)
(間)
…残りの時間は、ここで過ごそうか。
案外、木の葉の音が気に入ってしまった。君も楽しんでくれたら何よりだ……。
(SE 掌で優しく叩くタッピング音)
(長い間)
…起きたら、つまりここで寝てしまえば、忘れてしまう。
そして、たいていの子はもう来ないんだけれど…君は、どうかな。いっとう疲れているようだから、深い眠りが一度だけで済むようには思えない。
──珍しい、2回目の来訪があるかもね。
……だから、少しだけ特別な御呪いだ。起きたらこのことは忘れてしまうだろうけど、もう一度ここへやってくるようなことがあれば、今夜のことを思い出せる…かもしれない、御呪い。
(SE 掌で優しく叩くタッピング音)
(間)
…あまり期待しすぎないようにね。さっきも言った通り…ここに来るということは、疲れている証拠でもある。そんな状態にそうそうなれるわけじゃないんだから。
…話していたら、そろそろのようだね。
意識が覚めるまではこうしているから…ゆっくり、おやすみ。
(SE 掌で優しく叩くタッピング音フェードアウト)
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